大阪府立図書館の活動評価について(外部評価報告書) 平成22-24年度
更新日:2014年2月13日
大阪府立図書館協議会 活動評価部会
今回の総括評価は平成22年度から24年度までの3カ年の活動を対象としてまとめられている。ここでは,基本方針1から5に沿って3カ年の評価の妥当性を見ていくなかで,適宜24年度の仮評価にもふれることとする。
総括評価の対象期間は,国際児童文学館の移行や大阪版市場化テストの導入など大阪府立図書館にとっては大きな変革に挑んだ3カ年であったといえる。そのなかで直面する課題に真摯に取り組み,図書館活動を前進させてこられた府立図書館の館員の皆様にまずは敬意を表したい。
そのうえで,25年度以降の府立図書館を取り巻く環境はさらに厳しさを増すことが予想されるという状況を踏まえて活動評価を検討することとする。
1.「基本方針1」(大阪府立図書館は,市町村立図書館を支え,大阪府全域の図書館サービスを発展させます。)
市町村立図書館への協力貸出とあわせて市町村立図書館間の資料搬送が大きく増加していることは,府立図書館と市町村立図書館の関係だけではなく,府内の市町村立図書館が相互に連携していくうえでも府立図書館の働きが欠かせないことを示している。市町村立図書館間の資料搬送に加えて,市町村立図書館相互の連携をさらに進めていくために府立図書館としてどのような役割が果たせるのかという視点での検討を行なっていくべき時期にきていると考えられる。
府立高校への協力貸出の対象校数は増加したが,貸出冊数は伸び悩んでいる。利用者である高校生にとっては地元の市町村立図書館が身近な存在であることからも,これからは府立図書館の協力貸出から市町村立図書館と府立図書館が一体となって高校生への資料提供を支えるサービスへと発展させていくことが必要であろう。
基本方針1の目標は「大阪府全域の図書館サービス」の発展である。その意味では,府立図書館の活動が大阪府全域の図書館サービスのなかでどのような位置を占め,結果としてどのような効果を生み出しているのかを示していくことも必要ではないだろうか。例えば府内の公共図書館の相互貸借における他館からの借受資料のうち府立図書館の資料の占める割合といったかたちで,大阪府の図書館サービス全体のなかで府立図書館の活動指標を位置づけるような工夫も試みてほしい。
2.「基本方針2」(大阪府立図書館は,幅広い資料の収集・保存に努め,すべての府民が情報・知識に到達できるようサポートします。)
新しいサービスとして始められたe-レファレンスならびに政策立案支援サービス(Pサポート)は利用者の満足度の高さからも,質の高いサービスとして受け入れられているようである。一般的に図書館のレファレンスサービスはそれを利用した人からは高い評価を得ている反面,利用者に対するサービスの周知度が低いことが指摘されている。リーフレットやパスファインダーの作成など,レファレンスサービスへの利用者の理解を深める努力がなされているが,25年度に予定されている図書館情報システムのリプレイスによって,さらに府立図書館のレファレンスサービスの存在を広く知らせるような取り組みを期待したい。これは府立図書館自らの情報発信機能を高めるということだけではなく,インターネットの各種検索サービスにおいて府立図書館のレファレンス事例などが検索結果に表示されるといったように,府立図書館が蓄積してきた情報を数多くWeb環境に露出させていくための戦略を伴ったものとして捉えられるべきであろう。
資料収集における非商業出版物についての積極的な収集活動は,府立図書館の役割からも高く評価されることのひとつである。市販されていない資料の収集は資料に関する情報の収集から始まる地道で目立たない仕事であるが,これは図書館でなければできないものである。こうした努力を経て収集された資料の蓄積が府立図書館の蔵書構成を深みのあるものにしているといえる。
府立図書館には大阪府域における「資料の保存図書館」としての役割が期待されていることから「資料保存のガイドライン」の作成が進められているが,ここでも市町村立図書館や大学図書館などを含めた府内の図書館全体での図書館資料の保存を考えていくためには,それらの図書館との充分な協議を求めたい。多くの図書館で保存のための所蔵資料のデジタル化が進められている。こうしてデジタル化された資料がWeb上に公開されることで物理的な資料の所蔵機関の垣根が取り払われることになるとすれば,これからの図書館資料の保存については府立図書館だけではなく府内の図書館全体を視野に入れた論議がより求められるはずである。
3.「基本方針3」(大阪府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めます。)
この3カ年における府立図書館のサービスにおいて,もっとも大きな変革に取り組んだのは児童サービスであろう。国際児童文学館の機能と従来の府立図書館の児童サービスを融合し新しいサービスを創り出していくための試行錯誤はこれからも続くであろうが,国際児童文学館からの資料移転と再整理など基礎的な作業は着実に進展しているようである。また,両者の融合の成果は児童サービスに関わる人材育成や各種事業などの充実によく表れているようである。当面は,様々な成果が子どもたちの読書活動に関わる人たちに還元されるような活動に力を注ぐべきであろう。
今後の具体的な活動は「大阪府立中央図書館国際児童文学館の今後のあり方報告書」に示された方向性に沿って組み立てられていくだろうが,これまでの児童サービスの延長ではない積極的なチャレンジとなることを期待したい。これらは図書館という枠あるいは大阪府という枠の中で完結するものとはならないだろう。大阪府内外の関連機関等との連携のうえに築かれていくべき活動であることから,府立図書館の努力が結果に反映されない場面も多く出てくると思われる。評価にあたっては府立図書館としての活動の成果を対象とするだけではなく,たとえその試みが失敗に終わったとしてもチャレンジした事実そのものをプラスとして捉える視点も取り入れられるべきである。
