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「はらっぱ」 No.34 国際児童文学館 移転開館10周年を振り返る ~大阪国際児童文学振興財団とのかかわりの中で~

更新日:2021年3月31日


「はらっぱ」 No.34 国際児童文学館 移転開館10周年を振り返る ~大阪国際児童文学振興財団とのかかわりの中で~

掲載日:2021年3月31日更新

一般財団法人 大阪国際児童文学振興財団理事長 宮川 健郎

はじめに

2010年3月、吹田市万博公園内にあった大阪府立国際児童文学館の資料を、東大阪市の大阪府立中央図書館に移動し、同年5月、新たに大阪府立中央図書館国際児童文学館(以下、国際児童文学館とする)がオープンしました。図書館とは別の入口のあるスペースで、資料は、そこで引きつづき閲覧できるようになりました。資料収集などの活動にあたって、旧大阪府立国際児童文学館の事業を誠実に引き継いでこられた大阪府立中央図書館に敬意を表します。
旧大阪府立国際児童文学館を大阪府から運営受託していた私ども一般財団法人 大阪国際児童文学振興財団(以下、財団とする)も、2010年4月に、やはり大阪府立中央図書館内に事務所を移しました。経営的にはたいへん厳しい状況にありますが、10年間、何とか活動を継続することができました。
国際児童文学館の10年間の多くの活動に財団もかかわってきました。以下、具体的な事業について振り返りたいと思います。

資料を集める

国際児童文学館には、日本の子どもの文学のはじまりと考えられる巖谷小波『こがね丸』の初版(1891年)、鈴木三重吉主宰の児童雑誌『赤い鳥』創刊号(1918年7月)、宮沢賢治『イーハトヴ童話 注文の多い料理店』(1924年)、日本の絵本史の草分けである中西屋書店の『日本一ノ画噺(にっぽんいちのえばなし)』全35冊(1911年から1915年まで)など、ずいぶん貴重な資料が多数収蔵されています。『週刊少年マガジン』『週刊少年サンデー』の創刊号(いずれも1959年)をはじめとしてマンガ資料も多いのです。移転時は約70万点だった資料が現在は約83万点にふえています。これは、世界屈指の児童文学コレクションだといえます。
コレクションの増加は、国際児童文学館が従来の収書方針を基本的に踏襲し、日本で出版されたすべての子どもの本、その関連書、古書、洋書、雑誌を収集するという方針を引き継いでいる結果です。そして、財団は、専門知識を生かして古書や洋書、新刊等の資料の選定の支援を行っています。
収集資料に多くの寄贈資料が含まれる点も国際児童文学館の特徴です。国際児童文学館は、日本児童図書出版協会の会員の各社など数多くの出版社や個人、団体などから継続して新刊の寄贈を受けています。2019年度には、図書2,780冊、雑誌3,083冊、その他資料1,347点、計7,210点の寄贈がありました。
財団は、大阪府から、この寄贈の受付業務を委託されています。大阪府と財団は、児童書出版社に広く寄贈のお願いをし、新刊をいただいたときは、大阪府立中央図書館と財団の連名でお礼状をお送りします。財団の総括専門員(研究職)の土居安子が寄贈された新刊のすべてに目をとおして、ひとこと感想を付しています。国立国会図書館(その支部図書館が東京・上野の国際子ども図書館です)は、各出版社が新刊を納本する制度によって資料を集めていますが、国際児童文学館には、そのような制度はありません。国際児童文学館と財団に対する出版各社のご厚意によってコレクションがつくられているのです。
寄贈資料は、国際児童文学館に引き継いで、永久保存および利用に供することになります。寄贈者のお名前は、年1回発行する財団のレポートに記載させていただいています。
国際児童文学館に直接、寄贈の打診があることも多いのですが、財団経由で寄贈の申し出をいただくこともたびたびあります。最近では、ドイツ児童文学の翻訳家として大切な仕事をなさった故・上田真而子先生や、前理事長の三宅興子先生から、たくさんの貴重な資料をいただきました。

資料を生かす

貴重な資料は、活用されてこそ意味があります。その中にはまず、新刊を読み、伝える活動があげられます。その年の新刊児童書(絵本・読み物・科学の本)の傾向を紹介する「新刊紹介」は、従来から人気の講座でしたが、移転以降は、大阪府立中央図書館(国際児童文学館、こども資料室)、財団が協力し、2019年度までは3日間実施してきました(2020年度は新型コロナウイルス感染症防止のため、オンライン開催)。国際児童文学館内に新刊コーナーを設け、誰でもいつでも閲覧できるようになっている点も引き継がれていることの一つです。財団では、インターネット検索サイト「本の海大冒険」(2003、2014年度子どもゆめ基金助成事業)や富士通システムズアプリケーション&サポートとの共同開発システム「ほんナビきっず」、メールマガジン(登録者約3,500人)や「YouTube版 本の海大冒険」「新刊子どもの本 ここがオススメ!」(2020年4月開始)などで新刊情報を発信しています。
YouTube版 本の海大冒険の写真
YouTube版 本の海大冒険
YouTube版 本の海大冒険のQRコード

