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大阪府立中央図書館 国際児童文学館 企画展示「シンデレラ本 いま・むかし ―三宅興子さんのコレクションを中心に―」【解説】

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更新日:2021年11月12日


はじめに

本展示では、19世紀から多くの絵本が出版され、昔話としても世界中に類話がある「シンデレラ」の本をご紹介します。

国際児童文学館は、一般財団法人 大阪国際児童文学振興財団と協力して事業を行ってきましたが、本展示の多くは、元財団理事長で、特別顧問である三宅興子さんの寄贈資料で構成されています(注1)。英語圏の資料の中には19世紀の貴重なものも含まれます。

この展示をきっかけに、「シンデレラ」の何が人々を魅了し続けるのか、「シンデレラ」の描かれ方はいかに変化しているのか、などを考えていただければうれしく思います。そして、「シンデレラ」を通して昔話のおもしろさ、絵本の魅力を感じていただければ望外の喜びです。

★本展示の解説は、三宅興子「シンデレラ絵本考」(『イギリスの絵本の歴史』三宅興子<子どもの本>の研究2 翰林書房 2019年10月)を参照し、引用させていただいております。記してお礼申し上げます。

*注1:資料の整理は順次行っておりますが、閲覧していただくには時間をいただきますことをご了承ください。

三宅 興子(みやけおきこ)さん

 児童文学研究者、絵本研究者。一般財団法人 大阪国際児童文学振興財団特別顧問、梅花女子大学名誉教授。大阪生まれ。日本イギリス児童文学会(現 英語圏児童文学会)会長、絵本学会会長、日本児童文学学会理事などを歴任。平成22年4月から平成27年6月まで大阪国際児童文学振興財団理事長を務める。令和元年に世界で優れた研究者に与えられる国際グリム賞を受賞。

[主な著書]

・『イギリス児童文学論』 翰林書房 1993年

・『イギリス絵本論』 翰林書房 1994年

・『イギリスの絵本の歴史』 岩崎美術社 1995年

・『ロバート・ウェストール』 KTC中央出版 2008年

・『イギリスの子どもの本の歴史』、『イギリスの絵本の歴史』、『日本の絵本の歴史』 翰林書房 2019年    等多数

※解説に出てくる資料名(著者名)の横にある「【】」内の数字は、資料展示リストの通し番号です。

1. シンデレラとは?

シンデレラ物語は世界中にあり、研究も盛んです。しかし、多くの絵本化はフランスの作家ペローの「サンドリヨン」(1697年)からです。ペローの「サンドリヨン」は1729年にイギリスで初めて英訳されました。「シンデレラ」ということばは、灰を意味するcinder(シンダー)に-ella(エラ)をつけて英語名らしくし、それが定着したものです。

「サンドリヨン」のあらすじは、表1にまとめることができます。

表1:「サンドリヨン」のあらすじ

冒頭

身分の高い人が二度目の妻を迎える。妻は気位の高い、いばった人で、二人の娘も同じだった。夫の娘は心のやさしい娘だったが、妻はその娘のすぐれた性質ががまんできずにいじめる。娘は暖炉の灰だらけのところにすわっていたので、2番目の義理の姉からサンドリヨン(灰だらけの子)と呼ばれる。

展開1

義理の姉たちが舞踏会に行く準備を念入りにして、見送ってから泣き出す。

展開2

母親がわりの仙女が出てきて、いい子だから、と魔法によって、カボチャを馬車に、ハツカネズミを馬に、ネズミを御者にしてトカゲをお供にし、服をドレスにかえてくれて、ガラスのくつにし、舞踏会へ行かせ、魔法がとけるので12時までに戻るように言う。

展開3

サンドリヨンは舞踏会へ行き、2日続けて王子と踊る。2日目に12時に遅れそうになってガラスのくつを残す。

展開4

くつの持ち主さがしが行われるが、姉たちの足には入らない。サンドリヨンはくつを試してみたいといい、ポケットからもう一つのくつを出す。仙女がサンドリヨンの服をすばらしい服にする。

