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本蔵-知る司書ぞ知る(97号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2022年11月20日版

今月のトピック 【サッカーの裏方職業】

4年に1度の祭典ワールドカップが始まります。各国の意地やプライドがぶつかり合う計64試合、総試合時間5760分の間にはどんなドラマが待っているのでしょうか。今大会では主審に女性審判が参加することもニュースになりました。試合に必要不可欠な存在なのにあまり注目を集めない主審にスポットライトが当たったことは、とても意義深いように感じます。そこで今回は選手たちを陰で支える人物を取り上げた本を紹介します。

平常心:サッカーの審判という仕事』(上川徹/著 ランダムハウス講談社 2007.3)

学生時代にユース代表を経験した著者でしたが、ひょんなことから審判の道に進みます。その後審判としての研鑽を重ね、2006年大会の3位決定戦では日本人として初めて決勝トーナメントで主審を務めました。そこに至る過程に加え、試合中に犯したミスやミスを減らす取り組み、試合前の不安や裏話などが赤裸々に書かれており、審判職の奥深さに触れられる一冊です。

通訳日記:ザックジャパン1397日の記録』(矢野大輔/著 文藝春秋 2014.12)

2010年から2014年まで日本代表を率いたアルベルト・ザッケローニ氏の通訳を務めた矢野大輔氏の日記です。あとがきに「4年間の日本代表活動の総括でもなければ、勝因や敗因を提示するものでもない(中略)4年間に及ぶ戦いの詳細な記録である」とあるように、その日に起きた出来事や監督の言葉が詳細に書かれています。中には選手との会話も書かれており、「そんな話をしているのか!」と驚くとともに、監督が何を考えていたのかも知ることができます。

サッカー日本代表帯同ドクター:女性スポーツドクターのパイオニアとしての軌跡』(土肥美智子/著 時事通信出版局 2019.9)

2018年大会でチームドクターとして日本代表と行動を共にし、現在も日本サッカー協会で医学委員として活動している土肥美智子氏の著作です。2018年大会に参加した32か国中、女性のチームドクターは著者のみだったそうです。「帯同ドクターの仕事」や「スポーツドクターのなりかた」から2018年大会での日本代表の裏話まで、ざっくばらんに書かれています。

サムライブルーの料理人:サッカー日本代表専属シェフの戦い』(西芳照/著 白水社 2011.5)

2006年から日本代表専属シェフを務めている西芳照氏の著作です。環境や食習慣が違う海外の地で試合をする選手のためにどのようにメニューを決めているのか、食材の取り扱いをどうしているのか、試合前後の食事で意識していることは何かなど、数多くの実例を通して紹介しています。著者の優しさがにじみ出る文章は、「食事がいかに選手の調子やパフォーマンスに関わっているか」を感じさせます。一部のメニューは巻末にレシピが記載されており、それも参考になります。

今月の蔵出し

ことばと思考(岩波新書 新赤版)』(今井むつみ/著 岩波書店 2010.10)

近頃、ウェブで手軽に翻訳サービスが利用できるようになっていますね。先日、日本語から中国語へ翻訳する機会があり利用したのですが、変換したい単語や文章を日本語で入力すると、瞬時に中国語に翻訳してくれました。私は中国語の心得がなかったので、翻訳された中国語をさらに英語に翻訳してみると、うまく翻訳できていそうな感じがしました。ですが、試しに完成した中国語を日本語に翻訳してみると、なんとも不思議な日本語になってしまったりします。やはり、外国語の翻訳をするというのは難しいのでしょうか。

本書では、私たちがことばを通して世界を見たり、ものごとを考えたりするにあたり、言語の違いが認識や思考に与える影響について考察します。発達心理学、認知心理学、脳科学の観点から行われた調査や実験の結果から、ある言語の前提が、他の言語では必ずしもあてはまらないことに気づかされます。本書の中でも特に興味深かったのは、言語による色の認識の違い関する実験です。英語で「青(ブルー)」とされる色に対して、ロシア語では「薄い青(ガルボイ)」と「濃い青(シニー)」という二つの別の色として区別しているとのこと。さらに、ガルボイとシニーにジャンル分けされる色が並んだ場合、ロシア人はアメリカ人に比べてその違いを容易に判断できるようです。実際にウェブでガルボイ(голубой)とシニー(синий)を英語に翻訳すると、どちらもブルー(blue)に翻訳されました。

この実験のように、本書の前半では言語による認識の違いについて紹介していますが、後半では、言語の普遍性や認識への影響について触れていきます。そして、先程紹介した実験にはもう少し続きがありますので、ぜひ確かめてみてください。

大学生の方をはじめ、哲学や心理学、言語学に興味のある皆さんにおすすめしたい一冊です。

【バックパッカー】

蒼穹の昴 上』(浅田次郎/著 講談社 1996.4)

中国清朝末期を描いた、浅田次郎の大作歴史小説。これまでにテレビドラマ化もされている人気作です。

主人公の2人は同じ村の出身。貧しい家の少年・春児は生き延びるために宦官になる決意をします。一方、地主の息子・文秀は科挙に及第し、進士として歩み始めます。列強が中国での利権を得んと虎視眈々と窺うなか、紫禁城内では光緒帝を中心とする変法派と西太后の一派が対立を深めます。策謀渦巻く宮中で、運命に導かれた人々が激動の時代を生き抜く姿が描かれています。

私が最初にこの小説を読んだのは高校生の頃でした。当時、『彩雲国物語』や『十二国記』などの中華風ファンタジーに夢中になり、そのうちに実際の中国を舞台にした小説も読んでみたくなって本書を手に取りました。そして、この小説の中で描かれる煌びやかで時に不可解な中国文化にたちまち魅了されました。
科挙、宦官、京劇、宮廷料理、四書五経、登場人物が折々に口にする経典や詩歌の一節…
一つ一つがどれも奥深く、興味が尽きません。中国の文化や思想に興味が出てきた私は、大学では中国哲学史を学ぶまでになってしまいました。

そして今年、大好きな「蒼穹の昴」が宝塚歌劇団で舞台になるということで、宝塚は初心者ながら観劇に行ってきました。単行本2巻、文庫本なら4巻の内容が約2時間半に凝縮されていたのですが、春児が西太后の御前で京劇を披露する場面など衣装が舞台に映えてとても華やかでした。舞台の興奮が冷めぬまま家に帰って一気に原作を読み返してしまいました。

「蒼穹の昴」シリーズは『珍妃の井戸』、『中原の虹』、『マンチュリアン・リポート』、『天子蒙塵』、『兵諫』と続きます。長編小説ではありますが、中国の歴史などの事前知識が無くても読みやすく、するすると作品の世界に引き込まれること間違いなしです。ぜひ手に取って読んでみてください。

【ぱおず】


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