大阪府立図書館

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本蔵-知る司書ぞ知る(113号)


 
本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2024年3月20日版

今月のトピック 【落語】

2024年2月25日に、東京の落語協会が誕生100周年を迎えました。当館ではこれにちなんで、資料展示「笑門来福:落語を楽しむ」を開催しています(3月24日まで)。今回は、落語にまつわる本を3冊紹介します。

演芸場で会いましょう:本日の高座その弐 』(橘蓮二/著 講談社 2023.4)

長年にわたり落語の世界を撮り続けてきた橘蓮二による写真集。取り上げられている囃家は200名以上に及びます。その最初を飾るのは、上方の若手落語家 桂二葉さんです。なかでも著者が「矢も盾もたまらず気付けばカメラを手にファインダーを覗いていた」*という、楽屋でおかっぱの前髪を切り出した時の二葉さんの写真は印象的です。さまざまな芸人の魅力あふれる一瞬を切り取った写真を見ているうちに、演芸場へ行きたくなってくること間違いなしです。

*橘蓮二「落語界における素数」『図書』第900号(岩波書店 2023.12)p.26-29

食べる落語:いろはうまいもんづくし』(稲田和浩/著 教育評論社 2006.12)

芋、ロバのパン、はんぺん、二八そば、落語に出てくる食べ物が、いろはの順に紹介されます。江戸時代の落語から現代の新作落語まで、噺の中にはその時代ならではの食べ物が登場します。当時を生きる庶民の暮らしが、落語に出てくる食べ物から鮮やかに立ち上がります。落語家による食べる仕草の写真や、落語の演目の解説も掲載されています。

道具屋殺人事件 (ミステリー・リーグ 神田紅梅亭寄席物帳)』(愛川晶/著 原書房 2007.9)

落語をこよなく愛し、大学では落語研究会に所属していた著者による、本格落語ミステリーです。主人公の亮子と落語家の夫・寿笑亭福の助は、寄席で次々に起きる事件に巻き込まれます。そこで二人が頼ったのは、脳血栓で引退した師匠・山桜亭馬春。師匠から得たヒントをもとに福の助が落語を演じると、事件が見事に解決していきます。結婚まで落語に縁がなかったという亮子目線で進むストーリーは、落語初心者でも分かりやすく楽しめます。シリーズは第6弾まで刊行中。

今月の蔵出し

お母さんが読んで聞かせるお話 A』(富本一枝/著 藤城清治/著 暮しの手帖社 1982)

本当に蔵出し。子どものころ母親に読んでもらっていた思い出の本です。もう1冊、『お母さんが読んで聞かせるお話 B』(富本一枝/著 藤城清治/著 暮しの手帖社 1979)もあります。

「笠をかぶったお地蔵さん(笠地蔵)」といった日本の昔話からグリム童話、外国の民話、童謡や詩などをもとにしたおはなしが20話ずつ収録されています。著者は、明治26年に富山市で生まれた富本一枝。平塚らいてうのもとで仲間と共に『青鞜』の編集に携わり、尾竹紅吉という筆名で絵や文章を書き活躍し、日本画の展覧会などでも受賞歴のある女性です。そんな彼女が雑誌『暮らしの手帖』に藤森清治の影絵と共に13年間連載したものを、彼女の死後まとめたのがこの2冊。もちろん、この本にも藤森清治の影絵による挿絵もいっしょに掲載されています。

児童サービス担当になり、読み聞かせやストーリーテリング(素話)の体験を始めたとき、そういえば母親に読んでもらっていた本があったなとふと思い出し、所蔵を確認することにしました。ところが、なぜか装丁は鮮明に覚えていたのに、タイトルがうろ覚え。しかもそのころは図書館がまだコンピュータ導入の前で、検索エンジンやOPACに言葉を入れれば何かがヒットする時代ではなかったため、記憶を絞り出すことになりました。どうにか出てきた言葉は「お母さん」「読んで?」「語り?」「おはなし?」こんな感じのタイトルだったというおぼろげな記憶から、必死に探しました。

なんとかたどり着き、ちゃんと所蔵があって、覚えていた通りの装丁の本を手にしたときは感動でした。当時の記憶もさらに引き出され、懐かしくページをめくりました。挿絵で添えられている藤森清治の影絵は特徴的で、どれもこれも記憶にあるものと同じ。おはなしも、昔話や民話を短くまとめるのでなく、きちんとしたストーリーをよみやすい、わかりやすい文章で、聞いている子どもでもわかるように表現されていることが実感できました。

一晩で1話読んでもらったこともあれば、何日かかけて読んでもらったり。読んでもらう前やおはなしを聞いていたときのドキドキワクワクした気持ちは今も思い出します。そんなワクワクを届けたいと、この2冊に収録されているおはなしをいつかストーリーテリングで語るという野望を抱いています。おはなし会を覗いていただいたら、もしかしたら語っているかもしれません。

【企鵝】

ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち 上・下』(リチャード・アダムス/[著]  神宮輝夫/[訳]  評論社 1975)

タイトルのとおり、うさぎたちの物語です。でも、かわいらしいファンタジーではありません。あるうさぎ村で暮らしていた若いうさぎたちが、村に迫る災厄から逃れるため、仲間たちと共に村を脱出します。

主人公のヘイズルをはじめとする、個性的なうさぎたちが一丸となり、時には衝突しながらも、襲い来る天敵、銃を持つ人間などの危険をかわし、安全な新天地を求めて旅を続けます。人間ならどうということはない川や舗装道路も、うさぎにとっては恐怖と困難の連続。徹底的にうさぎ目線で描いた作者の想像力に引き込まれます。

この物語では、うさぎは独自の文化や言語、ことわざ、詩、神話を持つ存在として描かれています。随所で語り部のダンディライアンが語る、うさぎの英雄エル・アライラーの物語は、痛快ながらも教訓があり、そこだけ読んでも楽しめます。ひとつ印象に残った物語があります。エル・アライラーは一族を存亡の危機から救うため、死神的存在「インレの黒うさぎ」と取引をします。心身ともに傷を負ったエル・アライラーが一族のもとに帰ったとき、若いうさぎたちはエル・アライラーのことも過去の危機のことも知らずに、日々を謳歌していました。このときのエル・アライラーの言葉「先達のおくりものによってぶじに生きている現在をわきまえないうさぎというものは、自分ではそう思っていなくても、ナメクジよりあわれなものです。」は、遠い未来のヘイズルたちの子孫、ひいては作者の生きた二つの大戦後の社会へ向けられているような気がしてなりません。

つらい旅を経て自分たちの村を興し、存続のため仲間たちと過酷な試練に挑む、主人公ヘイズルの一代記ともいえる、大冒険の物語です。

【卯】

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