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本蔵-知る司書ぞ知る(108号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2023年10月20日版

今月のトピック 【どんぐり】

どんぐり ころころ どんぶりこ♪ 今年もどんぐりの季節がやってまいりました。落ちているどんぐりや葉っぱを拾いながら、散歩をするのに良い季節ですね。今回のトピックでは、どんぐりや樹木に関する本の中から、秋の散歩がより楽しくなりそうな本を紹介します。

どんぐり見聞録』(いわさゆうこ/著 山と溪谷社 2006.10)

どんぐりを観察したり、どんぐりを食べたり、どんぐりを使って遊んだり。写真やイラストを使って、様々な角度からどんぐりの魅力を紹介しています。どんぐりをまくのは誰? どんぐりコーヒーっておいしいの? あの歌の歌詞に3番があるの? など気になるトピックがたくさん掲載されています。

どんぐりかいぎ(かがくのとも傑作集)』(こうやすすむ/文 片山健/絵 福音館書店 1995.9)

どんぐりにはたくさん実が成る「なり年」と、少ししか成らない「ふなり年」があります。豊作や凶作を繰り返すのはなぜなのか? どんぐりが子孫を残すための戦略や動物達との関係を、物語や絵を通して幼児向けにわかりやすく解説した絵本です。

樹木と遊ぶ図鑑:いろんな木と話をする方法(アウトドアガイドシリーズ)』(おくやまひさし/著 地球丸 1998.6)

図鑑というタイトルで木や花の紹介もありますが、春夏秋冬季節ごとに見られる木の観察の仕方や実の利用法、葉っぱでの遊び方など、樹木を存分に楽しむ方法を紹介しています。秋の項目には「身近なドングリを育ててみよう」「簡単な落ち葉遊びあれこれ」「鳥よせの赤い実図鑑」などがあります。

今月の蔵出し

紙つなげ!彼らが本の紙を造っている:再生・日本製紙石巻工場』(佐々涼子/著 早川書房 2014.6)

こんにちは~!おすしちゃんです。

長い夏が終わり、やっと涼しくなりました。そろそろ本が恋しくなる季節ではありませんか。本が読みたいですねぇ。さて、本は何から出来ていますか……?そうです!多くは「紙」ですね!紙の種類は数えきれないほどあります。じっとながめたり、触れたり、匂いをかいだりするのも楽しいですよね。

今回は、そんな本の紙を造っている工場を舞台にしたノンフィクションを紹介します。東日本大震災で被災した、宮城県石巻市にある日本製紙石巻工場を取材した本です。

この本では、製紙工場で働く人たちが被災して大変な日々を過ごす中、「出版を止めない」ために地震と津波の影響を受けた工場を再建していく姿が書かれています。さっぱりとした読みやすい文章でスルスルと読めるのに、内容はずっしりと重いです。同業他社や出版社との信頼で繋がっているエピソードには胸が熱くなり、被災地をありのままに書いている箇所はつらくて言葉にならない気持ちになりました。また、メインテーマである工場復興の中に、仕事への向き合い方や個人的な事情、その時の正直な感情など、粒々のエピソードが丁寧に挟み込まれているところもこの本の大好きなところです。

私にとっては、毎日数百回(数千回?)とめくっている紙について、作っている人たちのことを考えるきっかけになりました。いつもは「気が向いたら読んでほしい」と思いながら本を紹介していますが、今回はたくさんの人に読んで欲しいと思っています。

【おすしちゃん】

旅行者の朝食』(米原万里/著 文芸春秋  2002.4)

時折、思い出したように本棚から取り出して読み返すエッセイがあります。『旅行者の朝食』は、秋になると読み返したくなる1冊です。

本書は、ロシア語通訳者・米原万里による食エッセイ集です。大食いの早食いで、パサパサのサンドウィッチを水なしで食べられるという特技から「ツバキ姫」との異名を奉られるほどの健啖家であった著者。自身が体験した爆笑エピソードでは食への愛がほとばしり、その一方で深い知識や文献調査に基づいた食に関する蘊蓄が山盛りです。そのパワーにつられて、どう考えてもおいしくなさそうな食べ物すら、食べてみたくなること請け合い。例えば表題作の「旅行者の朝食」。実はこれ、旧ソ連時代の…あ、ネタバレになるのでここでは伏せておきましょう。ほかにも、「夕食は敵にやれ!」とか「人類二分法」とか、とにかく着地点がどこにあるのかよくわからないタイトルばかり。目次を見るだけでどんな内容なのかと、妄想がはかどって仕方がないのです。

ところで、わたしがこのエッセイ集を秋に読みたくなる理由、それは「ジャガイモが根付くまで」という、全く妄想の余地のないタイトルを冠された一編のためです。その名の通り、ジャガイモ料理のイメージが強いロシアにジャガイモが受け入れられたのは意外と最近だったという事実を考察していく中で、終盤に触れられたデカブリストたちのエピソードがとても印象的だったのです。デカブリストとは専制と農奴制の廃絶を目指して蜂起したロシアの青年将校たちのこと。「デカブリストの乱」が失敗に終わったことは歴史的事実として知っていたものの、蜂起した人々のその後についてはこれを読むまで知りませんでした。理想を実現することができず失意の中シベリアに流刑となった彼らは、決して自暴自棄にはならず、初めて農民の暮らしに直に接し、自ら大地を耕してジャガイモを作り、様々な努力をしてジャガイモをシベリアの大地に根付かせたのです。そんな彼らに著者は次のような優しい目線を向けています。

「華々しい蜂起よりも、理想主義的ロマンチストであった貴族の青年たちが、その後厳しい現実に直面しながら、ひるむことなく、いやむしろ現実を知ることによって、その志を貫いていった物語の方に、わたしは惹かれる。ちょうど、地中に実るジャガイモのように、地道で滋味豊かな味をしている。」(「ジャガイモが根付くまで」より)

物事がうまくいかず投げ出したくなったり、そっぽを向いてなかったことにしたくなったりした時、地道に前進することを諦めなかったデカブリストたちのことを思います。ジャガイモ料理がおいしい季節になると、ふと読み返したくなるのです。

【御書物方同心】


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