大阪国際児童文学振興財団 公式チャンネルIICLO

加えて国際児童文学館は、子どもの本に関する研究書も収集し、日本児童文学学会の学会賞の選考等でも活用されています。当財団理事・特別専門員の遠藤純は、毎年、日本児童文学学会研究紀要『児童文学研究』に「日本児童文学研究文献目録」を連載し、その成果が『日本児童文学文献目録』1945-1999、2000-2019の2分冊(遠藤純/監修 日外アソシエーツ 2019 年)にまとまりました。
収集した資料をより多くの人に知ってもらうために、国際児童文学館では文学館内のスペースを使った展示を定期的に実施していますが、大阪府立中央図書館の1階展示コーナーを使った年一度の大規模展示には、財団が協力しています。たとえば、2020 年11月から12月にかけては、資料展示「しかけ絵本に驚く、楽しむ―イギリスの歴史からはじめて―」の企画協力を行い、期間中に三宅興子先生を講師におまねきして財団主催、図書館後援の講演会を実施し、これはインターネット配信もしました。

資料を研究する、伝える

国際児童文学館は、新刊だけでなく、明治時代以降の歴史的資料の宝庫であることも大きな特徴です。子どもの本の「現在」を知るためには、歴史を振り返る研究が必要です。
国際児童文学館では、2015年度から「特別研究者」「専門協力員」を募集し、利用しやすい条件で国際児童文学館の資料を使って研究できる場を提供しています。
財団では、国の科学研究費助成を受け、継続して明治・大正・昭和初期の出版文化史を追う共同研究を約10人の外部の研究者とともに行っています(2020年度から3年間にわたる研究テーマは「明治・大正期における児童文学・児童文化の研究―巖谷小波未発表資料の検討を通して」)。 それによって、国際児童文学館の資料の価値を伝えるとともに、そこで学んだ知見を国際児童文学館への支援を含む財団のすべての活動に生かしています。その成果は、『大阪国際児童文学振興財団 研究紀要』にまとめ、毎年発行しています。研究紀要には、公募枠があり、国際児童文学館の資料研究を行っている研究者の成果を公開する役割ももっています。研究紀要は、33号まで刊行しました。
資料の保存も国際児童文学館の大切な役割です。財団では、文化庁文化芸術振興費補助金(メディア芸術アーカイブ 推進支援事業)を受け、国際児童文学館所蔵の貴重な雑誌の保存および活用のために資料のデジタル化を行い、内容目次を作成しています。

「国際」機能

子どもの本には多くの翻訳書があり、日本に居ながらにして海外の様子やものの見方を知ることができる「世界の窓」の役割を果たしています。財団では、設立当初から子どもの本にかかわる専門的な機関としては国際的な視野が不可欠だと考え、他機関とのネットワークづくりや作家を招へいした国際講演会や子ども向けワークショップなどの事業を実施してきました。国際児童文学館はイベント時には共催者や後援者として、かつ招へい者の資料収集、展示等で参画しています。
また、財団では、一般財団法人 金蘭会、大阪府立大手前高等学校同窓会 金蘭会と共催して世界の児童文学研究に貢献した人に贈る「国際グリム賞」を創設し、選考と表彰式・記念講演会を隔年で開催しています。今年度は、18 回目の選考を進めています。 候補者の選考には外国語資料が欠かせず、国際児童文学館の資料が大いに役立っています。
アメリカの絵本作家デイヴィッド・ウィーズナーさんの国際講演会の写真
アメリカの絵本作家デイヴィッド・ウィーズナーさん(2013年来日)

おわりに

ここに記したほかにも国際児童文学館は、10年間、多くの活動をされてきました。特に、大阪府立中央図書館の役割である府域の図書館員、学校司書、教員、読書活動ボランティアへの講座や支援は活発に行われています。
財団も独自に、『ひとりでよめたよ! 幼年文学おすすめブックガイド200』(財団編 評論社 2019年)などの子どもの本に関わる書籍の出版を行ったり、講演会の実施や講師派遣、絵本作家・児童文学作家のデビューを支援する「日産 童話と絵本のグランプリ」(2020年度は第37回)、当財団ボランティアといっしょに、大阪府立中央図書館や児童養護施設、モノレール等でのおはなし会を実施したりしています。
移転してから6年間は、財団職員が常勤または嘱託職員として国際児童文学館運営に携わりました。これまでの事業やノウハウの「引き継ぎ」が目的でした。しかし、図書館と財団は、もともと専門性が異なる職域であり、それをすべて引き継ぐことには困難が伴うのも事実です。引き継ぎ期間を終え、この10年ともに活動してきて今思うのは、お互いが専門性を発揮し、それぞれの得意分野を生かした関係を築くことが、国際児童文学館の稀少な資料を最大限生かすことにつながるのではないかということです。
以上のように、国際児童文学館は、移転後の10年間、「子どもの読書支援センター」、「児童文化の総合資料センター」の機能を果たすべく活動をされてきました。財団は国際児童文学館の資料を活用した継続的な研究を行うことで専門性を培い、国際的な視野で作家や出版社、研究者等と強いネットワークを築き、国際児童文学館と協働し、時に支援してきました。
新型コロナウイルス感染症が広がる中で、「ことば」「想像」「コミュニケーション」など、あらゆる視点で子どもの本の意義が見直されています。
今後も日本の宝であり、大阪の誇りである国際児童文学館の資料という「文化財」を活用して子どもの本の文化を継承し、発展させていくために、国際児童文学館のますますの充実を祈念し、財団も微力ながらその活動をサポートしつつ、ともに歩み続けたいと考えています。
大阪国際児童文学振興財団マスコット、イイクロちゃんのイラスト
移転10周年を記念して佐々木マキさんにデザインしていただいた当財団マスコットのイイクロ(IICLO)ちゃん
※IICLOは財団の英語名「INTERNATIONAL INSTITUTE FOR CHILDREN’S LITERATURE,OSAKA」の頭文字をとった略称


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