大阪府立図書館の活動評価について(外部評価報告) 平成25年度
更新日:2014年12月7日
平成26年10月
大阪府立図書館協議会 活動評価部会
今回の活動評価は平成25年度から27年度までの3カ年を対象とした大阪府立図書館の「重点目標」について、それぞれの重点目標ごとに設定された「重点指標の達成度」とあわせて「重点目標達成に向けた他の取組の状況」を勘案した25年度の活動を評価するものとなっている。平成25-27年度の重点目標は前期からの5つの「基本方針」を受け継ぎ、これをさらに深めていくものとなっている。
長期的方針として位置づけられる「基本方針」の維持は当然であると考えられる。このため本報告では5つの基本方針に沿って、この基本方針を深めるために掲げられたそれぞれの「重点目標」と個々に設定された「重点指標」の妥当性を、まず確認することとする。そのうえで活動評価の内容について検討していく。
1.「基本方針1」
(大阪府立図書館は,市町村立図書館を支え,大阪府全域の図書館サービスを発展させます。)
重点目標として「市町村への資料提供、図書館間連携・協力の強化」「府域図書館職員を対象とした研修」「他機関との連携」「調査・研究活動、専門性の向上」の4項目が掲げられている。大阪府全域の図書館サービスの発展が、府域の図書館への支援状況を具体的に示す協力貸出、府域の図書館ネットワークの基礎となる人材育成、これからさらに重要性の高まる図書館以外の機関との連携、それらを下支えする大阪府立図書館職員の資質向上という4点でおさえられている。「基本方針1」に関して、この4点は重要な項目である。 平成25年度には協力貸出資料の貸出対象範囲を拡大しているにもかかわらず、市町村立図書館への協力貸出冊数は前年度比5%以上の減少となっている。いっぽうで市町村立図書館間の相互貸借を反映した市町村間物流冊数は目標値を上回る実績を示している。府立図書館の提供している横断検索機能など府域の書誌情報提供についての基盤整備が、市町村間の相互貸借を活発なものにしている側面があると考えられる。この点から、協力貸出と市町村間物流の資料についての分析をさらに進められたい。例えば、府立図書館の協力貸出資料と市町村間物流資料とのサンプル抽出による比較などの基礎データ整備が望まれる。市町村が府立図書館の蔵書に期待しているものを明らかにしていくことは、府立図書館のこれからの蔵書構成を考えるうえでも欠かせないことである。
図書館職員の研修事業で、特に参加者数が前年度に比べて倍以上に増加しているのは、府立図書館が研修の充実に向けてのさまざまな工夫を重ねた結果であろう。出前講習や体系的な研修計画の試みなどは高く評価できる。これらの研修が図書館職員一人一人のキャリア形成に位置付けられるような仕組みがあれば、研修への参加意欲をより高めるものになるのではとも考えられる。そのためには、ステップアップ研修体系の構築やポートフォリオ制度の導入などと共に、図書館経営・マネジメント、児童サービス、障がい者サービス、ビジネス支援サービス、電子化推進業務など司書として専門性が求められる分野への研修体制の展開も期待したい。
あわせて府立図書館を始め、少なからぬ府域図書館が業務の委託等を実施している現状に鑑み、受託企業職員等への目配りも引き続き行っていく必要性があろう。
研修事業は職員個々のレベルアップだけではなく、府域の図書館職員の人的ネットワークを強めていく場ともなることから、研修内容においてはそのような観点からの取り組みにも配慮されることを望みたい。
2.「基本方針2」
(大阪府立図書館は,幅広い資料の収集・保存に努め,全ての府民が正確な情報・知識を得られるようサポートします。)
重点目標は「蔵書構築、収蔵能力確保の取組」「レファレンス、資料提供サービスの充実」「ビジネス支援サービスの拡充」「府域全体の障がい者サービス向上」「ICTの進展に合わせたサービス基盤整備」の5項目である。
資料の収集・保存と提供は図書館の基本となる項目であり、これに中期的目標としての利用目的と利用対象に応じたサービスおよび情報通信環境の変化に対応した取り組みを加えることで、「基本方針2」の重点目標はバランスよく設定されたものになっている。
蔵書構築と収蔵能力確保の取組については、残念ながら目標達成に至っていないとの評価結果になっている。特に個人利用者の蔵書満足度の低下をどのように捉え、蔵書構築にどう反映させていくのかは今後の重要な課題となるだろう。国内の公共図書館の貸出冊数が減少に転じたことは、これまでの資料費削減傾向がここに至って利用の面に影響を及ぼしてきたことを示している。府立図書館の蔵書満足度の低下も、資料費の動向に影響されていることは否めないと思われる。もし、府立図書館だからと期待して探した資料が所蔵されていないといったことが重なると、時間をかけて築き上げてきた府立図書館の蔵書に対する信頼が失われてしまう。これからも厳しい財政環境が続くことが予想されるなかで、蔵書構築をどのように行っていくのか。蔵書評価や府域全体での資料保存体制の整備の検討は、この意味からも急がれる課題であろう。
障がい者サービスについては、目標に至っていない要因が明らかであるようなので次年度以降の工夫を望みたい。