結末

姉たちはサンドリヨンに謝る。サンドリヨンは許し、王子と結婚、姉たちもりっぱな殿さまの奥さまにしてあげる。

教訓

美しさよりしとやかさ。

仙女はしとやかさをサンドリヨンに与え王妃にした。

才能も大切だが、うしろだての人がいることが重要。

*「サンドリヨン」(『ペローの昔ばなし』今野一雄訳 白水社 1996年11月)【115】より 

2. 「シンデレラ」絵本化のみどころ 

 本展示の多くの原作がペローの「シンデレラ」です。そこで研究書(注2)を参考にしながら、絵本化するに際して注目に値する点をいくつか抜き出してみました。

*注2:研究書の一覧は、展示資料リストの番号103~123(「参考資料」)をご覧ください。

ドラマチックなストーリー展開

・母や姉たちの虐待→姉たちの謝罪

・灰まみれの少女が王子と結婚するハッピーエンド

・靴を残すという失敗成功につながる

魅力的な女性像

・シンデレラ:けなげで優しく、美しいが灰まみれ。適当なカボチャやネズミを選ぶ知恵がある。

        いじわるな姉たちを許す慈悲の心がある。靴の持ち主探しの時は自ら名乗る。

・継母と義理の姉たち:いじわる

・仙女:シンデレラを助ける

・王子:シンデレラに恋をする←描写が少ない

・父 :継母のいうとおり←描写が少ない

鮮やかな魔法

・カボチャ、ハツカネズミ、ネズミ、トカゲが変身

・シンデレラがぼろぼろの服からドレス姿に変身

視覚的に際立つアイテム

・カボチャなどから作られた馬車

・ガラスの靴=妖精めいた魅力

・シンデレラのドレス

場所の対比

・シンデレラが灰まみれになる暖炉⇔舞踏会の会場+結婚式

・お城で靴を忘れる⇔家にいるシンデレラの足に靴がすっぽり入る

テーマ

・可憐な少女が、継母の虐待に苦しみながら、けなげに堪えて灰まみれになって働きつつ、最後には幸福な結婚を勝ち得る

・灰は「主人公の美しさをかくすものとして働くと同時に、よみがえり、再生をも象徴するモチーフ」

 石沢小枝子「解説」(『フランス童話集 サンドリヨン』C・ペロー著 石沢小枝子訳 東洋文化社1980年5月)

・母娘、姉妹関係

これらの魅力が絵としていかに表現されているかを、時代の変遷と出版国や文化の違いを軸に見ていきたいと思います。

3. 19世紀の「シンデレラ」

 19世紀には、イギリスでは、パントマイム劇(主にクリスマスの時期に子ども向けに演じられるコメディ劇。昔話を題材にすることが多い)の劇場を紙のクラフトで作るおもちゃが流行しました【1】。切り抜いて差し込むと舞台ができ、簡単な脚本もついています。

 「シンデレラ」のパントマイムが流行っていたことは、昔話コメディ脚本集【5】やしかけ絵本【11】が出版されていることからもわかります。物語の舞台をイギリスに移し、中世のバラッド風に仕立てた「演じる」絵本も出版されています【6】。

 印刷面から見ていくと、19世紀初頭には手彩色絵本がシリーズで出版されました【4、5】。印刷技術が発展してくると、絵が精巧になり、シンデレラの表情もより鮮明に描かれています。シンデレラの顔が少し幼くなっている傾向も見られます。ドレスの色は、黄色、水色、ピンクとさまざまな色で描かれています。

 1860年前後に流行した「トイ・ブック」と呼ばれる絵本にもシンデレラ絵本があります【2、7】。また、『3人のフェアリープリンセス』【9】からは、シンデレラが「おひめさまもの」のジャンルとして考えられていたことがわかります。1889年には、アンドルー・ラング Andrew Lang (1844-1912)の『あおいろの童話集』が出版され、その中にはペロー「サンドリヨン」の英訳が入っています(【14】は1892年版)。イギリスで出版されたものは、アメリカに輸出されたり、アメリカで模倣作品が作られたりしました【4、15】。

4. 20世紀初頭の「シンデレラ」

 20世紀初頭には、印刷によって微妙な色合いを出すこともできるようになり、イギリスの挿絵の黄金時代を築いた画家による絵本が制作されました。

 エドマンド・デュラック Edmund Dulac(1882-1953)の「シンデレラ」【16】は幻想的な風景の中、妖精もシンデレラもすばらしいドレスを着ています。

 ミリセント・ソワビー Millicent Sowerby(1878-1967)の『シンデレラ』【18】は健康的でほがらかな様子の女性として描かれ、広告を手がけていたジョン・ハッセル John Hassall(1868-1948)の「シンデレラ」【19、20】は黒い線が際立ったやや戯画的な絵で、仙女やいじわるな継母や義理の姉たちがユニークに描かれています。

