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本蔵-知る司書ぞ知る(103号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2023年5月20日版

今月のトピック 【ゴーギャン没後120年】

5月8日は、後期印象派の画家ポール・ゴーギャンの没後120年にあたります。当館ではこれにちなんで、20世紀初めにかけてフランスで活躍した後期印象派の3人「ゴーギャン・ゴッホ・セザンヌ」の展示を開催しています。今回は展示資料の中から3冊をご紹介します。

ゴッホとゴーギャン:近代絵画の軌跡 (ちくま新書)』(木村泰司/著 筑摩書房 2019.10)

美術史に燦然と名を残すゴッホとゴーギャン。その作品と、破滅的にも思われる生き様は多くの人々を引き付けてやみません。2人は1886年南フランスのアルルで共同生活を送りますが、性格や造形的アプローチの違いから関係は悪化。ゴッホの「耳切り事件」を機に、わずか2か月で共同生活は終わりを告げます。印象主義の影響を受け、そこから独自の絵画を切り開いていった画家たちの軌跡を辿ります。

絵画のなかの熱帯:ドラクロワからゴーギャンへ』(岡谷公二/著 平凡社 2005.12)

19世紀から20世紀にかけて、植民地拡大と共にフランスではエグゾティスムが席捲し、異国情緒あふれる熱帯への憧れが高まりました。パリで行われた万博の植民地パビリオンはそんな人々の幻想をさらに後押しします。暗く腐敗した西欧に対して、熱帯は輝く太陽であり本能、生命力、燃え上がる色彩でした。ドラクロワのモロッコ旅行からゴーギャンのタヒチ行きまで、当時の画家が熱帯にどんな思いを抱き、絵画にどのように描き出したのかをさぐります。

月と六ペンス (新潮文庫)』(サマセット・モーム/著 金原瑞人/訳 新潮社 2014.4)

ストリックランドは平凡な株式仲買人でしたが、題名の「六ペンス」に象徴されるような世俗の成功を捨て、パリに住む妻子も捨て、画家として「月」のように手の届かぬ美を狂信的に追い求めます。本書はイギリスの作家サマセット・モームがゴーギャンから着想を得て書いた小説として有名ですが、主人公ストリックランドとゴーギャンとは実はかなりの相違があります。例えば、ゴーギャンはフランス人ですが、作中でストリックランドはイギリス人とされています。他にも女性関係や亡くなった場所など異なる点はまだまだあります。両者を比べながら読んでみると、普通に読むだけでは気づかない発見があるかもしれません。

今月の蔵出し

幕臣列伝』(綱淵謙錠/著 中央公論社 1981.3)

江戸幕府を倒し、明治新政府をつくっていった人びとはもちろん魅力的なのですが、同時に、「敗者」である幕府方の人物にも心惹かれます。

この本は、黒船来航以後の幕末において、幕府を支えた「幕臣」たちの姿を描いた一冊です。

川路聖謨、堀織部正、岩瀬忠震、水野忠徳、村垣淡路守、池田筑後守、栗本鋤雲、西周、小栗上野介、勝海舟、榎本武揚、成島柳北、福地桜痴といった、西欧列強の外圧にさらされた幕府がこれに対応する中で頭角をあらわした人びとが取り上げられます。

尊王攘夷の嵐が巻き起こり、動揺する幕府にあって、国家の命運を賭けて、強大な軍事力を持つ列強との外交交渉に臨んだ彼らが、その中でいかに世界の情勢をつかみ、日本の行き先を見定めようとしたか。ひとりひとりの「列伝」を通して、幕末の幕府外交史としても読める本となっています。

著者はいいます。

「幕府外交の実績があったからこそ、換言すれば、のちに明治政府を形成する<薩長土肥>が行った攘夷運動の尻拭いを諸外国にたいして誠実に行ってきた幕府外交の一貫した実績があったからこそ、明治国家は西欧列強と(幾分の不平等は背負わされていたとしても)相互に通交ができたのである。」

激動の時代の中での彼らの活躍、そして末路、その生き様が淡々と綴られ、心に残る本です。

【M】

てつがくのライオン:工藤直子少年詩集(詩の散歩道)』(工藤直子/著 佐野洋子/絵 理論社 1982.1)

いきものや自然、春夏秋冬、そして胸のなかの風景をテーマにした詩や短篇がたくさん詰まった詩集です。1つ1つの詩は独立していますが、それぞれにどこかでつながっているような気もします。最初から最後まで読み通してもいいし、気になる詩をピックアップして読んでもいい形になっています。

詩集のタイトルにもなっている「てつがくのライオン」。これは何度も読み返したものです。

「ライオンは「てつがく」が気に入っている。」から始まる素敵なフレーズ。さあ、どんなお話が始まるかと期待をさせます。どうして気に入っているかって?かたつむりが「ライオンというのは獣の王で哲学的な様子をしているものだと教えてくれたから。」だそうです。ライオンが「てつがくてき」になろうと思い、座りかたから工夫して一日を過ごすお話です。

ライオンは若いとも年寄りとも書かれていません。同じ姿勢をして、肩こりはするみたいですが、若くて、これから自分なりの哲学がわかっていくのかと期待を持たせてもらえる、ただのナルシストでないライオンならいいなと思います。

他にも、友だちがほしかった寂しいライオンが、初めて近くに寄ってきてくれた「縞馬」と友だちになるお話「夕陽のなかを走るライオン」も入っています。

長新太の絵で作られた絵本『てつがくのライオン』と見比べるのもおススメです。

【雨水】


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