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本蔵-知る司書ぞ知る(85号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2021年11月20日版

今月のトピック 【オペラ入門】

1894(明治27)年11月24日、日清戦争の傷病兵のための慈善事業として、東京音楽学校(東京芸術大学)の奏楽堂で日本では明治以降初めてのオペラが上演されました。これを記念して11月24日を「オペラ記念日」としています。劇場に足を運ぶのは難しいですが、テレビでオペラの名曲を聴いたりすることは多いのではないでしょうか。今回は、入門書となるような本3点をご紹介します。

オペラがわかる101の質問』(ザビーネ・ヘンツェ=デーリング/[ほか]著、長木誠司/訳 アルテスパブリッシング 2020.5)

ドイツの代表的なオペラ研究者夫妻が専門的な知見をふまえたうえで、オペラの初心者向けに書いた本です。オペラはどこで、どうしてできたのか?拍手やブーイングはいつごろ始まったのか?といったオペラに関するミニ知識や、歴史と最新事情、政治との関係、劇場の運営や経営などの裏側まで、101の質問に答える形で解説しています。

ドナルド・キーンのオペラへようこそ!:われらが人生の歓び』(ドナルド・キーン/著 文藝春秋 2019.4)

日本文学研究の第一人者である著者には、オペラ評論家としての一面もありました。1938年からオペラを見始め2011年に日本に定住した後も、映画館のライブビューイングで鑑賞を続けていたキーンさん。大著『日本文学史』執筆中もオペラ鑑賞には余念がなかったようです。巻末には、鑑賞したオペラや歌のリサイタルのリストも掲載されています。生涯を通じてのオペラ解説の集大成です。

オペラで楽しむヨーロッパ史(平凡社新書)』(加藤浩子/著 平凡社 2020.3)

フランス革命やイタリア、ドイツの統一運動などを題材とするオペラは、作品が生まれた時代を反映する歴史の鏡です。前半ではモーツァルト、ヴェルディ、ワーグナーの有名曲を取り上げ、後半では「ジャポニズム」「ジャンヌ・ダルク」「シェイクスピア」とオペラの関係について史実に照らし合わせながら、解説しています。歴史とオペラの関係を探った1冊です。

今月の蔵出し

宰相鈴木貫太郎』(小堀桂一郎/著 文芸春秋 1982.8)

先日発足した第2次岸田文雄内閣は初代伊藤博文内閣(第1次伊藤内閣)から数えて101代目、この間の首相経験者64人のうち大阪府出身の首相は2人います。
一人は、終戦時の首相・第42代鈴木貫太郎(在任期間1945年4月~8月)、もう一人は、終戦後占領初期の首相・第44代幣原喜重郎(在任期間1945年10月~1946年5月)です。以前、幣原の資料を取り上げましたので、今回は鈴木の資料をご紹介します。

現在の堺市にあった、下総・関宿藩飛び地の代官の子として1868年に生まれた鈴木貫太郎は、海軍に入り、日清・日露の両戦争に参加、連合艦隊司令長官、軍令部長等を歴任した後、1929年からは侍従長として天皇に仕えます。1936年二・二六事件で襲撃され、4発の銃弾を受けながらも一命を取り留めました。その後枢密院議長を経て、沖縄戦が始まった1945年4月、77歳という歴代最高齢で首相の命を受けます。固辞する鈴木に対し、鈴木を深く信頼していた天皇が「もう他に人はいない。頼むから枉(ま)げて承知してもらいたい」と述べたと伝えられます。

大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した本書では、組閣からポツダム宣言受諾・総辞職に至る鈴木首相の5か月間が描かれます。
天皇の意を汲み、自身の内閣での終戦を固く決意しながらも、徹底抗戦を叫ぶ軍部を暴発させないよう、時には和平をめざす閣僚等にも本心を明かさず慎重にことを進め、ついには聖断という形でそこに至った鈴木。戦争の惨禍の拡大とともに進んだ鈴木内閣に対する評価はさまざまですが、著者は、政治家・軍人等当事者の手記、海外のものも含めた新聞記事、文学者の日記等、同時代の多様な資料を丹念に比較検討し、多くを語ることのなかった鈴木の考え、人物を浮かび上がらせます。

鈴木の伝記には、近年の作品として『鈴木貫太郎』、鈴木内閣については『宰相鈴木貫太郎の決断』がありますので、あわせてご参照ください。

【M】

新編教えるということ(ちくま学芸文庫)』(大村はま/著 筑摩書房 1996.6)

著者は大学卒業後の1928年(昭和3)年に長野県の高等女学校で、その後東京の高等女学校で教員をし、戦後は新しく発足した中学校で教員をしていました。退職するまでの約50年間一貫して現職教員として教壇に立ち続けた人物です。

本書は1970年から1986年に行われた4つの研修会での講演録です。それぞれ「教えるということ」「教師の仕事」「教室に魅力を」「若い時にしておいてよかったと思うこと」というテーマでまとまっています。どの講演も示唆に富んでおり、およそ40年から半世紀前に話されていた内容とはとても思えません。とても読みやすいのにどこか襟を正されるような、厳しさと温かさを兼ね備えた著者の人柄を感じさせる本です。

例えば「教師の仕事」の章。「子どもに指図する、命令する、そういったようなことは、あまり先生の言うことばとして価値あることばではないのではないか。」と一刀両断です。その一方で、仏様の指の説話を引き合いに出し、「あの仏様の指のような存在でありたいと思います。」と述懐します。そこに著者の信念、教育に携わる専門家・プロとしての矜持が感じられます。また、「教えるということ」の章にある「教師の資格」の節には「とにかく、「研究」ということから離れてしまった人というのは、私は、年が二十幾つであったとしても、もう年寄りだと思います。」という言葉。広い意味で教育業界に携わる人間の一人として、考えさせられました。

厳しくも温かい数々の言葉たちは、教師に限らずマネージャー職の人や全ての親、極端に言えば「何かを教えるすべての人」に参考となる一冊ではないでしょうか。

【ymmt】


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