 19世紀後半に人気を博したケイト・グリーナウェイKate Greenaway(1846-1901)を思わせる絵本【17】もあり、この絵本では、シンデレラの年齢がこれまで以上に幼く見えます。

 1935年にアメリカで出版された『シンデレラ』【21】はハリウッド映画の女優のようなシンデレラが描かれ、アメリカらしさを感じさせます。

5. さまざまな画家によるシンデレラ

 20世紀中期には、日本でも知られている作家によるシンデレラの再話が行われています。

 イギリスの詩人・小説家のウォルター・デラ・メア Walter De la Mare(1873-1956)の文章は、リズミカルでいきいきしています。絵は1つの見開きに4コマずつ描かれ、アニメーションのような動きを感じさせます【22】。

 『ムギと王さま』(石井桃子/訳 岩波少年文庫 岩波書店 1959年5月)などの物語性豊かな作品集で有名なエリノア・ファージョン Eleanor Farjeon(1881-1965)は、俳優であった弟ハーバートHerbertと「シンデレラ」の脚本を出版しており、挿絵は舞台の様子をカラーで描いたように見えます【23】。その物語バージョンの絵は『くまのプーさん』(A.A.ミルン/作 石井桃子/訳 岩波少年文庫 岩波書店 1956年10月)の挿絵を描いたE.H.シェパード Ernest H. Shepard(1879-1976)が担当しています【30】。

 イメージの魔術師と呼ばれるイギリスの絵本作家エロール・ル・カイン Errol Le Cain(1941-1989)の『シンデレラ』は背景やドレスのデザインの美しさにみとれます【32】。

  アメリカでも多くのオリジナル絵本が出版されました。マーガレット・ワイズ・ブラウン Margaret Wise Brown(1910-1952)の文章に絵を多く描いている、レナード・ワイスガードLeonard Weisgard(1916-2000)の『シンデレラ』は、落ち着いた絵から庶民の女性であるシンデレラのイメージが読み取れます【24】。

松居直(まついただし)さんが「一番納得がゆく」と述べている絵本は、マーシャ・ブラウン Marcia Brown(1918-2015)の『シンデレラ』【26】。画面の軽やかさや人物の表情の豊かさが感じられると評しています(松居直「『シンデレラ』の絵本を較べる」『絵本を読む』日本エディタースクール出版部 1983年8月)【116】

また、ロシアからアメリカに移住したアラヤーロフ Constantin Alajalov(1900-1987)の絵で、フェミニズム的な思想を持っていたミラー Alice Duer Miller(1874-1942)が詩を描いた『シンデレラ』は、シンデレラの動きがスピーディーに描かれ、活発な少女というイメージを与えます【27】。

イタリアのオペラ演出家でもあるベニ・モントレゾール Beni Montresor(1926-2001)のオペラ版『シンデレラ』は、本展示では1967年のイギリス版を展示していますが、1965年にアメリカで出版されています【31】。

 このような芸術性の高い作品に加えて廉価本も出版されました。吹き出しのあるカラーコミックの昔話集【25】では「シンデレラ」物語が見開きでコンパクトにまとめられています。童画調の『シンデレラ』は、お姫様ごっこの子どものような描かれ方です【28】。

 そんな中、1950年にアメリカでウォルト・ディズニー社のアニメーション映画「シンデレラ」が公開され、大ヒットしました。それ以降、多くのディズニー絵本が出版され、「リトル・ゴールデン・ブック」シリーズもその中の一部です【29】。

6. しかけ絵本

 19世紀から現在までたくさんのしかけ絵本が出版されていることからも、シンデレラの人気がうかがえます。

1814年のフラー Fuller の着せ替え人形は、物語を語りながら遊べます【35】。奥行が12cmもあるローランド・ピム Roland Pym(1910-2006)の、のぞきからくり絵本【37】は、まるで劇を見ているようです。

 1945年にアメリカで出版されたジュリアン・ヴェーア Julian Wehr(1898-1970)の『シンデレラ』は安価(1ドル)であったため、ロングセラーになりました【36】。

 1950年代から60年代にチェコで出版され、世界に広がったヴォイチェフ・クバスタ Vojtěch Kubašta(1914-1992)の昔話絵本の中にも『シンデレラ』があります【39】。シンデレラと王子が出てくる場面では、幕が開くしかけもついています。

 1951年にフランスで出版された『サンドリヨン』は、つまみを回すと絵が変わる回転絵の絵本です【38】。

 2001年のニック・シャラット Nick Sharratt(1962- )による『シンデレラ』はとても現代的な絵で、フラップをめくるとネズミなどの隠された絵が出てきます【40】。

