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大阪府立中之島図書館だより「なにわづ」 No.138

更新日:2005年9月14日


なにわづ・題字

2004年10月 No.138

古典籍の活用とビジネス支援について

石崎 重雄

 池波正太郎の随筆に、「近頃、和服の似合う男をとんと見かけなくなったね、銀座でも似合っているのを偶に見りゃ、歌舞伎俳優が打ち上げて出てくるときぐらいかな」と和服に凝ったご本人の嘆きがある。今年も夏祭りが終わり浴衣すがたの男女が家路を急いでいるのをみて池波さんはなんと見立てたことか。

 この前、中村福助主演の映画「娘道成寺、蛇炎の恋」を見た。日常から離れた天空の舞でこんなもの5~6年の修行の話でない数百年の蓄積の継承である。また、中村勘九郎の平成中村座ニューヨーク公演をTVで見た。「夏祭り浪花鑑」である。ご当地大阪で10月、浪花座凱旋公演がある。団七の浴衣姿と刺青が粋である。この演目も大阪の風土、土地柄と切り離せない。世界一演劇通のニューヨークっ子の絶賛を受けたと言う。

歌舞伎俳優には、異形の着こなし、所作、台詞が日常のふとしたことにも現れてしまうのは、職業病みたいなものであるが、幼児からの鍛錬には凄まじいものがあったと思われる。同じく、アテネオリンピックのメダリストたちの活躍は、15年から20年ぐらいのスパンで養成され、もたらされたものである。

平成中村座のニューヨーク公演の成功とは裏腹に、多くの日本人は古典芸能への(特に大阪では文楽)愛着に極めて乏しい。また今でも、アメリカの映画が圧倒的動員を誇っている。一方で国際的に評判の高かった寺島しのぶ主演のこれも大阪を舞台にした、「赤目四十八滝心中未遂事件」は十三での小劇場で大阪ではわずか2週間位しか上映されなかった。

ここで、教育に触れてみたい。漱石が最後の世代となった漢籍文化から、口語文化への移行を経て百年、そして最近の饒舌な話しことばが延々と続く芥川賞受賞作に至るまで、何か、スカッと忘れてきた日本の文化的DNAこそ問われている教育的課題と思われる。つまり、漢字の朗読、読み書き、行儀作法、教えと強制の意味、生活訓練の意義を忘れ、小学校から大学にいたるまで遊園地みたいなもので、あらためて古今東西のとまではいえないが、先人の知識と知恵の宝庫である中之島図書館の所蔵する古典籍等所蔵図書を広がりと深みのある教育財産・文化資産として活用したいものである。

戦後生まれの我々が、高度成長期以後、個性の伸長でもなければ、教育訓練でもない受験時代を経てその後の延々と続いた学園紛争で家庭、教師、学者から、しかとした教育を受けなかったこと、また要求もせず、従ってほとんどの人たちは明治、大正期に見られた日本人の基礎的教養は身につけておらず、さらには自分たちの子供にも日本の文化的DNAを継承しなかったしできなかったことの反省をしておきたい。

さて、中之島図書館が創立された当時の寄贈、購入の手書きで書かれた黎明期の蔵書一覧をみたとき、時代を反映することは勿論、十五代住友吉左衛門氏の意向や、それを受けた今井初代館長の差配により、そのほとんどは内外の実用書、もしくは古典籍であった。船場の番頭さんや事業家の卵がちょっと調べものをしてくると当図書館に足しげく通ったことも髣髴とされる。教師のいない学校みたいなもの、司書が先達、今で言う、レファレンスである。お互い判らないまま、特許を一緒になって調べていたと思われる。大阪産業創造館の企業家ミュージアムに居並ぶ、紡績、医薬、食品、住宅、都市開発等、大阪発祥の産業を担った人たちもこの図書館に通ったのであろうか。

全てにわたって、供給過剰な日本の経済で一番の需要不足が労働力であり、それも若手である。フリーターと称してマスコミの話しに乗っている場合ではない、バラエティー番組の後ろの観客席に座っている場合でもない。産業社会の中で、せめて自分の分の付加価値を働いて生み出す仕事を自分で見つける仕掛けを用意しなければと思う。

