大阪府立図書館

English 中文 한국어 やさしいにほんご
メニューボタン
背景色:
文字サイズ:

「はらっぱ」 No.36 児童・YAサービスの広報: 図書館利用の動機づけになっているか

更新日:2023年3月31日

放送大学客員教授 堀川照代

1.はじめに

レファレンスサービスについて、「スタジオの高校生全員が、図書館員に何か聞けば一緒に調べてくれる、しかもそれは無料のサービスであると聞いて、驚いていた」と、杉山きく子氏が『はらっぱ』28号(2015 p.2)に書いている。
図書館がどのようなサービスを提供しているか理解されていないほど、広報は機能していないのか。広報とは、「官公庁、企業、団体などが、施策、方針や業務、活動などについて、各種の媒体を通じて広く一般に知らせること」(『精選版 日本国語大辞典』、コトバンク (https://kotobank.jp/))である。図書館広報は、図書館の認識を高め、利用を促すためのものであろう。つまり、広報は、図書館利用の動機づけになっていなければならない。

2.何について広報するのか

図書館の何を伝えれば広報の役割を果たすのか。

(1)資料や貸出について
利用案内として貸出や予約サービスを知らせるほかに、どのような資料があるか、新着図書案内や季節、テーマなどによる所蔵資料を紹介して来館や貸出しに結び付けている図書館は多い。
赤ちゃん絵本や布の絵本、YA図書、英語多読用資料、子育て支援資料、電子書籍などのお知らせもする。本の紹介には、ブックリストや展示、動画などの方法が見られる。
図1は、熊取町立熊取図書館(大阪府)の「映像化作品リスト」(熊取図書館HP (https://www.town.kumatori.lg.jp/)より)である。YAの感性に配慮し、請求記号をつけ、予約サービスを伝え、司書の存在をアピールして、YAと本を結びつけることが意図されている。

熊取町立熊取図書館の映像化作品リストの画像
【図1】

(2)児童サービス・YAサービスについて

1)施設・設備の紹介や利用法
子ども室やYAコーナー、YA掲示版、YAルーム、ベビーカー、授乳室などが写真付きで紹介されたり、館内バーチャルツアーがHPに掲載されたりしている。

2)児童・YAサービスについて
レファレンスサービスの紹介や、イベント・行事等の紹介・報告がなされている。大阪府立図書館の「職員の日記帳」のように、職員によるブログもある。これは生産者の顔写真やメッセージ付きの農産物に通じるものである。年度ごとの事業報告書も広報のひとつであり、近年は予算の関係上、HP掲載のみの場合も多い。
図2は熊取図書館の児童サービスの説明である。子育て中の母親等に、図書館は頼りになる存在と気づいてもらえるメッセージではないだろうか。

熊取町立熊取図書館の児童サービスの説明の画像
【図2】

3)参画の誘い
児童・YAサービスの企画運営やYA向け資料選択、YA向け広報誌の作成等に参画するYA友の会会員やYAスタッフ等の募集もある。

(3)学習や授業に役立つ情報提供について
地域資料、調べ方案内、パスファインダー、リンク集等の提供も伝える。
地域資料は、館独自で、あるいは郷土史家等の協力を得て作成する場合もある。印刷物として館内に配架されたり、デジタル化されてHPに掲載されたりしている。リンク集には、国や自治体の統計資料等、各種の特に子ども向けページが提供されている。

(4)保育園・幼稚園・学校への支援について
保育士や幼稚園教員向けに、ブックリストや図書館への招待プログラム等の情報を提供する。
小中高校の教員向けにも、朝の読書用やテーマセットの貸出、地域資料やリンク集の紹介、出前サービス、学級招待プログラム、ワークシート、図書館クイズ等の情報を提供する。職業体験としての図書館実習やスクールサービスデイも実施されている。支援サービスの申込書等もダウンロードできるようにしている。

(5)ボランティアについて
ボランティア団体や地域の子ども文庫の紹介、ボランティア研修などの情報についても伝えたい。

3.どのような表現で広報するのか

広報対象者の発達段階に適した読みやすさの配慮が必要なのは言うまでもない。イラストを使う、ルビを振る、ひらがなにする、文字を大きくする、平易な文章にするなどが見られる。
利用者の心をつかむような表現も工夫されている。ロゴやキャラクター、キャッチコピー等を利用する。とくにYA向き資料の紹介に、「ドキドキワクワクしたい 非日常を味わう」(荒川区立図書館・東京都)など見出しに工夫がみられる。
YAコーナーに「ゆる読」の文字が掲示されていたり、お父さんの読み聞かせ講座を「読みメン講座」として募集したりしている図書館もある。
発信者は図書館職員とは限らず、児童やYA自身からの発信もよく見かける。多言語への対応、特別支援の必要な子どもたちへの配慮も忘れてはならない。