4.「基本方針4」(大阪府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。)
地域資料や古典籍等に関する講演会等の事業への参加者が平成24年度には大きく増加していることは,利用者の興味をひきつけるための府立図書館の新しい取り組みが広い支持を得ていることの表れであろう。ともすれば一部の利用者に限定されがちなこれらの資料や情報を世代を超えて広く提供していこうとする試みは評価したい。
これらの事業への参加者が府立図書館で活動できるような場を設定していくことも,これからの課題のひとつとしてあげられる。府立図書館の蓄積してきた豊富な地域資料にさまざまな立場の人たちが関心を持つことは,多様な視点から府立図書館の地域資料を再評価することにつながる。インターネットでの情報発信では発信される情報量だけではなく,ターゲットの興味に対応した情報をどのように発信していくかということも重要となるが,そのためには地域資料に多様な光をあてていくことも求められるのではないだろうか。
地方行政資料に関しては急速にデジタル形態での提供が進んでいる。行政資料の確実な収集という面では,行政資料の公表と同時に府立図書館で把握できる仕組みをつくっていくことが必要であろう。さらには将来に向けての保存という面からみれば,府立図書館内部での検討にとどまらず大阪府庁全体の課題としてアーカイブ機能を考えていくべき段階にあると考えられる。市町村レベルにおける行政資料の収集・保存という点からも,府立図書館がこうした議論において行政内部でのリーダーシップを発揮することが望まれる。
5.「基本方針5」(大阪府立図書館は、府民に開かれた図書館として、府民とともにあゆみます。)
メールマガジンの登録者数が順調に増加,イベント参加者数も年度によるが全体的には微増傾向にある。貸出冊数については微減ということから,あらためて利用者ニーズを的確に把握する努力が求められる。この点で,図書館における利用者ニーズの把握の基礎となるべき日常的なカウンターでの対応について,市場化テストにより,窓口での情報収集が困難になっていると推測される。これを補完するためには,利用者データの分析を含め,可能な手法を検討していくことが必要であろう。
市場化テストの検証では,特に業務に精通した責任者の不足とスタッフの定着率の低さが指摘されていたが,図書館サービスの質を高めていくうえでは経験のある人材を適切に配置していくことが不可欠である。また,府立図書館,委託事業者ともに,より質の高いサービスを提供していくための人材育成が求められる。
府職員が担当するサービスと委託事業者が担当するサービスとにかかわらず,府立図書館が利用者へ提供するサービスが低い水準で固定されてしまうという結果を招かないようしなければならない。
この点からも,市場化テストの委託契約におけるインセンティブ条項の必要性等,サービスの質を維持,向上できるしくみを導入することを望みたい。
6.まとめにかえて
道州制が現実性をもって論議されている。図書館のサービスは個々の図書館の活動だけでは成り立たない。資料の相互貸借や総合目録の編成などを通じて図書館相互の連携を構築してきたことが,現在の図書館サービスを支える基盤になっている。とくに都道府県単位での公共図書館のネットワークは,都道府県立図書館を核とした資料の流通手段の整備や横断検索システムなどの編成によって大きく進展している。大阪府立図書館においても図書館の連携は「基本方針1」に位置付けられ重点的に展開されてきた。いっぽう市町村立図書館間では自治体の枠を超えた広域サービスが早くから実施され,利用者からの支持を得ている。
このような状況から,道州制の実現の有無にかかわらず都道府県立図書館間の広域的な連携が具体的に論議されるべき時期にあるのではないかと考える。「基本方針1」には近畿公共図書館協議会の事務局としての活動に触れられている。事務局としての調整役を務めるだけではなく,これらの場を通じてまずは近畿圏内の図書館の広域連携のあり方について問題を提起し検討の機会を設定していくことも,大阪府立図書館の担うべき責任であろう。大阪府内の図書館にとどまらず,近畿の図書館の核となるべき位置にある大阪府立図書館へのもうひとつの期待である。
付記
来る平成25年度には府立図書館情報システムのリプレイスが予定されている。すでに新規システムの仕様等は平成24年度中にほぼまとめられている段階だと思われるので,今回の評価対象期間ではないが新規システムに対する当評価部会としての基本的な認識を述べておくこととする。
私たちを取り巻く情報環境は急速に変容を続けており,さまざまな情報がデジタルへと収束していくとともに情報のネットワーク流通は大きく進展している。こうした情報環境生態系の変容は,人々の情報入手活動や生活活動に大きな影響を及ぼしている。インターネットでの情報流通量が爆発的に増大するという情報環境の変化によって,放送,新聞,出版など制作や流通を異にしてきた「マスコミ」業界の垣根は消滅しつつある。人々が情報を入手する手段が伝統的なメディアからネットワークへシフトしていくなかで,従来の資料を中心とした蔵書をもとに利用者の要求に対応してきた図書館は,これからどのようなかたちで人々の情報ニーズに応えていくのかが問われている。図書館は私たちの社会において「知の公共性」を担うものであったが,これからの図書館には何が期待され社会のなかでどのような役割を担うことができるのか。公立図書館の核としての大阪府立図書館にはこのような問いかけに対して一定の方向性を指し示すことが求められていると考える。平成25年度以降の図書館情報システムは,こうした認識を基盤として大阪府立図書館が将来に向けてどのようなシステムを望むかの試金石となるであろう。
大阪府立図書館協議会 活動評価部会
岸本 岳文(京都産業大学文化学部客員教授)
○ 北 克一(相愛大学共通教育センター特任教授)
村上 泰子(関西大学文学部教授)
(50音順・○は部会長)