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本蔵-知る司書ぞ知る(79号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2021年4月20日版

今月のトピック 【哲学】

家で過ごさなくてはならない日々がまだまだ続きそうなこの時期、おうち時間を哲学の本を読んで過ごしてみてはいかがでしょうか?今回は、哲学にあまり興味のない方でも楽しめるような個性的で読みやすい哲学の本をご紹介します。

哲学101問 (ちくま学芸文庫)』(マーティン・コーエン/著 矢橋明郎/訳 筑摩書房 2008.10)

「すべてのカラスは黒いことを証明するために世界中の黒くないものを全て見つけ出し、その中にカラスが含まれていないことを確かめればいい(ヘンペルのカラス)」。本書は哲学者たちが長年かけて考えてきた問題を集めた問題集です。問題文が全て短い物語として記述されているため読みやすく、初学者でもクイズ感覚で哲学の問題に取り組むことができます。

死にカタログ』(寄藤文平/著 大和書房 2005.12)

本書はユルいイラストと文章で「死」を様々な角度から見ています。例えば、人は死んだらどうなるのか。アイルランドでは蝶になり、スラブ人は鳥になり、フランスのブルターニュでは蠅になるのだとか。あるいはどんな人がどう死んだか。ラオウは右手を突き上げ、織田信長は裏切られ、ネロとパトラッシュは凍死しました。国や民族、リアルやフィクションを問わず「死」に関することがらを集めた、まさに「死」のカタログのような本です。

ウンコな議論』(ハリー・G.フランクファート/著 山形浩生/訳・解説 筑摩書房 2006.1)

タイトルの「ウンコな議論」とは英語の”bullshit”に対する訳者オリジナルの訳。その意味は「その場しのぎの言いのがれ、口先から出てくる、ふかし、ごまかし、はぐらかし」。本書はあまり真面目な本には見えないかもしれません。だいたいタイトルからして「ウンコな議論」です。しかし筆者は真面目に「ウンコな議論」について分析、考察をしており、よく似た表現である「おためごかし」などを例にあげながら、その本質を追究していきます。

今月の蔵出し

Tokyo style (ちくま文庫)』(都築響一/著 筑摩書房  2003.3)

「Tokyo style」は1993年に1万円を超える大判ハードカバーの写真集として出版されましたが、のちに文庫化されました。版元の京都書院が倒産後、筑摩書房からちくま文庫として販売されたのが本書です。なお、続編ともいうべき「賃貸宇宙」も文庫化され、ちくま文庫として出版されています。
本書は、実際に暮らすひとの気配が感じられる部屋の写真を集めたものです。乱雑な感じもしますが、ひとつずつ丹念に見ていくと、やがてこれらの部屋が、それぞれの住人の生活に最適化された空間であることがわかります。そして、どこにでもいるような人のどこにもないような人生を垣間見たような気持ちになってくるのです。
たとえば、「モノにくるまって」という章では、たくさんのモノに囲まれ、埋もれてしまいそうな部屋が紹介されていますが、「コレクション心中願望」と題された音楽評論家の部屋は、積み上げられたCDが圧巻。ほかにも「本が壁から生えてくる」として掲載された大学教授・中学教師夫妻の部屋は、どれも四面書架の状態で、おふたりはきっと、集めずにはいられない方なのでしょう。
「街のなかに隠れる」という章では、『方丈記』も引き合いに出しながら、次のような文が添えられています。
「もしかしたら世界一のスピードで動いていると思われている東京の只中で、小さな部屋を借り、どうしても必要な分だけ働いて、あとは本を読んだり絵を描いたり、音楽を聴いて静かな毎日を過ごしている人々がずいぶんいるという事実は、心地好い驚きでもある。」
このような一文を読むと、教科書で冒頭部分だけ読んだけれど最後まで読んだことのない『方丈記』も読んでみようか、と思ったりします。
また、「プログラムされた箱」として紹介されているプログラマーの部屋の写真には、つぎのような説明文があります。
「働くのは月に10日ほど、あとは酒とクラシック音楽と哲学書に浸る。毎晩のように通うバーから歩いて帰れる距離で、布団が敷けるだけのスペースがあればいい、だからこの部屋で充分。」
生きていく上で必要なことが、最小限に絞り込まれていて、そのシンプルなライフスタイルを具現化した空間としての部屋は、読み手に何度も見直しては考えさせる力があります。
私もそろそろ自分の「STYLE」を取り戻す時期に来ているのかもしれません。

【oton】

世界をまどわせた地図:伝説と誤解が生んだ冒険の物語』(エドワード・ブルック=ヒッチング/著  関谷冬華/訳  井田仁康/日本語版監修 日経ナショナルジオグラフィック社 2017.8)

古書店の息子であり、古地図の愛好家である著者が山のようなアンティーク地図と古本の中から選び出した地図とそれにまつわる冒険譚を次々と紹介する、宝箱のような本です。

本書には世界各地の、存在が信じられながらも、実在しない島や大陸を記した地図ばかりが集められています。何世紀にもわたって存在が信じられてきたのは、地図に描かれていたということと、それだけ人を惹き付ける魅力があったのでしょう。
迷信や神話、宗教的な信仰もその要因であり、また蜃気楼をはじめとする目の錯覚も実態のない幻を地図上に出現させる原因となったとも見られています。

昔も今も、新しい航路を見つけ出すということは貿易で主導権を握ることとなり、国家的にも個人的にも大成功を意味しています。
「ベルメハ」という島などは、石油を巡ってアメリカとメキシコで2009年まで島の存在について一触即発の緊張状態でした。島一つで排他的経済水域が変わってくるからです。
大型コンテナ船がスエズ運河で座礁した事故が世界の注目を集めましたが、あの狭い水路が重宝されているのは、アフリカ大陸を回らずにヨーロッパとアジアを海運で連結することができ、アラビア海からロンドンまでの航行距離を9000km近く短縮できるからです。

技術の進歩によって衛星画像により地図が作成され、ただの便利な道具として使われるようになりましたが、まだどこかに謎が残っていてほしいような気持ちもあります。地図の根拠となった物語も制覇してみたくなりますが、かなりの数になることでしょう。書かれている冒険譚も魅力的ですが、パラパラと地図や挿絵を見るだけでも楽しい本です。

【雨水】


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