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本蔵-知る司書ぞ知る(88号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2022年2月20日版

今月のトピック 【天気図の本】

2月16日が「天気図記念日」であることにちなみ、当館では展示「天気と気象の本 -天気図記念日によせて-」を2月27日まで開催しています。今回は、展示資料の中から天気図にまつわる資料について、以下の3点をご紹介します。

気象学と気象予報の発達史』(堤之智/著 丸善出版 2018.10)

本書は、古代から現代までの気象学と気象予報がどのように発展してきたかについて歴史的に記述したものです。ドイツの気象学者ブランデスによる世界初の天気図作成のこと、アメリカの数学教授ルーミスによる天気図解析のこと、天文学者ルヴェリエによるフランスでの天気図発行のこと、ドイツの気象学者クニッピングによる日本初の天気図作成のことなども詳しく記されており、世界と日本それぞれの天気図作成の背景について知ることができます。

最新天気図の読み方がよ〜くわかる本 第2版』(岩槻秀明/著 秀和システム 2014.4)

本書は、普段テレビやインターネットで目にするものから、気象予報士が使う専門的なものまで、様々な天気図の読み方を理解するための入門書です。天気図に出てくる用語や、気象予報で使われる様々な天気図・気象資料の種類とそれぞれの特徴、読み方などが豊富な図とともに丁寧に解説されています。また、台風実況・進路情報の見方や、気象警報・注意報、平成25年より運用を開始した特別警報の定義と基準などの解説があり、防災の観点からの気象情報についても知ることができます。

空白の天気図』(柳田邦男/[著] 新潮社 1980)

戦後間もない昭和20年9月に日本を襲った「枕崎台風」は、死者・行方不明者が3,700人以上となり、そのうち約2,000人が広島県下で、とくに被害が甚大でした。本書は、原爆で壊滅的被害を受け、通信網の途絶により伝達体制が整わない中、懸命に気象観測と天気図作成に取り組む広島管区気象台の人々の姿を描いたノンフィクション作品です。航空機事故の原因を追った『マッハの恐怖』を手掛けたことで知られる筆者が、綿密な取材と資料調査を行い、当時の現場の様子を事細かに記しています。

今月の蔵出し

ベージュ』(谷川俊太郎/著 新潮社 2020.7)

大学入試の時期ですね。もう30年以上前になると思うと自分の年齢にそれなりの歴史を感じますが、私が受験した大学は、英文エッセイの試験科目がありました。お題は、「存命する人物であなたが今、会いたい人について、その理由とともに書きなさい」といったものでした。谷川俊太郎に会いたい、と書きました。当時、『詩めくり』(マドラ出版 1984.12=当館未所蔵)という詩集が出版され(のちに筑摩書房から文庫化2009.9)、1月1日から12月31日まで日めくりのように1ページに1篇ずつ書かれた詩を、律儀に1年かけてちょうど読み終えて間がない時だったのです。その詩人が紡ぐ言葉に出合うことがルーティンであり、いかに心が動いてきたかを伝えたい、と考えたのでした。

さて、本書『ベージュ』は1952年のデビュー以来70年を超えて8000以上の詩を創作してきた谷川俊太郎が、88歳(米寿)を迎えて刊行した詩集です。実際にお会いする機会もないまま、そしてこの間、むしろ絵本など児童書の方に親しんでいたので、詩集を手にとるのは久しぶりでした。タイトルから、私の母と同い年だと気づき、ページを開きました。そこには、歳を重ねた詩人の、どこか達観したような言葉がありました。でも、高校生だった自分の、物憂い、やるせない、もどかしい、腹立たしい、そんな気持ちを別のところへ連れて行ってくれた感覚が蘇る言葉もありました。

お気に入りの詩はこんな風に始まります。

この午後、私は何一つすることがない、ただはるか彼方から聞こえてくる微かな音楽のようなものに耳をすます他に。目の前に開かれたページの上の、明朝活字の美しさに心を惹かれるが、その意味を辿る気持ちになれない。文字も自然から生まれた植物の一種ではないか、ふとそんな思いが心をよぎる。

(「この午後」)

本書は、現在のところ、当館1階のYA展示コーナーに置かれています。10代の人たちにぜひ開いてみてほしい1冊です。

【霧】

北条政子』(永井路子/著 講談社 1978.7)

今を去ること数十年前。鎌倉・北条一族の興亡を描いた『夢語り』(湯口聖子/著 秋田書店)という漫画シリーズをきっかけに、十代の私は北条一族沼にどっぷりハマっていました。当時は北条一族についての出版物はほとんどなく、今のようにインターネットもない時代。何でもいいからマイナーな主人公(北条政子・義時の弟、時房)の情報がないものかと探す中、手に取ったのが本書『北条政子』です。

弟だから時房も出るかも、くらいの気持ちで気軽に読み始めたのですが、読み終わった時には、それまでの北条政子のイメージが覆る驚きを味わうことになりました。それまで北条政子といえば、夫の源頼朝を将軍職に就かせ、頼朝亡き後、一族とともに鎌倉幕府の政治を牛耳った一代の女傑というイメージでした。しかし、この小説で描かれた政子は、悪女でも女傑でもなく、夫を愛し、子を心配するごくあたりまえの一人の女性、思ったことをすぐに口に出してしまう、行動してしまう自分を自己嫌悪し、絶えず自分の選択が間違っていたのではないかと逡巡しながら、それでもそのようにしか生きることができない不器用な女性、大切なものを思うがゆえに為したことがなぜか裏目に出て「なぜこんなことになってしまったのか」と嘆きながら、それでも倒れることもできず、決断し前に進むことしかできない、そんな女性でした。

物語は、息子の源実朝を孫の公暁が殺害するという悲劇に見舞われたところで幕を閉じます。ただひたすら愛してきたものを何もかも失い、このまま生きていけるだろうかと自らに問いつつ、政子はそれでも自分の選択の責任を引き受け、「尼将軍」政子として生きていくことを己に課するのです。個人的には北条時房が活躍したはずの承久の乱を永井路子氏の筆で読みたかった、と思いつつも、想像だにしなかった歴史の波に飲み込まれ、必死であがくひとりの妻、そして母の物語こそ彼女が描きたかった政子の姿だったのでしょう。

今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも、北条政子が主人公の義時を食うような活躍を見せていますが、伊豆の土豪の娘として気ままに育った若き日の政子やそれをとりまく登場人物たちのやりとりの軽妙さは、どこか本書と似たものを感じます。本書が刊行された昭和44年(1969)から50年以上の年月が経過しましたが、今読み返してみても、全く古びることなく楽しめる作品です。北条義時、梶原景時ら政子周辺の人物が主人公の連作『炎環』、後白河法皇周辺を描いた『絵巻』もぜひあわせて読んでみてください。

【御書物方同心】


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