金魚をモチーフとした詩や童謡では、北原白秋の『
トンボの眼玉』に収録の「金魚」がとりわけ有名な気がします。その残酷な数え歌のような内容から、ミステリ小説やドラマにもよく登場するので、知っている人もいるかもしれませんね。
今回のミニ展示「金魚〜涼をもとめて〜」でも展示している山田正紀のミステリ『
金魚の眼が光る』は、「母さん怖いよ、眼が光る。ピカピカ、金魚の眼が光る。」という最後のフレーズから。作中では北原白秋の親友、夭折の詩人・中島白雨の死が重要な要素となっています。
新美南吉「
金魚」は、「或る晩君は君の小さい世界が、さかさまに見えるのでびっくりする/つまり君は仰向きに浮いたのだ/こいつは少々具合がわるいと君は思う/全くそうなのさ」というフレーズで始まります。金魚を「君」と呼ぶ飼い主「僕」の視点で、金魚の死を残酷でありながらも、どこかユーモラスに描写しています。
『
金子みすゞ全集 2 空のかあさま』には、金魚の詩が2つ収録されています。「金魚のお墓」は金子みすゞらしく、墓に葬られ、冷たい土の中にいる金魚の気持ちを想像して書いた優しい詩です。月と花と金魚が「いきするたびごとに」吐き出すものについて詠った美しい「金魚」という詩もあります。
そういえば、萩原朔太郎は『
純情小曲集』の中で、「金魚のうろこは赤けれども/その目のいろのさびしさ/さくらの花は咲きてほころべども/かくばかり/嘆きの淵に身を投げ捨てたる我の哀しさ」と、金魚の華やかさとうらはらな淋しさを抒情性豊かに描いていますが、彼との友情を「二魂一体」と呼んだ親友・室生犀星の「金魚のうた」(『
動物詩集』所収)は正反対のイメージ。「金魚はびっくりしてうんこをした」から始まり、最後は「うんこはかなしげにういてしずんだ」。うんこが「かなしげ」・・・。
さて最後にご紹介した室生犀星はともかく、近代文学の文豪たちが書いた「金魚」にまつわる作品は、どこか「死」や「哀しみ」に近しいイメージの作品が多いですね。
金魚は、死者が還って来る夏に愛でられる魚。金魚鉢や池のような囲われた場所で愛玩される人工的な魚。広い海に出たら死んでしまう淡水魚。
水のなかでゆらゆらと揺らぐ姿が、どこか儚い印象をあたえるからかもしれませんね。