大阪府立図書館の活動評価について(外部評価報告) 平成22年度
更新日:2011年11月10日
大阪府立図書館が果たすべき使命は、「大阪の未来をつくる図書館をめざして」において「府域の図書館ネットワークの核として、広域的かつ総合的な視点から府民と資料・情報をつなぎ、府民の“知りたい”という気持ちにこたえ、“学びたい”という意欲を育み、豊かで活気あるくらしと大阪における新たな知識と文化の創造に寄与すること」とされている。この使命を実現するために、現在の大阪府立図書館が目指すべき方向を示すものとして5つの「基本方針」が設定され、それぞれの方針を具体化する行動計画として「重点目標」が掲げられている。
図書館が実施する個別の事業は、対応する「重点目標」のなかにそれぞれ「活動内容」として位置づけられ、図書館事業の達成状況は設定された「活動指標」によって評価されることとなっている。
「活動指標」をもとに図書館事業としての個別の「活動内容」を評価したうえで、行動計画としての「重点目標」の達成度が評価される。「重点目標」の評価に府立図書館としての個別事業の優先度や重要度といった視点を加味してなされたものが、「基本方針」についての「総合評価」である。 評価部会としては、まず府立図書館の当面の行動計画として掲げられている「重点目標」の評価をもとになされている「基本方針」についての「総合評価」の結果を検討する。
そのうえで、今回の活動評価の対象となっている「総合評価」そのものと大阪府立図書館の実際の活動との整合性について確認し、それをもとに今後の活動評価に向けていくつかの提案を行う。
1.総合評価について
「総合評価」は「基本方針」の1~5についてなされている。
ここでは、「基本方針」の項目に沿って検討する。
1)基本方針1「大阪府立図書館は、市町村立図書館を支え、大阪府全域の図書館サービスを発展させます。」
「基本方針1」は、府立図書館の使命に掲げられた「府域の図書館ネットワークの核として」という部分にあたる。
府立図書館を中心とした大阪府域全体の図書館資料の有効活用が基本となり、それを充実するものとして職員の研修や図書館間の連携の促進が位置づけられる。
府立図書館からの協力貸出冊数の増加とあわせて、市町村間の資料の物流が大きく増加していることが、特に市町村立図書館も含めての活動の成果として評価できる。
ただ、この「基本方針1」を実現するためには市町村立図書館だけではなく、大学図書館や専門図書館等との協力関係の構築が不可欠であると思われる。使命にある「府域の図書館ネットワーク」とは、公共図書館をはじめとする各種の図書館との連携をも視野に入れたものと思われるが、この「基本方針1」に盛り込まれた「重点目標」では「大阪府全域の図書館サービス」が大阪府下の公共図書館サービスにとどまっているのではないだろうか。「重点目標1-4」には大学図書館等との連携・協力があり、「活動内容」として情報ネットワークへの貢献があげられているが、これはあくまで連携のレベルであり具体的な事業をつくりあげていく協力関係までには発展していない。
「市町村立図書館を支え」ることが府立図書館の最も重要な機能であることは当然であるが、その機能をさらに充実していくためにも、府立図書館が「府域の図書館ネットワークの核」としての役割を果たすうえで、府立図書館に求められていることは何かという検討が必要だと思われる。できれば、そうした検討をとおして府立図書館のもつ可能性を広げていくような、より積極的で新しい試みが生まれてくることを期待する。
2)基本方針2「大阪府立図書館は、幅広い資料の収集・保存に努め、すべての府民が情報・知識に到達できるようサポートします。」
図書館の基盤をつくっていく活動であり、特に長期的な視点での継続的な取り組みが求められる。
e‐レファレンスなどのWebを活用した新しいサービスの試みは一定の成果を上げているが、府域全体を視野に入れた資料の保存体制の構築など、地道ではあるが府立図書館としての基盤整備にかかわる部分について、府立図書館だけではなく市町村立図書館や大学図書館・専門図書館なども加えて、さらに論議を深めるための努力が必要であると考える。
この「基本方針2」にかかわる「重点目標」には、図書館活動のインプットにあたる要素とアウトプットにあたる要素が含まれている。インプットである資料収集・蔵書構築、保存図書館機能、情報環境の整備に対して、アウトプットとしてあげられているのはレファレンス、障がい者サービス、ビジネス支援、遠隔サービスである。
