大阪府立図書館

English 中文 한국어 やさしいにほんご
メニューボタン
背景色:
文字サイズ:

本蔵-知る司書ぞ知る(69号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2020年7月20日版

今月のトピック 【日本の怪談】

7月26日は幽霊の日。文政8(1825)年、四代目鶴屋南北作の人気歌舞伎狂言「東海道四谷怪談」が初演された日です。人を怨んで出てくる〈幽霊〉のイメージを視覚的に表現し、現在に至るまで多くの怪談文芸に影響を与え続ける作品です。それにちなんで今回は、日本の幽霊や怪談についての本を3点ご紹介します。また当館では現在「小泉八雲と日本の怪談」と題して、「東海道四谷怪談」やその流れを汲む近代文豪たちの怪談本を展示しています。こちらにもぜひ足をお運びください。

文学の極意は怪談である : 文豪怪談の世界』(東雅夫/著 筑摩書房 2012.3)

著者によると、日本は100年ごとに怪談ブームが訪れるようです。およそ100年前の明治時代末期から大正時代にかけても、多くの文豪たちが怪談に耽溺していた時代でした。『東海道四谷怪談』『雨月物語』などの豊穣な江戸の文芸、『聊斎志異』などの中国の怪異譚に加え、欧米からも多くの文芸が日本に流入したこの時代、それらを吸収した文豪たちは各人が工夫を凝らした怪談を著しました。本書は意外な文豪も含め16人を取り上げ、その怪談遍歴について興味深い逸話を紹介しています。日本の怪談文芸の潮流について知りたい人は、同著者の『なぜ怪談は百年ごとに流行るのか』『怪談文芸ハンドブック』もあわせてどうぞ。

幽霊画と冥界 (別冊太陽)』(安村敏信/監修 平凡社 2018.8)

諸説あるようですが、明治43年(1910)刊行の見聞録『さへづり草 松の落葉の巻』(外部リンク:国立国会図書館デジタルコレクション 65コマめ)収録の「足なき幽霊」によると、足を持たない幽霊が描かれるようになった始まりは、日本画写生派の祖・円山応挙の幽霊画なのだそうです。本書はその応挙の幽霊画をはじめ、近代の伊藤晴雨から現代画家に至るまでの数多くの幽霊画や所蔵寺院の情報まで、盛り沢山の内容です。大きな判型で、迫力のある幽霊画をご覧ください。

魂でもいいから、そばにいて : 3・11後の霊体験を聞く』(奥野修司/著 新潮社 2017.2)

本書はノンフィクションライターの著者が、東日本大震災の被災者の霊体験を聴き取り、記録する、その行為の意味を問いながら書かれた本です。取材の旅の中で著者は、被災者の霊体験は遺された人々を前に進ませ、逝ってしまった人々を忘れないためにあると感じるようになります。被災地での幽霊譚を実話怪談作家が小説として再話した『渚にて』もそうですが、個人の霊体験が記録され、怪談という物語として共有される意味―それは、共有した人々がいつか不条理な死の前に立ち尽くしたときに、その心を癒し、立ち向かう物語を自ら紡ぎ出すための種になることかもしれません。

今月の蔵出し

おおきな木』(シェル・シルヴァスタイン/さく・え ほんだきんいちろう/やく 篠崎書林 1976.11

「むかし りんごのきが あって… かわいい ちびっこと なかよし」で始まる1本の木とちびっこぼうやのお話です。いつしかぼうやは大人になり、仲良しだった木のところへ遊びに来なくなります。ある日、ふと木を訪ねてきたぼうやを木は歓迎し、ぼうやの望みを叶えるために、りんごや枝や幹を与えます。

原タイトルは『The Giving Tree』(直訳すると”与える木”)。アメリカで1964年に出版されました。2010年に村上春樹訳でも出版されましたが、私は子どものときに読んでもらった本田錦一郎のこの訳が好きです。すべてひらがなの文章は、声に出して読むと味わいがあります。
成長して少年から青年、老人へと歳をとっていく「ぼうや」に惜しみなく与え続ける木は、ページに入りきらないくらい大きな存在として描かれています。「きは それで うれしかった」という文章が繰り返される度に、悲しくなったり安堵したり、子どもながらにいろいろなことを考えました。誰かに「与える」ことは犠牲ではなく喜びで、「愛する」ということは「与える」こと、と言う人もいます。

この本は、人によって受け取り方が随分違うようです。『書評』<135> 2011年春号(p.279-287)の中では、初めて読んだときに無性に腹が立った、とも述べられています。主観的に読むか、客観的に読むかどうかでも違うのかなと思います。私は子どもの頃木は木であって、性別はないと思っていましたが、原文で木は「She」となっていると知り驚きました。
木はぼうやがいくつになっても、会えたときには「さあ ここで おあそびよ」と言うのですが、大人になって読み返してみると、ぼうやが、昔のように楽しく遊ぶことができない理由として原書で「too big」、「too busy」、「too old and sad」と話しているところが、殊更寂しく思えました。

自分の年齢に重ねてもいいし、周りの人の年齢に重ねてもいいし、読んだ人の立場や価値観でいろいろな解釈ができる本です。10年後、20年後と歳を重ねる度に、この本を手に取ってもう一度読むことができるのを楽しみにしています。

 【祭】

だれでもアーティスト』(ドーリング・キンダースリー社/編  結城昌子/訳 岩波書店 2013.2)

自粛生活が長く続いた今年の春、読者の皆様の中にはおうち時間を読書にあてた方がたくさんいらっしゃるかと思います。私は面白い本を発見し、楽しんでいました。本日ご紹介する本は読んでも楽しい、眺めても楽しい、読んだ後も時間をたっぷりかけて楽しめる、そんな本です。

『だれでもアーティスト』、この本は有名な絵画等の作品を解説し、さらにそれを作ってしまおうという鑑賞と創作を組み合わせた本です。取り上げられている作品は、ラスコーの壁画に始まり、アフリカの部族の仮面、彫刻、抽象絵画、ポップアート等、時代も国も作品のスタイルも様々で幅広いです。

「作品コーナー」では作品に関する解説や作者のエピソードを紹介し、「挑戦コーナー」では写真入りで制作の手順やコツを示しています。

「挑戦コーナー」の例を紹介しますと、ラスコーの壁画では「ラードと暗い色の土を混ぜて」色をつくるところから手順を解説し、アンチボルトの絵では本物の野菜や果物で人の顔を作り、写真撮影することで作品としています。ただ模写するだけではないところが興味深いです。

私は「線と形(『城と太陽』パウル・クレー)」の挑戦コーナー「町をかく」にチャレンジしてみました。クレーが色を愛し、色が絵の中で一番大切なものだと思っていたエピソードや、色相環の説明があり、自分が制作する時も、色作りや隣り合う色の組み合わせで悩んだり考えたりすることが多かったです。自分の手で作品を作ることで縁遠かったアートとの距離が少し縮まった気がしました。

この本は児童書ですが、充実した時間を過ごせて、しかも形に残る作品もできて、大人でも楽しめる本です。完成した作品を額に入れて飾れば、長く過ごす自分の部屋も新しい風景になります。制作中は、忙しい時には感じることのない自分の考え方を新たに感じることができるのでおすすめです。

【河原町しげを】


PAGE TOP