図書館のもう1つの役割
数ある黒澤映画のうちどの映画かは覚えていませんが、その昔、劇場で公開されたときに、2本立て映画として森繁久弥さん主演の「社長漫遊記シリーズ」と一緒に公開されたことがあるそうです。 今や世界中から賞賛されている偉大な黒澤作品も、当時としては観客の入りが不安だったため、人気の高かった社長シリーズと同時公開ということになったものと思われます。(と言っても、なにも、森繁さんの映画を不当に評価しているわけではありません。) 黒澤作品の評価は、むしろその後になって、とくにハリウッドの著名な映画監督や評論家などからの絶賛が相次いだことによって次第に高まりを見せて、現在のような不動の地位を築いたとも言えます。 このように、優れた文化とか芸術の本当の価値が、同時代において、すぐに高い評価を得るというのはなかなか難しいことです。 音楽の世界でも、今、高い評価を得ているクラシックの作品群も、多くは同時代にはそれほど高い評判のものはむしろ少なく、長年かかって演奏家のひとたちなどによって受け継がれてきた努力が実を結んだとも言えます。 代表的なのは、あのバッハでして、モーツアルトがバッハ一族の1人とつきあっているうちに、「大バッハ」の偉大な作品の数々を発見し、世に広めたともいわれています。つまり、天才モーツアルトがいなければ、大バッハの音楽が今ほど広く現代にまで伝わることがなかったかも知れないし、またその音楽を後世伝える努力を惜しまなかったバッハ一族を始めとする多くの人々の功績を忘れてはいけないと思います。
出版文化の世界においても事情は同じでして、いわゆるベストセラーと言われる多くの書物はもちろんそれだけで価値の高いものも多いとは思いますが、歴史的に名著といわれる書物類でも、年月の経過とともに評価が高まってきたものも少なくありません。 それら書物の多くは、過去には国の内外を問わず、図書館などが中心となり、その時代に応じて積極的に収集・保存してきたものです。 府立図書館の使命としては、幅広く、府民の皆さんに読書に親しんでもらうための機会をご提供することはもちろんですが、時代に応じた貴重な書物類を収集・保存して後世の人々に伝えていくことも大事なことと考えております。
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2010年4月9日 タンゴ