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本蔵-知る司書ぞ知る(87号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2022年1月20日版

今月のトピック 【大阪国際女子マラソンを彩った人々】

1月30日に「第41回大阪国際女子マラソン」が行われます。第1回は今から40年前の1982(昭和57)年1月24日に行われ、当時は「大阪女子マラソン」の名称でした。

今回は大阪国際女子マラソンの40年間を彩った選手や監督などの伝記本3点を紹介します。

夢を力に!:夢を見続け、夢に向かって疾走した、三流ランナー有森裕子と無頼派コーチ小出義雄のふたり旅』(小出義雄/著 ザ・マサダ 1996.12)

有森裕子の初マラソンは1990年の大阪国際女子マラソン。そこから一気にトップランナーへの道を駆け上がり、オリンピックでは2大会連続でメダルを獲得しました。本書は小出義雄監督が有森のアトランタオリンピックまでの道のりを綴っています。

カントク:オリンピック女子マラソンランナーを育てた男たち』(奥田益也/著 家の光協会 1996.7)

本書は有森裕子、浅利純子、真木和をオリンピック代表に育てた3人の監督について描いたスポーツ・ドキュメントです。

1993年の大阪国際女子マラソンで優勝した浅利は若い時から有望視された選手ではありませんでした。しかし、鈴木従道監督によって潜在能力を見出され、オリンピックに挑む選手にまで成長します。本書を読むと「喜びはほんの一瞬。あとはどれだけ辛い想いをするか」という鈴木監督の言葉が真に迫ってきます。

おしゃべりなランナー:走って転んでまた起きて』(増田明美/著 リヨン社 1997.12)

今では「細かすぎる解説」としても有名な増田明美。選手時代は2度の世界最高記録を更新するような卓越したランナーとして活躍する一方、ロサンゼルスオリンピックや引退レースとして臨んだ1992年の大阪国際女子マラソンで途中棄権するなど、その競技人生は決して順風満帆ではありませんでした。失敗と再起を何度も経験した増田の率直な言葉は、次の一歩を踏み出す勇気を与えてくれます。

今月の蔵出し

ヌシ:神か妖怪か』(伊藤龍平/著 笠間書院 2021.8)

「ヌシ」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?ある人は、古典に登場する大蛇かもしれません。またある人は、湖に生息すると噂される、幻の恐竜かもしれません。本書の表紙には、月に照らされた、森の中にある湖沼の水面に浮かぶ二つの目がこちらを見つめている絵が描かれています。この表紙の絵のように、ヌシのイメージは、得体の知れない、近づいてはいけない、怒らせると祟りが起こるといったところでしょうか?一体、ヌシって何でしょうか?

「本書は、ありそうでなかったヌシについての本」です。「ヌシの条件」をわかりやすく教えてくれます。また、ヌシとは神でもあり妖怪でもあることや、ヌシとのつきあい方、ヌシの種類や行動学などについて考察しています。日本各地に伝わるヌシの伝承や昔話、それらをもとに創作されたアニメや映画などにみられるキャラクターも取り上げます。ヌシとは日本で昔から語り継がれ、現代にも伝わる身近な存在であると気づかされます。そして、その考察は、自然と人間との関係にまで及びます。ヌシが何であるかに迫ろうとする本書は、ヌシ論序説あるいは覚書とのことですが、まるでヌシの棲みかのように淀んだ深淵な世界をのぞいてみませんか?

【水花】

物語を忘れた外国語』(黒田龍之助/著 新潮社 2018.4)

新しい年の初め、何か新しいことを始めようとしている方におすすめの一冊です。本書では、長年ロシア語講師を務めスラブ系諸語にも造詣の深い著者が、言語との付き合い方について語ります。

無類の語学好きである著者の学び方は、ユニークです。「物語を読むことが食事をとるのと同じくらい自然」だという姿勢がはっきりしているからです。日本の外国語学習は体育会系であると著者は言います。ある言語を学ぶとなると、まずは検定問題集を購入しぼろぼろになるまで繰り返す、アスリートのような学習法です。対して、著者は読書を楽しみながら言語を身につけていきます。

あるとき、チェコでの講演を依頼された著者は、なんとかしなければと思い、まずはチェコ語で読書を始めます。選んだのは、星新一作品集。中学時代に愛読した作品をチェコ語で読めば、作品を再び楽しむこともでき、同時にチェコ語も上達するだろうと考えます。ほかにも、海外の映画を観て気になった言葉を原作で確認したり、英訳された横溝正史の作品が少ないからとフランス語で読んでみることにしたりと著者の学びは軽やかで楽しそうなのです。多言語に精通しているからこそできることなのかもしれませんが、学ぶ姿勢は真似できるかもしれません。

著者の興味のある分野は、多岐に渡ります。語学の習得のみが目的なのではなく、言葉、文化、歴史、社会情勢などへの並々ならぬ好奇心には目をみはります。また、何かを調べている途中でいつのまにか違うことを調べていることも多々あり、寄り道の楽しさを思い出しました。

何かを習得するためには、モチベーションの維持が大切です。憧れを持ち続けることもモチベーションのひとつ。言葉の多様性に驚き、なぜか分からないけど好きという気持ちを大事にする著者の姿に、そっと背中を押してもらえます。

【薄荷】


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