当図書館が微力ながら今年度からビジネス支援機能の導入に踏み切ったのも建館記に示された理念に基づき、また立地特性も見ての判断である。蔵書も未整備、支援の仕組みも未熟ではあるが、中之島図書館で育てていきたい事業である。

図書館に所蔵される書籍等は公共財であり、この財が百周年を契機として見直され大阪の文化を継承させまたビジネス支援が大阪における起業の一助となれば、これまでご協力いただいた百周年記念事業を契機としてその意義も高まるものと確信している。

(府立中之島図書館長)

中之島図書館100周年記念事業の展示会と講演会のお知らせ

1「大和銀文庫」展

 
引札(ひきふだ) 西洋洗濯
引札(ひきふだ) 西洋洗濯

中之島図書館の最も新しいコレクション「大和銀文庫」の収蔵資料展を、中之島図書館100周年記念事業として、前期は、近世・近代大阪の商工案内書、文書(もんじょ)や錦絵など、後期はカラフルな引札(商店の広告チラシ)を中心に展示します。

前期 10月19日(火)~30日(土)
後期 11月 4日(木)~14日(日)

時間: 午前10時~午後5時
会場: 中之島図書館 3階 文芸ホール

関連講演会

平成16年11月27日(土)
・「『大和銀文庫』の収蔵資料について」
   講師:肥田晧三氏(元関西大学教授)

・「大坂川魚問屋文書から近世大坂を考える」   講師:中川すがね氏(甲子園大学助教授)

時間: 午後1時~4時30分
会場: 中之島図書館 3階 文芸ホール
定員: 60名(応募多数の場合は抽選)
申込方法: 1 往復はがきに、お1人1枚で、住所・氏名・年齢・電話番号をご記入のうえ下記まで。
〆切: 11月14日(日) 当日消印有効
送付先: 〒530-0005大阪市北区中之島1-2-10 大阪府立中之島図書館
100周年記念事業実行委員会
2 インターネットでも応募できます。
受付: 10月1日(金)~11月14日(日)
http//www.library.pref.osaka.jp
問合せ:  大阪府立中之島図書館大阪資料課
Tel 06-6203-0473(直通)

2 善本百選展-中之島図書館の貴重書-

中之島図書館は開館当初より、研究図書だけでなく原典収集も心がけてきました。その結果、和漢の古典籍を数多く収蔵し、うち貴重図書として選定したものは約8000冊に達します。開館100周年にちなみ、貴重図書の中から善本100点を選び、数十点を展示します。

平成17年2月15日(火)~26日(土)
時間: 午前10時~午後5時
会場: 中之島図書館 3階 文芸ホール

関連講演会

平成17年3月5日(土)
第1部: 午後1時~2時30分   講師:水田紀久氏(大谷大学講師)
第2部: 午後3時~4時30分   講師:橋爪紳也氏(大阪市立大学助教授)

会場:中之島図書館 3階 文芸ホール

第1部では善本百選と近世浪華文芸史、第2部では都市大阪の100年と中之島図書館についてお話しいただく予定です。

中之島図書館で「ビジネス支援サービス」がはじまりました

 
デジタル情報室 写真
(デジタル情報室)

中之島図書館では平成16年4月度より、これから事業を始めようとする人、営業や企画のためのデータを探している人、キャリアアップを求めている人、ビジネスのための資料・情報を求めている人たちを対象とした、「ビジネス支援」をサービスを開始しました。
このため、これまでの「一般資料室」「よみものコーナー」を廃止し、「ビジネス資料室」「デジタル情報室」「新聞室」から成る「ビジネス支援室」を設置しました。

【ビジネス資料室】 ビジネスに役立つ統計、会社・団体などを調べるための名簿・名鑑、各種業界に関する資料などビジネス関係の図書・雑誌を収集し、提供しています。
また、アジア開発銀行が発行する各種レポートの寄託を受け、アジアの経済情報を知る資料を充実させました。
雑誌を揃えた「雑誌コーナー」、会社・団体史を集めた「社史・団体史コーナー」を設置しています。

【デジタル情報室】 本館北側3階の東にコンピュータ端末36台を備えたデジタル情報室を新設しました。無料でインターネットやCD-ROM、データベースなどデジタル情報の検索ができます。