インプットにおいて最も大きな要素は「重点目標2-1」にあげられた資料収集・蔵書構築であり、そのうちのほとんどは資料の購入事業が占めると思われる。しかし、活動内容にあげられているのは電子書籍への対応、資料の購入方法、非市販資料の収集となっていて、購入資料の選定や蔵書構築にかかわる項目は見当たらない。
図書館における資料収集・蔵書構築をどのように評価するのかは困難な課題ではある。これまでに蓄積された図書館の蔵書とこれから構築していこうとする蔵書構成のなかで、新しく整備した資料がどのような意義をもつものになっているのかということは、年間の受入冊数といった数値だけで測定できるものではない。
ただし、この点を評価の対象からまったく除外して、「基本方針2」の「幅広い資料の収集」を評価することが可能なのか、またそのような評価はほんとうに意味のあるものになるのかという問題については検討されなければならない。
さらに、アウトプットでの重要な要素として貸出しサービスが置かれるべきだと考える。これも「重点目標2-3」でレファレンスや資料提供サービスとしてあげられているが、具体的な事業として「活動内容」に取り上げられているのはレファレンスに関する項目だけである。
貸出しサービスについても、資料の収集と同様に年間個人貸出冊数といった数値だけが活動評価の指標ではないと考える。ただし、資料提供としての貸出しサービスを評価の対象から除外することは、やはり今回の「総合評価」においては図書館活動のアウトプットに関しての評価の中心が欠落した印象を与えている。
3)基本方針3「大阪府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めます。」
これまで多くの成果を上げてきた府立図書館の児童サービスを、国際児童文学館の移転という新しい枠組みの中で、子どもの読書環境づくりにどのように生かしていくのかが課題であろう。
これからの国際児童文学館の事業展開については、府立図書館においての機能の位置づけだけではなく、国立国会図書館に国際子ども図書館が開設されたといった周辺環境の変化も含めて、まだ多くの試行錯誤を経なければならないであろう。とすれば、実際の評価についてはもう少し長いスパンで考えていくべきと思われる。
「重点目標」である学校支援などの取り組みが成果をあげているが、子ども読書活動推進事業は、まず子どものための読書環境をどう整備していくかということから始まる。そのためには図書館関係者だけではなく、子どもにかかわる幅広い分野の人たちとの連携が求められる。
図書館といえば読書という固定的な見方が強くあって、図書館の児童サービスが子どもへの読書サービスという側面だけで語られることが多いのではないだろうか。児童サービスは子どもの成長・発達に寄り添って展開されるものであり、その意味で児童図書館員は子どもの生活そのものに対峙して仕事をしているといえる。例えば、地域の図書館が不登校児童の居場所となっている事例などから示唆されるのは、子どもたちからも図書館が読書という側面だけで捉えられているのではなく、自分たちの存在をまるごと受け止めてくれる場所として認識されているということである。
府立図書館の児童サービスは、読書という側面だけではなく、もっとさまざまな子どもたちとのつながりを蓄積してきたはずである。市町村立図書館も含めて図書館の児童サービスが培ってきた経験を、さらに広く発信していくことも必要ではないだろうか。そのための工夫が、幅広い分野の人たちと連携していく契機を生み出すのではと考える。読書という側面からのアプローチだけではなく、子どもへの多角的なアプローチがあってはじめて子どもたちのための、子どもたちの視点に立った読書環境の整備が進んでいくと考える。
4)基本方針4「大阪府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。」
府立図書館における大阪資料や古典籍にかかわるサービスは、質的にも高い水準にあると評価されるものであるが、そうした蓄積をもとにしての情報発信を中心とした新たな取り組みも一定の成果を上げつつあるといえる。
サービスの水準を維持していくためには、府立図書館の内部における情報の共有と人材の育成が不可欠である。マニュアル類の整備やデータベースの充実は、情報を共有していくうえで重要なものであるが、共有された情報がサービスの展開として活用されていくためには、これらの整備の過程において次世代の人材育成ということが意識されている必要があり、そのための工夫がなされるべきだと考える。
それは例えば、組織的な研修の実施とその評価制度をつくるといったことである。