リプレイスが完了した図書館情報システムについては、エンドユーザーの評価や反応を確かめておくことも必要であると考える。国立国会図書館のデジタル化資料送信サービスなど、情報通信環境の進展によって他機関のさまざまな情報資源が府立図書館で活用できるようになってきたことは、府立図書館利用者の幅を拡大することにもつながる。府立図書館が主体となった事業であるかどうかにかかわらず、これらの事業に関しては図書館として積極的にアピールしていくべきであろう。さまざまな新しい技術は、提供する側がそれをどのように利用するかということよりも、ユーザーがそれをどのように活用していくのかということで今後の発展の方向性が見えてくるものである。その点からも、従来の図書館利用者だけではなく、インターネットを通した遠隔利用で府立図書館の働きに期待している利用者の状況を把握する努力も求めたい。
3.「基本方針3」
(大阪府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めるとともに、国際児童文学館の機能充実に努めます。)
重点目標は「図書館利用が困難な子どもへのサービス」「子ども読書活動推進、人材育成」「学校支援サービス」「国際児童文学館機能の充実」の4項目である。
国際児童文学館の機能充実を通して、府立図書館にとっての新しい児童サービスを創り出すことがここでのひとつの課題であると思われる。重点目標には府立図書館のこども室での児童サービスそのものに関する項目はあげられていないが、「基本方針3」の推進において、重点目標事業の中核にはこども室の実践がある。
そのなかで、国際児童文学館については積極的な外部資金の活用によって移転資料の再整理が大きく前進し目標を上回る成果をあげている。これによってホームページのアクセスや外部研究機関等との連携はさらに加速されると思われる。基本方針に立ち返ってみたとき、府立図書館の働きを通してこれらの成果が府域で子どもたちの読書活動に関わる人たちに還元されるような活動をさらに充実させていくべきである。
「基本方針3」では学校支援サービスの項目だけが、目標達成に至らなかったとの評価である。特に学校団体利用数が目標の72.5%というのは、学校側のニーズと府立図書館の提供するサービスにギャップがあることに起因していると思われる。学校図書館法が改正され学校司書が法的に位置づけられるようになったことから、学校図書館の存在はより重要性を増してくる。学校現場との結びつきを深めることで、学校が府立図書館に求めていることを的確に把握するとともに、いまだ学校図書館が充実の途上にあるなかでは図書館として学校へ向けての魅力的な提案を積極的に投げかけていく努力が必要であろう。
4.「基本方針4」
(大阪府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。)
重点目標は「地域資料、古典籍の有効活用、大阪に関する情報発信」「専門性を活かした外部連携」「デジタル資料の収集・提供」の3項目である。
図書館における地域資料の位置づけは大きく変化している。収集・蓄積による知的資源の地域における記憶装置としての役割とあわせて、それらの地域で生み出された知を外部へ発信していく役割が期待されている。外部への発信の役割を図書館が担っていることで、そうした地域の知的資源を客観的で信頼性の高い情報として活用することができる。この意味からも「基本方針4」では、外部との連携を含めて、府立図書館からの発信機能を重視した重点目標の設定は妥当であろう。
新規システムにおける「おおさかeコレクション」の運用が開始された。これが実現を目指している「デジタル大阪ポータル」へ着実に展開されていくためにも、現時点での利用者の評価を把握しておく必要があるだろう。Webでの図書館サービスは、これまでの図書館サービスのように利用者の反応が直接伝わってくるわけではない。利用者のニーズに確実に応えられるとともに、さらに利用者の知的欲求を強く刺激するサービスとして創り上げていくためにも、機能の強化にあたっては利用者の視点を欠くことはできないと思われる。また、データベースについては継続的な維持作業が不可欠であり、これを効率的に運用していくうえでも、図書館側の視点だけではなく利用者の視点から検討を進めることは重要である。
ボーンデジタルの大阪府行政資料に関して、府公文書館や各部局との協議が始められたとのことである。コレクションの充実のためには、従来からの紙媒体資料に加えボーンデジタル資料の組織的な収集に向けて、府の行政資料が府立図書館に制度的に集まってくるような仕組みをつくっていくことが必要であろう。
5.「基本方針5」
(大阪府立図書館は、府民に開かれた図書館として、府民とともにあゆみます。)
重点目標は「生涯学習活動の支援、地域の魅力づくり」「インターネットを活用した情報発信」の2項目である。
1項目目の「生涯学習活動の支援、地域の魅力づくり」を評価するために「利用者満足度」「イベント参加者数」と「新規連携先数」が重点指標としてあげられている。目標に対応する数値目標の設定が難しい項目であるが、この項目の評価の理由が施設管理に偏重している印象を受ける。直面する中之島図書館のリニューアルという大きな課題があることからやむを得ない側面もあるが、「新しいタイプの図書館」になるという中之島図書館の実績をもとに「生涯学習」「地域の魅力」という点で真正面から活動を評価することが望まれる。
「インターネットを活用した情報発信」に関してはシステムのリプレイスを受けて、いくつかの新しい試みが開始されている。これらについては、今後その効果の検証を行っていくことが必要であろう。
大阪府立図書館協議会 活動評価部会
岸本 岳文(京都産業大学文化学部客員教授)
○ 北 克一(相愛大学共通教育センター特任教授)
村上 泰子(関西大学文学部教授)
(50音順・○は部会長)
「基本方針と重点目標(平成25-27年度)」およびそれに基づく活動評価について
平成25年度