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本蔵-知る司書ぞ知る(102号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2023年4月20日版

今月のトピック 【郵便】

4月20日は郵政記念日です。その由来は日本郵政のホームページによると、「逓信省時代の昭和9(1934)年に、一般会計から分離して通信事業(郵便や電話など)の特別会計が創設されたことに伴う記念事業の一環として、郵便事業の太陽暦での創業日の4月20日を「逓信記念日」として定めたことが始まり」とのことです。今回は大阪府立図書館が所蔵する資料から郵便に関する3点をご紹介します。

前島密:前島密自叙伝(人間の記録)』(前島密/著 日本図書センター 1997.6)

日本の郵便制度の父と言われる、前島密の自叙伝です。実際に本人が執筆しているのは、前半部分の明治9年までで、その後については編者の市島健吉による後半生録として補完されています。前半部分は、文語体の文章のため読みにくいかもしれませんが、本人による貴重な記録となっています。

郵便の歴史:飛脚と郵便150年の歩みを語る』(井上卓朗/共著、星名定雄/共著 鳴美 2021.6)

郵便創業前となる江戸時代の飛脚のことから、民営化後の郵便事情まで、日本の郵便の歩みについて語られています。近年はインターネットの普及により、以前に比べて郵便を利用する機会が減ってきていますが、日本全国に張り巡らされた郵便サービスがどのように構築されたかを知ることができる本です。

世界の郵便ポスト:196カ国の平和への懸け橋』(酒井正雄/著 講談社エディトリアル 2015.9)

世界中を訪ね歩き、ポストのある風景を撮り続けて30年の著者が、196カ国のポストをカラー写真で紹介している本です。私たちが普段イメージする赤色のものが多いですが、黄色や青色、緑色など国によって異なり、形状も様々で眺めているだけで楽しめる本です。

今月の蔵出し

進化くん』(マラ・グランバム/著 飛鳥新社 2016.8)

「「創造論」というのは、たわごとだ。

「進化論」などというのも、大まちがいである。

生物の進化は、進化くんが内職でやっていたのだ。」

こんな扉書きのある本書は、地球上の色々な生物の色鮮やかな写真と、その横に「進化くん」と「生物多様性くん」という二人の登場人物のコントのような会話が書かれた、生物をテーマにした写真絵本のような作品です。

紹介されているのは、「花のような鼻のモグラ」や「前足で歩くカエルに似たアンコウ」、「ゼリーのような透明なイモムシ」など、個性豊かな生き物たち。写真を一目見れば、なぜこんな風に進化したのか疑問を抱かずにはいられません。が、本作では、生物の進化は「進化くん」の内職なのであまり進化の理由については語られません。

そのため本書はあまり知識を得るのには向いていないかもしれませんが、生物の世界に興味を持ち、楽しむのには最適な一冊です。もちろん時間つぶしにもピッタリですので、一度読んでみてはいかがでしょうか。

【帖木真】

新潮日本語漢字辞典』*(新潮社/編 新潮社 2007.9)

「音訳」という言葉をご存知ですか?音訳とは、視覚障がい等により文字による読書が困難な方のために、図書や雑誌などの内容を音声で伝えることをいいます。業務で音訳に関わるようになって3年が経ちました。そのなかで、日本語の、それも漢字の難しさに直面することになりました。

たとえば、こんな文章です。

「尾上敬之は故郷の広島に帰り、御坊迫の港で海が夕照に燦めくのをじっと眺めていた。」

視覚で、目で読む場合ならば、漢字の読みが曖昧で、正しく音声にできなくても、だいたいの意味が理解できますよね。しかし、音訳の場合、読み間違いがあれば、聞き手に誤った情報を与えてしまうことになりかねません。そこで、必ず事前に読み方の調査をして、正しい読みを確認します。その際、私たち司書はさまざまな資料を使って、音訳者が読み方を調べるための支援を行っています。しかし、とにかく読めない漢字の多いこと・・・。ただただ難しい漢字から、幾通りにも読める漢字、当て字、そして著者の造語まであります。

四苦八苦しながら調査に携わるうちに、この辞典を用いる機会が増えていきました。本書は「日本語漢字辞典」とあるように、日本語の文章を読むことを目的に作られ、音読、訓読ともに、近代・現代文学からの用例が多数掲載されています。たとえば、「燦」の字では、「燦めく(きらめく)」「燦々(きらきら)」「燦然(きらり)」といった使われ方が示されています。このほか、難読の人名や地名も掲載されており、読み方の調査に重宝するとともに、読んでも楽しい辞典です。

最近はパソコンやスマホで文字を入力することが多くなり、漢字を意識する機会も減っていました。しかし、音訳に携わり、この辞典と向き合うことで、あらためて日本語を意識するきっかけになりました。

例の文章をもう一度見てみましょう。音訳では、著名ではない人名で、読みが分からない場合は一般的な読み方をします。何通りにも読むことができる場合は「よく使われる読み方」を『日本姓名よみふり辞典』(姓の部名の部)*で調べることができます。広島県の「御坊迫」は実在の地名で、『国土行政区画総覧』*によると読み方は「ごぼさこ」となっていました。全文を読むとこうなります。

「おのえ たかゆきは こきょうの ひろしまに かえり ごぼさこの みなとで うみが せきしょうに きらめくのを じっと ながめていた」

読めましたでしょうか?世の中にあふれる難しい漢字に興味を持たれたときは、ぜひ図書館で調べてみてください。

*の資料は館内利用のみです。

【走る図書館員】


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