『藤太郎の旅：長篇童話　（朝日幼年文庫）』
（昭和4年1月4日　朝日書房）　与謝野晶子：作　高橋春雄：装幀挿画　161頁　縦19cm×横13cm　価格50銭

歌人・与謝野晶子による長編童話作品。

主人公は、良家に育つ利発な11歳の金王丸藤太郎。乳母のお大とともに、藤太郎は初めて旅に出るが、旅先でさまざまな弱者を語る偽善者に騙されて窮地に陥り、そのたびにお大に助けられる。

最初の児童文学作品とされる「金魚のお使」（『少女世界』明治40年6月号）以降、童話・童謡・少女小説・少年少女詩など、複数の新聞・雑誌に書き続けてきた晶子だが、代表作は言うまでもなく長篇『八つの夜』（愛子叢書、実業之日本社、大正3年）である。それに引き続き草した長編は、大正6年刊行の『うねうね川』（啓成社）と、同8年刊の『行つて参ります』（天佑社）だが、本書『藤太郎の旅』は『行つて参ります』を改題、再版したものである。

改題・再版の発行年については、三康図書館所蔵本は大正13年11月刊だが、当館所蔵本は昭和4年1月4日初版の日付を持つ。何度か版を変えて出たことの背景に、晶子の「経済的困窮」が原因との指摘もあるが、いまだ児童文学・児童文化における創作活動の全貌が掴めない作家であるといえよう。

なお、この朝日幼年文庫には、他に秋島史郎『長篇童話　親指トム』、児玉花外『世界英雄歌　熱血男子』等の作品がある。