2005年に出版されたキミコKIMIKO (1963-)によるフランスのしかけ絵本【41】は、登場人物が全員ネズミに擬人化され、奥行きのある画面になっています。

イギリスのサラ・デニス Sarah Dennisによる2013年出版の切り絵の『シンデレラ』【42】は、切り絵の部分が人物のシルエットになっており、切り絵の部分をめくることによって2つの場面にシルエットの人物が登場するしかけになっています。

7. 「シンデレラ」のパロディ

 パロディは、元の話を部分的に変更することによって、読者に原作のおもしろさを気づかせたり、元の話から読み取れる思想やメッセージに異を唱えたりします。多くのパロディ本が出ていますが、本展示ではその一部をご紹介します。

 イギリスの『ゆかいなゆうびんやさん おとぎかいどう自転車にのって』(ジャネット&アラン・アールバーグ/作 佐野洋子/訳 文化出版局 1987年10月)は、ゆうびんやさんが昔話の主人公たちの家に手紙を届けるしかけ絵本。結婚したばかりのシンデレラ王女のところには、『シンデレラものがたり』というミニ本が出版社から届けられます【原書、43】。

 『シンデレ王子の物語』(原書はPrince Cinders. Babette Cole/by London: Hamish Hamilton. 1987.)【45】は、男女逆転の物語。大きくて毛むくじゃらのお兄さんにあこがれる王子が、ディスコの帰りにかわいい王女さま(可愛姫)に見初められ、忘れたジーンズをぴったりはいて見せて王女さまと結婚します。

 『エラの大きなチャンス』Ella’s Big Chance: a Fairy Tale Retold. 【46】は、洋服屋の娘エラが舞踏会で公爵に見初められるにもかかわらず、彼女を支え続けてくれたドアマンの青年と結婚します。

 『ユリのシンデレラ』Cinderlily: A Floral Fairy Tale. 【47】は、ストーリーは「シンデレラ」ですが、ユリの花が主人公になっており、ガラスの靴の代わりに花びらを落とします。登場人物はすべて花の写真で表現されています。

 アメリカの『シンダー・エリー ガラスのスニーカーをはいた女の子』(フランセス・ミンターズ/ぶん G.ブライアン・カラス/絵 早川麻百合/訳 ほるぷ出版 1996年2月)【原書、44】は、いじわるなお姉さんたちにバスケットボールの試合に連れていってもらえなかったエリーが、有名なバスケット選手のプリンスと結ばれる話です。現代のアフリカ系の男女の恋物語になっていて、エリーはガラスのスニーカーを落とします。

8. 日本のシンデレラ

 紙媒体で紹介された最初の日本語の「シンデレラ」は、1886(明治19)年『郵便報知新聞』に掲載された「新貞羅(シンデレラ)」と言われています(『図説児童文学翻訳大事典』第3巻 大空社 2007年6月)【119】

 その後、雑誌『幼年雑誌』(博文館)に「清き貴女」(1891年)【59:パネル】が掲載されたり、1896年『西洋仙郷奇談(せいようせんきょうきだん)』に「燻娘(ふすぼり)」【48】が掲載されたり、雑誌『少年世界』(博文館)に「英国お伽噺(とぎばなし) 踊靴(をどりぐつ)」(1899年)【60:パネル】が掲載されたりしました。

 それ以降、どの時代にも「シンデレラ」は訳され続けます。本展示では、大正期の作品として雑誌『金の船』(キンノツノ社)に掲載された1922年の童話劇「かまど姫」(中島孤島(なかじまことう) (1878-1946))【101】を紹介しています。この挿絵は、アーサー・ラッカムのさし絵をそのまま借用したシルエット画です(三宅興子「シンデレラ絵本考」前出)

 また、戦後の絵本として、幼い雰囲気のシンデレラを描いた虹児(ふきやこうじ) (1898-1979)【49】、着ぐるみの演技によってお伽噺(とぎばなし)的な雰囲気を醸し出している木馬座【51】、意志の強いシンデレラ像を描いた朝倉摂(あさくらせつ)(1922-2014)【52】、憂いをおびた寂しいシンデレラと豪華な仙女の対比が美しい子(あずまいつこ)(1953-)【53】、グリム兄弟の再話の絵本でシンデレラの顔を見ると結末まで幸せそうとは言えない点が興味深い良(うのあきら)(1934-)【54】、華奢で人形のようなシンデレラが描かれた、こみねゆら(1956-)【100】、ヨーロッパの風景がたっぷり描かれている安野光雅(あんのみつまさ) (1926-2020)【57】、縦巻ロールの髪型、大きな目、リボンやフリルのドレスが「かわいいおひめさま」を思わせる高橋琴(たかはしまこと)(1934-)【56】などを展示しています。

