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本蔵-知る司書ぞ知る(67号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2020年5月20日版

今月のトピック 【辞書を編む】

今から65年前の5月25日、岩波書店刊「広辞苑」の初版が発売されました。現在まで版を重ねること7版になります。辞書作りは地道な作業ですが、三浦しをんの小説「舟を編む」の映画化によって、少しは注目が集まり、知られるようになりました。今回は、辞書編纂にまつわる本3点をご紹介します。

言葉の海へ』(高田宏/著 新潮社 1979)

日本初の近代的国語辞典『言海』を編纂した大槻文彦の伝記です。最初、文部省に辞書作りを命じられるも、出版に至らず、自費での出版を決意。有名な蘭学者であった祖父大槻玄沢の「遂げずばやまじ」の言葉を胸に時代の荒波にもまれながらも17年もの時間をかけて、個人での出版に辿り着くまでの濃密な人生が描かれています。

辞書の仕事(岩波新書 新赤版)』(増井元/著 岩波書店 2013.10)

『広辞苑』や『岩波国語辞典』などの編集に30年間関わった著者が辞書や言葉についての知識も深められるよう、辞書作りにまつわるエピソードを交えながら、優しく語りかけてくるような1冊です。辞書づくりは、たくさんの人が関わる壮大な事業だと再認識しました。

100年かけてやる仕事:中世ラテン語の辞書を編む』(小倉孝保/著 プレジデント社  2019.3)

中世ラテン語の辞書作りは英国学士院が英国にある中世のすべての文献からラテン語を集めるために1913年から100年の時間をかけて、2013年に完成させた壮大なプロジェクトです。元々ヨーロッパではたっぷりと時間をかけて辞書を作る伝統があるそうですが、今は使われていない言葉の辞書をどうして100年かけて国家事業として編むようになったのでしょうか。日本語の辞書についての言及もあります。

今月の蔵出し

緑の霧』(キャサリン・ヴァン・クリーヴ/作 ほるぷ出版 2017.3)

11歳の女の子ポリーが、自身が生まれ育った大好きな農園の危機を救うため、臆病な自分を変え、自分の力で謎を解明し成長する物語です。

ポリーの家の農園には、毎週必ず月曜日の午後一時に降る雨、チョコレートの味がするルバーブ(日本ではまだあまりなじみがない野菜の一種)や絶対に溺れない湖など、科学ではまだ説明できない不思議なことがたくさんあります。

ポリーの親友ハリーはチョコレートルバーブ。しゃべれませんが、意思を伝え合うことはできます。(ポリーはトンボやコオロギなどとも意思疎通ができます。)

不思議な農園に4年ぶりに緑の霧が出ます。おばあちゃんが死んだ時以来です。その時は、優秀なジャーナリストだったエディスおばさんが戻ってきて助けてくれましたが、今回は、必ず降っていた雨が降らなくなり、兄も病気になる中、おばさんが農園を売ろうとします。お金や一度は諦めた自分の仕事のため、そして農園を引き継ぐことを託されたポリーの将来を案じ農園を売ろうとしているエディスおばさん。ポリーは勇気を振り絞って怖かった場所に足を踏み入れ雨を降らせる方法を見つけ、農園を救います。

遺伝で曲がっている右手の人さし指、代々身に付けるエメラルドの指輪など、他にも多くの謎が登場し、徐々にその理由が明らかになっていきます。伏線が各所にあり、読み返す楽しみもあります。

ポリーの勇気や周りの人々がポリーを支える温かさ、生き物たちのユーモラスな姿に癒され、元気をもらいました。

 【雨水】

東海道和算道中記』(佐藤健一/著 研成社 2019.7)

江戸時代後期、町人のなかには趣味の習い事や旅を楽しむ人が多くなっていました。今回、取り上げる本書は、当時の江戸の人が楽しんだ、江戸から京都までの「旅」と日用数学程度の「和算」とをコラボさせた一冊です。当時のガイドブックでもある「道中案内」の地図が掲載されており、それを見ながら、隠居した幼馴染3人が繰り広げる道中を追いかけていくことができます。

一方、和算は旅先のトピックから関連した問題がでてきます。あとがきにもありますが、神社仏閣に奉納された問題ではなく、日常的な問題やパズル的な問題が取り上げられています。当時の人はどうすれば答えを求めることができるのかということに重きをおいているため、答えの求め方が簡単に紹介されているだけなのです。このように、小難しい理屈が出てこないので、案外、数学が苦手な人でも楽しめるのではないでしょうか。

コラボ作品になっているので、物足りない部分もありますが、入門書としては十分な一冊だと思います。

【Mr.K】


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