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本蔵-知る司書ぞ知る(94号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2022年8月20日版

今月のトピック 【グラハム・ベルと電話機】

8月2日が電話の父として知られるアレクサンダー・グラハム・ベルの命日で、今年が没後100年であることにちなみ、当館では展示「グラハム・ベルと電話機」を8月31日まで開催しています。今回は展示資料の中から以下の3点をご紹介します。

グラハム・ベル:声をつなぐ世界を結ぶ』(ナオミ・パサコフ/著 近藤隆文/訳 大月書店 2011.4)

本書は、「オックスフォード科学の肖像」シリーズの一冊で、写真や図を随所に取り入れ、わかりやすく書かれた伝記です。ベルの生い立ち、電話機の発明、聴覚障害者教育の取り組み、晩年の航空機実験の内容などが記されており、文章の所々にベルの思考や言葉が散りばめられています。また本書の中では、アーサー・H・ケラー大尉と娘のヘレン・ケラーがベルのもとを訪れ、それを契機にヘレンとアン・サリヴァンの出会いに繋がったことや、その後のベルとヘレンの交流についても描かれており、とくにヘレンの「その面接が暗闇から光へと通じる扉になるとは夢にも思いませんでした」というベルとの出会いを語った一文が印象的です。ベルとヘレンの交流についてより詳しく知りたい方は、『ヘレン・ケラーを支えた電話の父・ベル博士』も合わせてご覧ください。

グラハム・ベル空白の12日間の謎:今明かされる電話誕生の秘話』(セス・シュルマン/著 吉田三知世/訳 日経BP社 2010.9)

電話機の発明については、米国ではベルの他にイライシャ・グレイも通話実験を行っており、二人の特許出願は、1876年2月14日同日であったことが知られています。本書では、米国議会図書館によって公開されたベルの実験ノートを見た著者が、特許出願後の空白の12日間の後のノートの記載内容に疑問を抱き、ベルの生い立ちや、ベルとグレイそれぞれの通話実験の内容、特許出願後の足跡などを調査した結果と考察が記されています。サイエンス・ライターである著者の綿密な調査と足を使った取材により、電話機発明の真相に迫る内容は、読み進めていくうちに、ミステリー小説のように引き込まれていきます。

電話100年小史』(日本電信電話株式会社広報部/企画・編集 日本電信電話 1990)

本書は、明治23(1890)年の「日本の電話創業」から平成2(1990)年の「21世紀の情報通信」まで、年表形式でページごとにその年の電話に関する出来事をまとめたものです。各年の出来事だけでなく、全体を通して日本の電話事業がどのように発展してきたかについても知ることができます。ページによっては電話にまつわるエピソードも掲載されており、たとえば、12ページに掲載されているエピソードでは、明治9(1876)年当時、ハーバード大学に留学していた伊沢修二と友人の金子堅太郎がベルの下宿を訪ね、電話機で日本語での通話を試みたことが記されています。

今月の蔵出し

『​人間工学基準数値数式便覧​』* (勝浦哲夫/[ほか]共編 技法堂出版 1992.4)

「人間の脳の重さは20歳男性で約1400グラムと言われています。では、5歳男子では何グラムぐらいでしょう?」

まるでどこかのクイズ番組にでも出てきそうなクイズですが、便利になった現在ならスマートフォンでパパっと検索をして答えが探せるかもしれませんね。

ただ、そうやって出てきた情報は情報源や出典が分からず、「~と言われている」「~らしい」となかなか不確実なものが多く、しっかりした出典が掲載されたものをインターネット上で探すのは意外に苦労します。

さて、この『人間工学基準数値数式便覧』は、そうした人間に関わる様々な数値・数式を「この文献で出された値」と出典と共に書かれている資料です。最初のクイズの答えも、この本のp.48にて標準化された数値として「1225g」と書かれていました。

他にもこの本には、身長体重といった基本的なものから、骨密度、生活時間としての24時間の使い方まで、様々な数値が書かれています。

資料タイトルにも書かれている「人間工学」では、こうした人間に関わる様々な数値が使われます。「人間工学に基づいて作られたペン!」という売り文句を見かけたことがありませんか? あれを作るためには、きっと人の手の大きさや筆圧など、いろいろなデータが考慮されていたのでしょう。

なお、この本は1992年のものです。数値によっては年月が経つと変化していることもあります。そんなときは、この数値の出典となっている資料を確認し、新しいデータに更新されていないかを確認したり、他の参考資料でデータを探したりします。お手伝いしますので、そういうときは司書にお尋ねください!

*の資料は館内利用のみです。【RY】

デフ・ヴォイス:法廷の手話通訳士(文春文庫)​』(丸山正樹/著 文芸春秋 2015.8)

「コーダ」。映画にもなり、社会的に認知度もあがってきたこの言葉をご存知でしょうか。

この物語の主人公は両親と兄がろう者で自身は聞こえる「CODA(コーダ)(Children of Deaf Adults)」です。家族の中でただ一人聞こえるがゆえに幼い頃から家族と世間との間の通訳をしてきて、ろう者の第一言語である手話でよどみなく話せても、家族からも他のろう者達からも“ファミリー”と認めてもらえません。

わけあって43歳で警察事務の仕事をやめ、再就職のために手話通訳士となります。対象者に合わせて、自在に手話を使い分けるコーダならではの通訳は人気を呼び、次々に派遣依頼が入る中、警察勤務時代に一度だけ担当した取り調べの通訳がきっかけで、法廷通訳(裁判の通訳)を断り切れずに引き受けることになりました。

その裁判で担当したろう者の専属通訳として、支援団体と関わるうちに、17年前に通訳を担当した殺人事件が再びクローズアップされ、渦中に巻き込まれていきます。

全編を通して、ろう者のアイデンティティやコミュニティ・文化、音声日本語とは異なる言語である手話について、様々なエピソードを交えて描かれます。疎遠になっていたろう社会と再び関りを持ち始め、複雑な思いをかかえて生きてきた主人公が、時に通訳の立場を越えて思いがけない一面を見せるにつれ、どんどん作品の世界に引き込まれていきます。

タイトルの「デフ・ヴォイス」には作中にも出てくる「ろう者が発する声」のほか、「手話」「社会的少数者の声」の3つの意味があるそうです。

声が一人一人違うように手話ももちろん違い、その違いや聞こえないことが作品の鍵にもなっています。手の動きだけで手話のセリフが描かれ、後からその意味を説明する手法も、手話を知っているとよりおもしろいですが、手話やろう者と全く関わりがなくても、ミステリーとして楽しめます。シリーズは現在4冊出ていて、4作目『わたしのいないテーブルで:デフ・ヴォイス』​はコロナ禍で生きるろう者たちが描かれています。

                                            【BM】


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