 ハローキティ【55】もプリキュア【58】もシンデレラに扮した絵本があります。街頭紙芝居にもグリム原作の『灰かブリ姫』【61】があります。ここに展示されているのはほんの一部で、国際児童文学館には、200冊以上のシンデレラ絵本を所蔵しています。

9. 世界のシンデレラ

このコーナーでは、世界で出版されたユニークなシンデレラ絵本と、「シンデレラ」と類似の話型をもったさまざまな国の絵本を紹介します。

ロシアのエリク・プラ―トフ Э. Булатовとオレグ・ワシーリエフ О. Васильевの絵本は、髪の長いシンデレラがシャイで可憐な感じがします【67】。

スイスの作家ラヴァター Warja Lavater (1913-2007)の絵本【62】は、冒頭にどの記号がどの人物を表すかが書かれており、屏風たたみになっている画面の記号を読みときながら、ストーリーを想像します。

同じく記号で描かれているフランスのジャン・アッシュ Jean Ache(1923-1985)構成の『丸と四角の世界』【65】は、シンデレラが青い丸で、王子さまはオレンジのひし形です。

ドイツにはグリム兄弟再話「灰かぶり姫」のシュロッテル Brünhild Schlötter(1911-不明)による絵本【63】があり、最終ページには白馬に乗った王子と姫が描かれています。イタリアの画家ロベルト・インノチェンティ Roberto Innocenti(1940-)の絵【64】は、現代的な設定で、シンデレラや王子の表情が、物語と別のことを語っているように見える点がユニークです。

ユダヤ人の伝統的な物語『肉が塩を好きなように』The Way Meat Loves Salt: a Cinderella Tale from the Jewish Tradition.【66】は、父に追い出された末娘が靴を落として愛を得る物語。

韓国の『豆っ子と小豆っ子』콩중이 팥중이【68】は、継母にいじめられた子が、牛やカエルなどの援助を得て花靴を落として伴侶を得、中国の『銀のうでわ』【69】は、継母にいじめられた娘が牛やカササギや馬の援助を得て銀のうでわを落として伴侶を得ます。

10. ミニ絵本、グッズ

 三宅興子さんの蔵書には多くのミニ絵本があり、シンデレラだけでも相当数にのぼります。歴史的に意義のある本から現代の本まで集めましたので、まずは視覚的に楽しんでいただければと思います。

 16世紀から19世紀半ばにはイギリスでチャップブック(注3)が出版されました【70】。また、そこから発展して、線が美しいモノクロの絵本【75】や手彩色本【71、72】も作られました。それらの絵本はアメリカで模倣され、出版されました【76】。

 19世紀終わりごろから20世紀初頭にかけては、リチャード・アンドレ Richard André(1834-1907)【78】やウォルター・クレイン Walter Crane(1845-1915)【79】などの画家が活躍し、色彩豊かな絵本が出版されました。この時期に、手紙で絵本を送るというシリーズもありました【77】。

 戦後のミニ本には、フランスのフェードル・ロジャンコフスキー Feodor Rojankovsky(1891-1970)のシンデレラ【81】や、イギリスのヤン・ピアンコフスキー Jan Pieńkowski(1936-)のシルエット画(『シンデレラ』シャルル・ペロー/著 うつみよしこ/訳 ほるぷ出版1985年11月)【原書、84】や、ジャネット&アラン・アールバーグ Janet Ahlberg(1944-1994)and Allan Ahlberg(1938-)の子どもがパントマイムを演じる絵本【86】も出版されています。また、家の形をしたしかけ絵本【73、85、88】も出版されています。

 グッズからも幅広いシンデレラ人気が読み取れます。19世紀のメモ帳【90】、クリスマス時期の劇のパンフレット【91】やロイヤル・オペラハウスのバレエのパンフレット【93】、チョコレートのパッケージ【95、99】はその一例です。

*注3:「チャップブック」とは、イギリスにおいて、一六世紀から一九世紀半ばに安価で流布した大衆的な印刷物の総称である。(三宅興子「子どものためのチャップブック」『イギリスの絵本の歴史』前出)

解説執筆:一般財団法人 大阪国際児童文学振興財団

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