本蔵-知る司書ぞ知る(129号)
本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。
2025年7月20日版
今月のトピック 【年金と社会保障制度】
先日、年金制度改正法が成立し、年金を始めとする社会保障制度への関心が高まっています。そこで今月は「社会の支え合い」の仕組みである社会保障制度に関する本をご紹介します。
『はじめての社会保障:福祉を学ぶ人へ (有斐閣アルマ 第21版)』(椋野美智子/著 田中耕太郎/著 有斐閣2024.3)
社会保険、生活保護、社会福祉制度という幅広い情報がコンパクトにまとまっています。誰を対象とした制度なのか、給付されるものは何か、その費用は誰が払っているのかなど、各制度の構造がつかめるような工夫がされています。
図が多く親しみやすい類書として『図で理解する!社会保障の仕組み』(高橋幸生/著 中央法規出版 2022.12)もおすすめです。
『最新公的年金の基本と仕組みがよ〜くわかる本:受け取りも手続きもこれ1冊で安心!(図解入門ビジネス)』(貫場恵子/著 秀和システム 2024.10)
国民年金、厚生年金の仕組みについてはもちろん、2024年に厚生労働省が公表した財政検証結果(将来の公的年金の財政見通し)についても分かりやすく書かれています。将来の年金制度の方向性を知ることができますので、今後の制度改革の議論を理解するうえでも役立つ本です。
「調査ガイド 年金制度」のページでも年金関係の資料をご紹介しています。こちらもぜひ参考にしてください。
『未来世界を哲学する 第7巻:生活保障と税制度の哲学』(《未来世界を哲学する》編集委員会/編 丸善出版 2025.1)
そもそも「社会の支え合い」とは何なのでしょうか。必要なものなのでしょうか。この本では豊かさの一つに「共通の生活基盤を充実させる」ことを挙げて哲学的に論じています。豊かな社会づくりのための生活保障のあり方を考えさせてくれます。
今月の蔵出し
『ヒョンナムオッパへ:韓国フェミニズム小説集』(チョ・ナムジュ/著 チェ・ウニョン/著 キム・イソル/著 チェ・ジョンファ/著 ソン・ボミ/著 ク・ビョンモ/著 キム・ソンジュン/著 斎藤真理子/訳 白水社 2019.2)
アンニョンハセヨ!今回は韓国の7名の作家による短編小説集を紹介します。
表題作の「ヒョンナムオッパヘ」(「オッパ」は韓国で女性が兄や親しい年上男性につける呼称)は、10年間付き合った恋人(ヒョンナム)への手紙です。主人公は5歳年上のヒョンナムからプロポーズを受けますが、今まで彼が無自覚的に自分をコントロールし続けていたこと、そのせいで自ら考えて行動する機会を奪われてきたこと気づき、断る決心をします。手紙では、出会いからプロポーズまでの出来事を具体的につづり、感謝の気持ちはありながらも、その当時は言い出せなかった本音を淡々と伝えています。
テンポよく説明していく文章は清々しい気持ちになります。さらに、ヒョンナムに、間違えた解釈を与えないように(まるで鋲を打つかのように!)挟まれるコメントも痛快です。
その他の作品も、「このくらいはたいしたことない」と何となくやり過ごしていた違和感や、「いやだな」と思ったけど周囲の雰囲気を壊さないために流していたような出来事が言語化されています。自分が似たような経験をしたことを重ねながら、今さらだけど腹が立ちながらも胸がすく、そんなこってりとすっきりが同居する気持ちになる短編小説集です。
韓国の作家が書く、女性が感じる違和感や生きにくさは、日本で暮らす私にも共通するものがあると思いました。お隣の国の、少し違う文化も楽しみながら読んでください。アンニョン~
【キムパちゃん】
『ま・く・ら』(柳家小三治/著 講談社 1998.6)
寄席に行ったことはありますか。
出囃子とともに落語家が現れ、噺をしては去っていく。漫才やマジック、太神楽などの色物もあります。
大阪では「天満天神繫盛亭」、東京では新宿「末廣亭」、上野「鈴本演芸場」などが有名でしょうか。 大学生の時に落語に出会い、はや幾星霜。最近なかなか行けませんが、座っているだけで次から次へと笑いがやってくる、あの独特の空間が恋しくなります。
落語に関する本は名人のネタ集、解説や評論、小説、絵本など数多く、当館にも多数所蔵があります。今回紹介するのは、惜しくも2021年に鬼籍に入られた人間国宝・柳家小三治の『ま・く・ら』です。
落語の「まくら」とは、本編に入る前のイントロのようなもので、例えば江戸時代の風習などを解説して噺を理解しやすくする役割もあります。小三治のそれはイントロなんてはるかに超越していて、生前「まくらの小三治」の異名をとるほど、面白い。まくらだけのCDもあるほどで、本書はそのCDのための録音を書き起こしたネタなどが収録されています。
オートバイ好きで、バイクを停めるため借りている駐車場に突如住み着いた謎の男との攻防がおかしい「駐車場物語」。外国のミネラルを多く含んだ塩が好きで、ベトナムに塩を買うためだけに行くという「日本の塩はまずい!」など(ちなみに、この後に続くネタは、「小言念仏」(※上方落語では「世帯念仏」)だったそうです)。
語り口そのまま、読むだけでも思わず笑ってしまうのに、当時のお客さんは……ああ、うらやましい。
ちなみに筆者が一番印象に残っている小三治師匠のネタは「初天神」。父親と初詣に行き飴や団子をねだる息子をとってもかわいく演じておられました。(おはなしは絵本『はつてんじん(落語絵本 3)』で読めます)小三治師匠自身について知りたいと思われた方は『どこからお話ししましょうか:柳家小三治自伝』をどうぞ。
思わず引き込まれる間と、爆笑必至の滑稽話を得意とした名人の芸の一端をぜひ、本書でお楽しみください。
【在原】