図書館における地域資料の整備やレファレンスといった仕事の多くは、担当職員の個人的な能力や努力によって支えられ発展してきた。そのため、これらの仕事の継承は必ずしも組織的に進められてこなかった傾向がある。図書館内で地域資料に関する段階的な研修プログラムを準備し、職員ごとに研修の結果を評価する制度を整備する。あるいは利用者や図書館員対象の地域資料に関する講座における講師といった仕事も、この研修プログラムに位置づけることで評価の対象とする。このようなかたちで仕事上の知識や経験を継承する仕組みをつくっていくことが必要と考える。職員個人の知識や能力を高めるとともに、職員が努力して身に付けたものを組織として評価することが、特にこの分野における人材育成には求められるのではないだろうか。
5)基本方針5「大阪府立図書館は、府民に開かれた図書館として、府民とともにあゆみます。」
イベント参加者数やメルマガ登録者数などの増加は、これらの事業が利用者から歓迎されていることを示すものであろう。このことはまた、府立図書館に対する府民の関心と期待の高さの表れともいえる。
図書館運営の情報公開にも継続して取り組まれているが、イベントなどを一過性のものとしないためには、こうしたイベント開催などの機会を捉えて府立図書館に関する意見や、利用しての感想を聴く場を設けるなど、図書館に対するさまざまな府民からの反応を受け止める工夫も必要ではないかと考える。府民が抱いている図書館への関心や期待の中身を具体的に語ってもらうことで、図書館が目指している方向とのギャップが見えてくるかもしれない。「府民とともにあゆむ」というのは、図書館側からの情報の公開だけではなく、そうしたギャップを埋めていくための誠実な努力にあると考える。
また、今回の活動評価の結果をホームページに公開し、府民の声を聞くといった、開かれたかたちの府民との意見交換といったことも考えられる。
もちろん、図書館運営に関しては、図書館協議会だけではなく多くの府民や関係機関と論議する場を、府立図書館として設定していくことが求められているのはいうまでもない。
6)全体をとおして
大阪府立図書館は長い歴史と伝統に支えられ、豊富な資料と厚みのある経験を蓄積してきた図書館である。府立図書館の活動は、そうした蓄積をさらに積み重ねていく地道で息の長い努力と、それらの資産を生かすための新しい事業への挑戦というふたつの面をもつ。
「総合評価」をみると、新しい事業に関しては定量的な評価が比較的容易であるのに対して、図書館サービスの基盤を形成していく活動に対する評価が困難なことがうかがえる。
たとえば図書館の蔵書は、フローに対応する部分は図書館資料の利用という数値で測定できるし、その数値は活動結果の評価として一定の意味をもつのに対して、ストックに対応する部分は蔵書冊数をただちに活動結果の評価に結びつけることだけでは、あまり意味をもたない。図書館の蔵書構成全体を評価するなかで、当該年度の図書館の資料収集活動のもっている意味をどのように評価すればいいのかという難しさでもある。
あるいは、量的側面よりも質的側面を重視すべき活動については、評価指標の設定をどこに求めるべきかという問題でもある。
ただし、地道で息の長い努力を必要とする図書館の活動について府民の理解を得ていくためには、もう少し明確な評価軸が工夫されるべきであろう。
2.総合評価の方法について
「総合評価」は、「基本方針」1~5のもとに設定された「重点目標」について、その具体的な「活動内容」の達成度を、定められた指標に基づいて評価するかたちになっている。
府立図書館の活動全体を適切に評価するためには、設定された「重点目標」がそれぞれの「基本方針」のめざす方向と合致していることと、具体的な「活動内容」が「重点目標」の意義を正確に反映したうえで、その達成度を測定するための指標が的確に選定されていることが必要である。
ここでは、いくつかの疑問点を指摘しておきたい。
まず、「基本方針1」においては「大阪府全域の図書館サービス」の発展が目標となっている。「大阪府全域の図書館サービスを発展させます」という方針のなかで、府内の大学図書館や専門図書館などとの関係が、どのように位置づけられているのかが不明である。
また、府立図書館の活動としては市町村立図書館に対する協力貸出が中核となるはずであるが、「重点目標1-2」の「活動内容」にはこれに該当する項目は見当たらない。「重点目標」に取り上げられている市町村立図書館との情報交換や市町村立図書館職員への研修など、ここでの数多くの事業は市町村立図書館への協力貸出の充実として結実するはずであり、この点を評価に反映させるべきであろう。
つまり、「大阪府全域の図書館サービスを発展」させる仕事は、「誰と」「何を」「どのように」することで築かれるのか。その検討を進める責任が、府立図書館には求められているということになる。これらのことは、大阪府全域の図書館サービスの「発展」というときの、「発展」した図書館サービスの具体的なイメージが不明確なことにも因っている。
