大阪府立図書館

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本蔵-知る司書ぞ知る(112号)


 
本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2024年2月20日版

今月のトピック 【気になる!からだの本】

2月は1年の中でも寒く、体調管理が気になる季節です。中央図書館の1階貸出カウンター前では、資料展示「気になる!からだ・こころ」を開催しています(2月29日まで)。今回は展示資料の中から担当者オススメの3冊を紹介します!

<あまり>病気をしない暮らし 』(仲野徹/著 晶文社 2018.12)

大阪出身の著者が語り掛けるような文体で、体や病気のことを教えてくれます。第6章の「(できるだけ)風邪をひかないくらし」は、今の時期にぴったり。「(できるだけ)」という表現に「うんうん。どんなに予防しても、風邪をひくときはひいちゃうからな」と緩いモードに。これからはもう少し自分の体を気づかおう!と思いながら楽しく読めます。

どもる体(シリーズケアをひらく)』(伊藤亜紗/著 医学書院 2018.6)

身体的吃音(きつおん)論の本です。「この本のテーマである『どもる』とは、そんな『体のコントロールが外れた状態』」と序章にあります。吃音に限らず、体が勝手に動くこと、私にもあります。普段意識していない発音について、目からウロコが落ちること間違いなし。表紙の絵をはじめ、テンポよく展開する明るい挿絵も魅力的です。

オランダ絵画にみる解剖学:阿蘭陀外科医の源流をたどる』(フランク・イペマ/著 トーマス・ファン・ヒューリック/著 森望/訳 セバスティアン・カンプ/訳 東京大学出版会 2021.1)

オランダ絵画と言えば『夜警』を描いたレンブラント、そう、絵がとてもうまい人!そんな画家たちが描いた解剖学講義の様子……なので、絵がリアルです。時には解剖中だというのに周囲の人は澄ました様子で描かれていたり、頬杖をつく骸骨がいたり、ユーモラスにも見えます。美しい絵とともに当時のオランダ医学を知ることができます。

今月の蔵出し

天の赤馬(創作児童文学4)』(斎藤隆介/著 滝平二郎/画 岩崎書店 1978)

教科書でもおなじみ『モチモチの木』『花さき山』などの作品で知られる斎藤隆介さんの長編です。

江戸時代、凶作にあえぐ貧しい農村の少年・源(げん)は、イワナを狙って川をさかのぼるうち、いつしか立入が禁止されている赤馬山に入り込み、見た者は必ず死ぬという、真っ赤な夕焼け空にうかぶ「天の赤馬」を見てしまいます。実は赤馬山には藩の隠し銀山があり、藩は囚人を送り込んで死ぬまで働かせ、幕府に露見しないよう銀山の存在を知った者は生かして帰さないという秘密がありました。銀山の役人に見つかり命を狙われた源は、囚人たちのリーダー・伝吉にかくまわれ、そこで囚人たちの蜂起の計画を知ります。ふもとの村の一揆の企てと同時に起そうという伝吉の話を聞き、山と村との命がけの連絡係と引き受けた源。そして事態は一気に動き出します。

この本は小学生のときに、たしか宿題で読むことになった本だったと思うのですが、私にとって今でも心に残る作品となりました。この本を紹介するために改めて読み返したところ、実のところ話の筋はあまり覚えていなかったのですが(…)、ずっと心に残っていたのは、殺されることを覚悟した源の、心の動きを描いた次の一節です。

「源は、その胴震いを見つめ、その中にむんずとすわりこんだ。いつもの例の手だ。こわかったらこわいものから逃げ出さず、そいつの頭に尻をのっけて、しばらく動かないでいるのだ。
そうすると、しずかにしずかに胸の中で何かが動いて育ってくる。今度はそれに目を据える。それを見つめ続ける。やがて源は、自分が、前のこわさを乗り越えてしまっていることに気がつくのだ。」

勇敢で、しっかりものの源とは真逆の、小心者の私ですが、年月がたって大人になってからも、不安におそわれたとき、何か大きな決断をしないといけないとき、こわくて逃げ出したくなったとき、ふとこの一節が思い出され、自分を支えてくれるような気がします。こわがりは治りませんが。

子どものときに読んだ本が、どこかで自分の一部になっている。本にはそんな力があるのでしょう。みなさんそれぞれのそんな本たちと、図書館で再会してみませんか。

【M】

相互扶助論 新版』(ピョートル・クロポトキン/著   大杉栄/訳 同時代社編集部/現代語訳 同時代社 2009.3)

著者のクロポトキンも訳者の大杉栄もアナーキストとして著名な人物です。無政府主義者と訳されるアナーキスト。ここだけをみれば政府を転覆する過激な主張が記載されている本と思いきや、全くそういったものではありません。

クロポトキンの依って立つ考え方は明確です。個別的な生存闘争に勝つことが進化の主要な要因ではなく、相互に助け合う社会こそが進化に必要である。そのことを数多くの例証を引いて主張しているのがこの本の内容となっています。
これらの例証は生物学者でもあったクロポトキンらしく動物の相互扶助から始まって、人間の歴史(氏族社会、村落共同体社会、中世都市社会、近代社会)に及んでいます。

最後の部分でクロポトキンは次のように言っています。
「人類の道徳的進歩においては、相互闘争よりもこの相互扶助の方が主役を勤めていると断言することができるのである。そしてまたわれわれは、この相互扶助が今日なお広く拡がっているということに、われわれ人類のさらに高尚な進化の最善の保障を見出すのである。」

このようにけっして過激な内容ではないアナーキストによるこの本。今からみればけっして「相互扶助が今日なお広く拡がっている」とは思えません。
しかし、松村圭一郎は2016年の熊本地震の避難所でトイレの水を汲みにいく「やんちゃそうな中学生」、食材を提供して炊き出しをする居酒屋さん、近所の人と一緒になって空き家となった祖母の家で雨の晩を過ごした松村の母を描いています(『くらしのアナキズム』ミシマ社 2021年)。また、『一冊の本』*に連載されていた小川さやかの「無条件の条件:「なぜ人は人を助けるのか」の人類学」(2022.7-2023.5)ではモノがないなりに工夫するタンザニアの人たちの明るい姿をみることができます。

「相互に助け合う」ということが表立って拡がっているとは思えませんが、人間の奥底にある本質なのかもしれません。
さまざまなものが数値化され競争を強いられる現在において、人間の進化(進歩)は「相互扶助」にある、というクロポトキンの言葉が新鮮に感じられます。

*の資料は館内利用のみです。

【茶風鈴】

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