4.サービスや活動の実態あっての広報

実施されていないサービスや活動については、当然ながら広報しようにも広報できない。「これを買った人は、こんな商品も見ています」というリコメンド機能をもつサイトがあるが、それと同様に、「これを借りた人は、こんな本も読んでいます」など個別的なメッセージが表示されるようになるかもしれない。
教員向けには、印刷・デジタル資料がどのように授業で利用できるか、その指導案等が提供されていれば喜ばれるだろう。特に、ジャパンサーチをはじめ自治体ごとに資料のデジタル化が進んできている現在、それらがどの学年のどの教科のどの単元で利用できるか、どのように組み合わせれば、主体的に考える材料となり得るのかなどの例があるとよい。これらは、図書館だけでできるものではない。教員と協働で、指導案や事例を作成したり収集したりして発信できるとよい。しかし、サービスを増やすのがいいというわけではない。

5.広報媒体・手段の多様化

「2」でも広報媒体について少々触れたが、ここで、媒体や手段についてまとめておきたい。

(1)体験によるもの
オリエンテーションや図書館ツアー、バックヤード見学などが行われている。HP上でも同様の動画が提供されている。

(2)視覚に頼るもの
看板(黒板)を使ったり、掲示、展示を行ったりする。地域の自治会の回覧板やケーブルテレビの利用もある。これらには二次元コードを掲載することもできる。
鳥取県立図書館では、常にテープカットの用意がしてある。館内の〇〇コーナー開設の際にもテープカットを行ってマスコミに取材してもらうという。以前、中学生がスーパーマーケットで職業体験している期間中に、「〇〇中学校様 職業体験中」と書いた幟が駐車場に立てられているのを見た。図書館実習にも応用できるのではないか。

(3)印刷物によるもの
利用案内や広報誌、チラシ、リーフレット、ポスター、しおり、地元紙への掲載などの印刷物による広報が従来は主流であった。これにも二次元コードが利用できる。印刷物を館内に置く場合には、利用者の視線や動線に配慮する。館外では、地域の美術館、博物館、映画館、書店、駅、学校等に配布するがインターネットの普及により大きく減少していると思われる。

(4)インターネットの利用
HPによる広報では、動画、ブログ、メルマガなどが提供され、SNSが利用されている。インターネットでの広報は、潜在的利用者へのアピールともなる。ぜひ、潜在的利用者を顕在化させたい。
インターネットでは、端末があれば、図書館へ行かなくても、「広報」から次々に実際の「サービス」に直結するものがある。例えば、オンラインビブリオバトルのお知らせと同時に参加申し込みができるページにリンクし、申し込めばURLが送られてくる。本のリストがあれば、即予約ができる。電子書籍であれば貸出ができる。レファレンスサービスのお知らせは、メールで質問できるページへリンクしている。利用者にとっては、広報とサービスの垣根がなくなり直結しているように感じられる。したがって、興味・関心から次々に画面をクリックしていきたくなるような画面作りや、必要な情報にすぐにアクセスできる画面作りが必要である。正直、情報が埋もれてしまって、あるはずの情報が探せないHPがある。
「広報」が企業・団体から一方的に行う情報発信であることに対して、「PR」は企業・団体と相手との双方向コミュニケーションであるとも言われる。インターネット利用は、まさに双方向コミュニケーションに効果的である。図書館アンケートやYA友の会会員の募集も利用者は手軽に気軽にアクセスし記入できる。

(5)自治体内における連携
「教育広報紙(誌)」のような他部局の広報媒体を利用したり、自治体の「教育の日」の行事の一環として児童・YAサービスの展示をしたり、教育委員会の学校図書館担当者研修会の際に学校支援サービスの説明をする時間をもらったり関連図書を展示したりするなど、工夫次第である。

6.おわりに

以前、「HPにブックリストを掲載しているが、中高生にどこまで届いているのか」という図書館員の声を聞いたことがある。フィードバックの仕組みやHPの更新頻度、発信力の向上など課題は多いだろう。
しかし、職員が何をやっていても広報とつながっている。「あっ、図書館はこんなこともやっているんだ」と必ず気づいてもらえる。こうした意識を常に持って仕事をすることが何より大切なのではないだろうか。

PAGE TOP