【その他】 新聞室では、主要日刊紙だけでなく、各種業界の最新の動向がわかる業界紙を多数揃えています。
その他にも、ビジネス関連の類縁機関が発行したパンフレットを常備し、図書館の資料だけでは得られないセミナーの開催や支援情報などを自由に持って帰ってもらえるようにしました。
また、図書館主催のビジネスセミナーも開催いたします。7月27日には第1回ビジネスセミナーを開催し、「大阪の中小企業だからこそ。今!」をテーマに大阪の中小企業の振興に関する佐藤 修氏の基調講演と中小企業を支援する2つの機関のプレゼンテーションを行いました。
今後もこうしたセミナーの開催を予定しておりますので、皆様のご参加をお待ちしています。

ビジネス関連雑誌・業界紙を積極的に収集しています

 
ビジネス資料室2 雑誌コーナー 写真
(ビジネス資料室2)

当館ではビジネス支援に向けて、ビジネス関連の雑誌・業界紙の収集を本格的に始めました。起業・独立開業のサポートに、販売拡大、人づくりのための具体的な情報収集に、「企画」「アイデア」のヒントづくりに、ぜひお役立て下さい。
また、書店では手に入らない情報誌、各企業の広報誌、統計集等も積極的に収集しています。
現在では、各種業界の最新情報源としての業界紙は、繊維・食品・運輸関係等、約100タイトルを所蔵しています。雑誌は『ビジネス資料室2(一部は大阪資料・古典籍室)』、業界誌は『新聞室2』の部屋で、ご自由にご覧いただけます。ぜひ一度お越しください。

報告:百周年記念事業「住友春翠からの贈り物」展
(平成16年6月22日~7月8日)と記念講演会

大阪図書館の開館を記念して第15代住友吉左衛門(雅号・春翠)から寄贈された貴重な資料群に照明を当て、図書館に懸けた春翠の熱意を蘇らせることを企図し展示会を開催しました。
春翠からの寄贈資料は、そのルーツにより旧住友本店蔵書・住友家内蔵書、そして春翠の実家である旧徳大寺家蔵書の3群に区分されます。
今回の展示では、たとえば歴史書では、豪商の住友家蔵書では「大鏡」「増鏡」「水鏡」等の歴史物語、一方、公家の徳大寺家蔵書では「古事記」「日本書紀」「先代旧事本紀」等の正史類と、蔵書傾向の差異が現れました。また、住友本店蔵書では対外貿易の唯一の窓口であった長崎オランダ商館関連の資料が豊富でした。
展示会には第17代住友吉左衛門氏を含めて、約2400人が来場されました。

7月10日(土)には講師に安国良一氏(住友史料館主席研究員)をお招きし、「住友春翠と住友家の蔵書」と題する記念講演会では、寄贈者住友春翠の図書館への思いと春翠の事績の紹介及び、蔵書の伝来について講演いただきました。講演会には、約50名の参加をいただきました。

平成16年度事業予定について

◆ビジネスセミナー『知的財産の活用で事業に活力を』

講師   久保 浩三氏(奈良先端科技術大学院大学教授)
日程   平成16年12月 7日(火)14時00分~
場所   中之島図書館3階文芸ホール
定員   40名(定員になり次第締め切り)

◆初級・古文書講座

講師   松田 隆行氏(花園大学文学部助教授)
日程   (1)平成16年11月19日(金)  15時00分~17時00分
(2)平成16年11月26日 (金) 同上
(3)平成16年12月 3日 (金) 同上
(4)平成16年12月10日(金) 同上
(5)平成16年12月17日(金) 同上
(6)平成16年12月24日(金) 同上
場所   中之島図書館3階文芸ホール
定員   40名 (応募多数の場合は抽選)

◆文化講演会

1 『漢字はもっと面白い-漢字・漢文・漢籍の 世界を知るために-』

講師   阿辻 哲次氏(京都大学大学院教授)
日程   平成16年12月4日(土)
場所   中之島図書館3階文芸ホール
定員   90名(応募多数の場合は抽選)

2 『内藤湖南-人と学問-』

講師   礪波  護氏(京都大学名誉教授)
日程   平成17年1月22日(土)
場所   中之島図書館3階文芸ホール
定員   90名(応募多数の場合は抽選)


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