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本蔵-知る司書ぞ知る(91号)

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更新日:2022年5月20日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。
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2022年5月20日版

今月のトピック 【ボクシング】

5月19日は「ボクシングの日」です。1952(昭和27)年5月19日、世界フライ級タイトルマッチで白井義男が日本初のチャンピオンになったことに由来しています。当館ではこれにちなんで、「ボクシングを読む」と題した展示を開催中。今回は展示資料の中から3冊をご紹介します。

コナン・ドイル・ストーリーズ 1 クロックスリーの王者(シリーズ世界の文豪)』(コナン・ドイル/著 岩佐薫子/訳 柏艪舎 2012.9)

名探偵・シャーロック・ホームズの生みの親、コナン・ドイルはスポーツマンで、自身もアマチュアのボクサーでした。この本にはボクシングがテーマの短篇が4つ収められています。表題作は、お金に困っていた医学生が賭けボクシングの挑戦者を誤って倒してしまい、代わりに試合に出ることになった顛末とその後を描き、一気に読ませる作品です。

トランスジェンダーの私がボクサーになるまで』(トーマス・ページ・マクビー/著  小林玲子/訳 毎日新聞出版 2019.8)

心の性と体の性が一致せず悩んだ著者は、テストステロン(男性ホルモン)を注射するなど、男性としての外見を獲得したことで、内面的にも有能で、力を持ち、将来のある人間として扱われるようになります。しかし、それゆえに却って「男らしさとはどういうことか」と悩むことになり、その答えを求めて、ボクシングを始めます。トランスジェンダーの男性として、初めてマディソン・スクウェア・ガーデンで行われたボクシングの試合で闘った、ジャーナリストの体験談です。

AFTER THE GONG:「今」を生きるアマチュアボクサーたちの肖像』(高尾啓介/写真 『AFTER THE GONG』編集委員会/編集 忘羊社 2019.5)

アマチュアボクサーたちの人生を追い続ける写真家の3作目となる写真集です。個性豊かなボクサーたちのリング上の姿と普段の姿を対比して構成されています。のちにプロボクサーになった者、経営者、消防士、アーティストなど全く違う職業に就いている者など、被写体になった人々の姿は実に様々です。写真家の手によって刻み込まれたボクサーたちの一瞬の記録は、ボクサーたちの「今」を支え、彼らの人生を豊かなものにしていることを私たちに伝えてくれます。生き生きとした表情に元気がもらえる一冊です。

今月の蔵出し

しずくの首飾り(岩波ものがたりの本)』(ジョーン・エイキン/作   ヤン・ピアンコフスキー/絵 猪熊葉子/訳 岩波書店 1975.9)

小学生のころに読んで、とても印象に残ったお話がありました。
教科書にのっていた、3人の駅員さんのお話です。
おおきな砂漠の中にあるちいさな駅で、お客が誰も来ないことをなげいていた駅員さんたちが、お金をためて順番に休みをとり、ひとりは東の端へ、ひとりは西の端へ旅行に出かけます。最後のひとりは…、というお話で、ストーリーも、文章も、影絵のようなさし絵も大好きでした。
でも、そのうち題名も分からなくなり、ときどき「そういえば」と思い出したり、さし絵が頭に浮かんだりすることがありましたが、やがて忘れてしまいました。

この作品にふたたび出会ったのは、図書館で働くようになってずいぶん経ってからです。何かのはずみで思い出し、そのときは思い立って、この作品が何か調べてみようと思ったのでした。見つかったのが、この短編集にのっていた「三人の旅人たち」です。
信号手のスミスさん、荷物がかりのジョーンズさん、きっぷ切りのブラウンさんという名前を見ると、一気にいろんなことを思い出しました。お話の言い回しも、駅員さんの話し方も、そして影絵のようなさし絵も、記憶の中の教科書のものと一緒だったのがとてもうれしかったです。

この本には、「三人の旅人たち」を含めて8つの短編がおさめられています。イメージがぱっと広がり、すぐに引き込まれてしまうお話ばかりの、素敵な作品集です。

【M】

「地球の歩き方」の歩き方』(山口さやか/著 山口誠/著 新潮社 2009.11)

今から40年ほど前に海外を自由旅行する-自分で乗り物のチケットを手配し、ホテルを確保して旅する-人が必ずといっていいほど携帯していたのが『地球の歩き方』です。
『「地球の歩き方」の歩き方』は、多くの人に知られているこの旅行案内書のシリーズを創刊した4人の合計100時間にわたるインタビューを通して、『地球の歩き方』の誕生と発展、変遷を記録したものです。

刊行までの少し長めのいきさつ、1979年に最初に出版された「ヨーロッパ編」「アメリカ編」への思い、『地球の歩き方』の方向性を決定づけた「インド編」、シリーズを特徴づけている現地を旅した先達たちの投稿を掲載した理由が語られます。大陸から国ごと、都市ごとに分冊され、多くのタイトルを得た『地球の歩き方』は、これまで対象とされていなかった国や地域を旅行の範疇に組み入れました。
1980年代のバブル時代から1990年代のその崩壊等、時代とともに旅行のスタイルは変貌し、ターゲットとなる読者を「オール・ゼネレーションの読者」とするか初期の長期の自由旅行の読者とするか、編集者の葛藤する様子も綴られています。

この本は2009年の刊行です。これ以降も旅行をめぐる環境は、スマホの誕生により情報機器の性能が向上、小型化し、さらに数年来のコロナ禍でアウトバウンドが落ち込むなど大きく変わっています。
海外の自由旅行から始まった『地球の歩き方』も近年では「東京編」や「京都編」のような国内の観光地を紹介するシリーズが登場し、ついには地球の不思議スポットへの行き方、歩き方を紹介する『地球の歩き方ムー』まで誕生しています。
2021年にはJTBが『るるぶ宇宙』を刊行しました。ある会社の月周回旅行プランによると、打ち上げ現地までの往復を除いて、ツアー日数が約6日。予算約700億から1000億円だとか。洒落で楽しむ本ではありますが、旅行する範囲に月や火星が来る日も遠いことではないかもしれません。

【茶風鈴】

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