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本蔵-知る司書ぞ知る(109号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2023年11月20日版

今月のトピック 【音楽と絵画】

今月は、芸術の秋ということで「音楽と絵画のあいだに」と題して、1階の登録カウンター前にて音楽と絵画に関する本を展示しています。その中から、視覚芸術との関わりについて触れられた音楽家の本で、読みやすいハンディサイズのものを3冊選び、ご紹介します。

ドビュッシー(作曲家・人と作品)』(松橋麻利/著 音楽之友社 2007.5)

ドビュッシーは「映像」「版画」といった絵画的テーマの作品を多数残しています。この「作曲家・人と作品シリーズ」では、作曲家と作品に関することが書かれており、伝記として読むことができます。また、巻末には詳細な年表が掲載されていて、何歳くらいのときに何を考えどんな作品を生み出したのかを知る手掛かりになります。

パリ音楽散歩』(フジコ・ヘミング/著 朝日新聞出版 2008.7)

パリと東京で暮らすピアニスト、フジコ・ヘミングによるパリ案内です。特に第3章ではショパンやリスト、ラヴェルといった音楽家や他の芸術家に縁のある場所が、演奏家ならではの視点で美しい風景の写真と共に紹介されていて、ガイドブックのように旅する気分を味わうことができます。

吉松隆の調性で読み解くクラシック(1冊でわかるポケット教養シリーズ)』(吉松隆/著 ヤマハミュージックメディア 2014.10)

大河ドラマ「平清盛」のテーマ音楽を作曲した吉松隆の著作で、平易な文章で分かりやすく音楽の本質が語られています。本来は「聴覚」の刺激を色覚としてとらえる「色聴」についての話や、ハ長調やニ短調といった調性の違いについての私見が述べられていて、興味深い内容となっています。

今月の蔵出し

想い出の昭和型板ガラス:消えゆくレトロガラスをめぐる24の物語』(吉田智子/著 吉田晋吾/著  石坂晴海/著 小学館 2023.5)

先日、古い家が立ち並ぶ通りを歩く機会がありました。
その中の一軒の家の窓の、キラキラ輝く星のような模様の描かれたそのガラスは、私が子どものころに、祖父母の家の窓にはまっていたのと同じでした。
その家は古い家で、手すりのない急な階段が怖かったことや、その恐怖を乗り越えてでも、二階に置いてあった大好きな「わかったさん」シリーズの児童書を読みたかったことまで、芋づる式に思い出しました。
そんな懐かしい気持ちから手に取ったのが、本書『想い出の昭和型板ガラス:消えゆくレトロガラスをめぐる24の物語』です。

本書で紹介されている型板ガラスは、「消えゆくレトロガラス」との副題の通り、もう製造されていないものがほとんどだそうです。
たくさんのガラスが種類ごとに並んでおり、かつての製造会社も紹介されています。私の想い出のガラスにも、「よぞら」という素敵な名前がついているように、それぞれ個性的な柄や名前がついています。ぱらぱらとながめているだけでも楽しい本ですが、それぞれのガラスにまつわるたくさんの想い出をじっくり読むのもいいですね。
こうやって、今はないものに出会わせてくれるのは、本のいいところだと思います。
大阪府立中央図書館では古い本も保管しておりますので、あなたの想い出もどこかにあるかもしれません。よかったら、探してみてください。

【びいどろ】

江戸の旅行の裏事情(朝日新書)』(安藤優一郎/著 朝日新聞出版 2021.10)

ここ数年にわたるコロナ禍の影響により、旅行を楽しむということがずいぶんと減っていましたが、新型コロナウイルス感染症の「5類感染症」への移行により、ようやく旅行業界も活気づき、新聞などへの旅行関係の広告掲載も増えるなどコロナ禍以前の状態に戻りつつあります。

旅に出るとなると、まずは情報収集ということでガイドブックは必需品です。スマートフォンが普及し、まずは何でもインターネットで検索する現代であっても、まとまった旅情報を得るのに、ガイドブックは欠かせないという方も多いのではないでしょうか。

このガイドブック、江戸時代にはすでに存在していました。元禄時代には、成田山新勝寺の成田講、伊勢神宮の伊勢講などに代表されるような団体旅行で寺社参詣に訪れる人々が増え、旅行ブームとなりました。「講」とは寺社等の信徒などの組織のことです。また、江戸後期には温泉旅行が盛んとなり、旅行中の注意事項をまとめた『旅行用心集』では、292か所の温泉が紹介されているそうです。この他にも江戸の観光名所を4日で巡るコースをまとめた案内書「江戸見物四日めぐり」や江戸の飲食店から土産物店などショッピングガイド「江戸買物独案内」などが発行され、天保年代(1830~44)には図版を多く取り入れた『江戸名所図会』が刊行され人気だったそうです。

その他に時代劇などでもよく登場する関所について、意外にも「袖の下」が通用しており、「袖の下」として差し出す金額の相場も決まっていたことや、幕府による新たな江戸の観光地開発として隅田川堤や飛鳥山に桜を植樹したことなどが紹介されています。

本書の後半では、参勤交代などの武士や公家の旅や外交使節団の旅についても取り上げられています。

今日にもつながる江戸時代の旅事情について教えてくれる1冊です。

【たま】

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