本蔵-知る司書ぞ知る(126号)
本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。
2025年4月20日版
今月のトピック 【人生の新しいステージを迎えた人達へ】
暖かい春、そして新年度がやってきましたね。
今回は、新年度になって人生の新しいステージを迎えた人達に役立ちそうな本を3冊ご紹介します。
『大学生学びのハンドブック:勉強法がよくわかる! 6訂版』(世界思想社編集部/編 世界思想社 2024.3)
高校と大学との最も大きな違いは、大学では自由に授業を選択して何を学んでいくかを自分の意思で決めることができるということでしょう。授業を教わる高校の「生徒」ではなく、自ら学ぶ大学の「学生」というように、呼ばれ方も違います。この本では、高校と大学の違いのほか、ノートのとり方、レポートの書き方、図書館を活用した文献の探し方など、大学の新入生に向けて学びの基礎となる内容が簡潔に掲載されています。随所にイラストや写真を使いながら順を追って説明されているのでわかりやすいですよ。高校とのギャップに戸惑うことなく充実した大学生活を過ごすために、まずはこうした本を読んでみるのはいかがでしょうか。
(大学生になった皆さん、ご入学おめでとうございます!)
『就活・就労のための手話でわかるビジネスマナー:聴覚障害者と聴者のコミュニケーション』(竹村茂/著 たかねきゃら/絵 ジアース教育新社 2016.9)
ビジネスの場での手話表現を学ぶことができる本です。掲載されている言葉の数は多くないですが、特に新社会人となる聴覚障がい者にわかりやすい内容であることが特徴です。身だしなみ、報告・連絡・相談、名刺の受け渡し方などの基本的なビジネスマナーもわかります。また、聴者にとっても、聴覚障がい者の特性や文化の理解と配慮に役立ちます。聴覚障がい者と聴者がこうした本をともに読んで、円滑にコミュニケーションをとることができるような関係や職場になるといいなと思います。
(社会人になった皆さん、ご就職おめでとうございます!)
『定年後に読む不滅の名著200選(文春新書1442)』(文藝春秋/編 文藝春秋 2024.3)
「定年退職して何もすることがない……」なんて思っている人、もしよかったらその時間は読書をして過ごしませんか。まずはこの本を使って読みたい本を選んでみましょう。豊かな読書体験を持つという各界の識者達が選んだ様々な本が、名著として200冊も紹介されています。もし以前に読んだ本であったとしても、定年までの歳月を重ねた今あらためて読んでみると、また違った解釈や味わいができるかもしれません。どんな本が掲載されているのか。それはここでは秘密としておきますので、実際にこの本を開いて確かめてみてください。そして、選んだ本を読むために図書館をご活用していただければ、幸いです。
(定年を迎えた皆さん、おめでとうございます。お疲れさまでした!)
今月の蔵出し
『温泉の経済史:近代日本の資源管理と地域経済』(高柳友彦/著 東京大学出版 2021.2)
「やっぱり温泉はいいね~。」
そんな親の言葉に、幼い頃の私はまったく共感できませんでした。家族旅行で温泉に入っても、家のお風呂より広いことくらいしか違いが感じられなかったからです。
大人になった今では、旅行や趣味の登山に出かけるときは、行き先に温泉が無いか必ずチェックしてしまいます。身体が芯まで温まって時間が経っても足先までぽかぽか、いつもより肌の調子が良くなり、日々の生活でたまった疲れがとれる、そんな温泉の良さが分かるようになったことが、嬉しいような、ちょっと悲しいような……。
歴史の古い温泉だとありがたみが増すような気もしますが、「温泉の歴史」というと、旅行・観光や湯治、あるいは開湯にまつわる伝説などをイメージしがちではないでしょうか。
この本では、自然資源としての温泉に着目し、明治初期から第二次世界大戦期における日本の温泉地を事例に、資源利用・管理と地域経済・社会の発展とのかかわりについて分析しています。
私的所有に基づいて開発・利用されてきた温泉の利用をめぐって生じた問題に対応するために、地方行政機構などの「公」的機関・組織が温泉資源の利用・管理に介在するようになった過程が書かれていて、温泉についての新たな視点を与えてくれました。
利用客数増加にともなう湧出量の減少など、温泉資源の利用・管理については、現在も各地で課題になっています。
ゆっくりと温泉に浸かりながら、その温泉がどのように発展してきたのか、これからも利用し続けるためにどのように管理されると良いのか、思いを巡らせたくなる一冊です。のぼせや湯疲れにはお気をつけください!
【どんぐり】
『ルイ・ブライユの生涯:天才の手法』(C.マイケル・メラー/著 金子昭/共訳 田中美織/共訳 水野由紀子/共訳 日本点字委員会 2012.6)
以前、「本蔵-知る司書ぞ知る(111号)」で、『闇を照らす六つの星:日本点字の父石川倉次』を紹介した際にも述べましたが、日本のかな文字点字は、東京盲唖学校の教師であった石川倉次によって考案されました。一方、現在世界で普及している6点点字は、1825年に、パリの国立盲学校(以下、盲学校という)の生徒であったルイ・ブライユによって考案されたものであることが知られています。
今年は、ブライユが点字を考案してから、ちょうど200年という節目の年にあたります。それにちなみ、今回はそのブライユの生涯や功績を描いた伝記を紹介いたします。
本書は、2006年3月6日に発行された『Louis Braille: A Touch of Genius』の翻訳書です。著者のC.マイケル・メラー氏は、イギリス出身の歴史家でブライユ研究の第一人者として知られており、執筆にあたっては、盲学校所蔵のブライユの手紙(口述・直筆)を英語に翻訳し、数多くの文献を参照するなど、研究にしっかりと裏打ちされた内容となっています。
本書の前半では、幼少期に事故で視力を失ったときのこと、生まれ育ったクーブレ村のこと、盲学校での生活といったブライユの生い立ちについて、後半では、ブライユがどのようにして点字を創り上げたのか、盲学校の教師となってからのこと、点字がどのように広まっていったのかなどについて、ブライユの手紙の内容を紹介しながら、写真や図版とともに、詳しく書かれています。
また、所々にコラムも掲載されており、たとえば、「ブライユ点字の論理」と題するコラムでは、ブライユ点字におけるアルファベット・数字の点の配列の特徴や覚え方が書かれており、興味深いです。
視覚に障がいがある方が自由に読み書きできる文字として、世界中で使われている点字。この機会に、本書を通して、その成り立ちや、考案者であるブライユについて、学んでみませんか。
【NM】