「基本方針2」については、インプットの中心となる購入による資料収集をとおして府立図書館の蔵書構成をどのように蓄積・発展させていこうとしているのかが、「活動内容」からは見えてこない。資料購入費は、予算面では最も大きな比重を占めているはずであるが、それがどのように生かされていくのかは、府立図書館の評価に大きな意味を持っているはずである。
インプットにおける資料収集とアウトプットにおける資料提供サービスと、ともに「重点目標」にあげられながら、それを具体化した「活動内容」として提示されているのは資料収集や資料提供の周辺事業ばかりとなっている。「重点目標」に対して、それを実現する核となる事業が「活動内容」として展開されていないために、「総合評価」が正確に府立図書館の活動を反映しているのかという点での曖昧さが残る。
「総合評価」を実施することのなかに、その結果を公表することで府立図書館の基本的な働きについての理解を得たいとする意図があるのならば、「活動内容」においてもその働きを適切に表現するべきであると考える。
基本方針3は、やはり府立図書館における国際児童文学館の機能の位置づけを早急に明確化することが必要だろう。国際児童文学館を府立図書館の事業全体の発展につなげていくためにも、関係機関や研究者あるいは関心をもつさまざまな立場の人たちとの協議といったことが「活動内容」に反映されるべきではないかと考える。
基本方針4と5については、先述のとおりであり、ここで特に付け加える点はない。
3.今後の活動評価について
府立図書館の「使命」および「基本方針」については活動評価の前提として設定されているものであることから、その内容に関しては評価部会の検討の対象外と考える。
ここでは「重点目標」と「活動内容」にかかわって、今後の活動評価に向けたいくつかの提案を行う。
なお、今回の府立図書館の活動評価の試みが、府立図書館内部での事業の点検のみを目的としているのであれば、活動内容の項目はその目的に則して府立図書館が設定し評価することで完結する。ただし、この試みをとおして図書館の外部の人たちに府立図書館の事業への理解を深めてもらうことがその目的に含まれているとすれば、「重点目標」および「活動内容」の見直しは必要と考える。
「活動内容」に追加すべきものとしては、市町村立図書館への協力貸出事業(あわせて市町村立図書館で回答できなかったレファレンスへの支援としての協力レファレンスについても考慮されるべきである)と資料収集事業、資料提供サービスがある。
図書館の事業の中核であり、人員・予算ともに大きな比重をもつこれらの事業についてはその現状と成果が図書館の活動評価に確実に反映されるべきである。
将来に向けての検討課題としては、国際児童文学館の問題や特に地域資料に関する人材育成などがあげられる。また、図書館ネットワークや子どもの読書環境整備など府立図書館内部の議論だけでは完結しないことがらについては、まず検討の場を設けることから始める必要があると思われる。
「総合評価」を活動結果の評価にとどめないで、将来に向けての事業の改善や統廃合といったかたちで生かしていくためには、現在の評価の方法に加えて、新しい事業については中長期的な戦略の中での位置づけと目標設定がなされることが、基盤形成にかかわる事業については明確な短期的目標を設定することが求められる。イベントなどの短期的事業については、長期的な図書館の事業という視点からの評価をおこなうことで数値だけの評価に終わらせないこととなり、蔵書の構築や子どもの読書環境整備など長期的な事業については短期的目標による評価が点検の意味を込めた評価となる。ここでの短期的目標設定の手法としては、たとえば「○○次3ヵ年計画」の導入といったことも考えられる。
「基本方針」のなかの「重点目標」の事業の優先度や相対的な重要度が不明なため、「総合評価」が恣意的な読み方をされてしまうおそれがある。また、それぞれの活動の成果がどれだけの予算や人員が投入された結果であるのかなど、評価にあたっての前提条件が不明確なことが、今回の「総合評価」をとおして府立図書館の実際の活動を正確に読み取ることを難しくしている。予算や人員の投入が相対的な事業の重要度を反映しているとすれば、少なくとも「重点目標」レベルでの優先度と重要度を表示する工夫をすべきである。
大阪府図書館協議会 活動評価部会
岸本 岳文(京都産業大学文化学部客員教授)
○ 北 克一(大阪市立大学大学院創造都市研究科教授)
村上 泰子(関西大学文学部教授)
(50音順・○は部会長)