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本蔵-知る司書ぞ知る(66号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2020年4月20日版

今月のトピック 【植物誌】

4月24日は植物学の日です。今年は感染症の影響で外出しづらい春となりましたが、こんな時には自宅でゆっくり「植物誌」を開き、空想の庭園散歩などいかがでしょうか。大阪府立中央図書館所蔵の植物誌から3冊をご紹介します。

キューガーデンの植物誌』(キャシィ・ウイリス/著 キャロリン・フライ/著 川口健夫/訳 原書房 2015.6)

年間8.6トンの二酸化炭素を吸収するというイギリスの王立植物園兼植物研究施設キューガーデン。世界各地から集められた植物や標本、蔵書等が納められ、敷地全体が世界遺産に指定されています。本書はその長い歴史と共に植物学の発展過程を詳細かつ明快に解説。ミレニアム紀種子銀行事業計画や植物医薬について等、興味がつきません。

日本植物誌 シーボルト<フローラ・ヤポニカ> 博物図譜ライブラリー』(シーボルト/[著] 八坂書房 1992.8

日本の植物を、精密で美しい彩色図を添えてヨーロッパに、そして世界に最初に紹介したシーボルトの名著「フローラ・ヤポニカ」。本書は国立国会図書館所蔵の彩色図版集から全151図を最新の研究成果による適切な解説を加えて収録しています。

植物誌 12 西洋古典叢書』(テオプラストス/[著]  小川洋子/訳  京都大学学術出版会 2008.3/2015.4

植物学の祖と称される古代ギリシアの哲学者テオプラストスの著書『植物誌』の全訳です。植物学書として最高水準の観察記録である500余種が記載されているだけでなく、農学、林学、薬学の応用科学書、実用書という面もあわせそなえ、読み応えのある、時代を超えた貴重な資料です(全3冊。2巻迄刊行済)。

今月の蔵出し

紺碧海岸』 (松本隆/著 集英社 1992.7)

壊れかけなのはradioよりもwagenだろうとお思いの、全国数千万人の「ナイアガラー」の皆さんはじめまして。

さて、人と人との出会いは不思議なものです。

昨年、図書館で講演いただいた内田樹氏の控室で、ほんの少しの時間でしたが、偶然にもお話しする機会がありました。内田樹氏は大瀧詠一とも親交があった「ナイアガラー」(大瀧詠一を師とする人たちの総称)で、福生のスタジオのこと、「うなずきマーチ」秘話など楽しく聴かせていただきました。その中でも「はっぴいえんどの4人は、やっぱりすごい人たち」という言葉がとても印象的でした。

そのはっぴいえんどの一員で、日本を代表する作詞家の松本隆。数ある作品の中で最初に感銘を受けたのは、大瀧詠一のアルバム『A LONG VACATION』に収録された「スピーチ・バルーン」でした。歌い出しが「細い影が一文字 君の背中に伸びている」と単に夕景の描写と思っていましたが、歌詞カードを見ると全く違っていました。この言葉をこう繋げるとは「すごい人」だとその時に感じたことを思い出しました。(気になった方はご確認を。一部のサイトでは「細い影は人文学」と誤りがあります。これはこれでまた相当深いのですが…。)

松本隆の小説『紺碧海岸』を読んだのは1994年の4月。単行本の出版が1992年7月ですから、単行本出版から2年近く経ってからのことでした。業界の第一人者が綴る文章は、読みやすい文体で書かれており、独特の感性のフィルターを通して、読者をあっという間にブーム最高潮のフォーミュラー1(F1)の世界に引き込む作品でした。

小説の中に、ひとつ不思議な文章があります。

当時、F1で圧倒的な人気を得ていたブラジル出身のドライバー、アイルトン・セナ・ダ・シルバが孤高であるがゆえに若くして死ぬのではないかと不安だ、というようなことが書かれていました。
さまざまなジャンルのトップランナーは、人の見えない景色が見えるということをよく耳にします。そんなものなのか、少し心に引っかかるものがありながらも、金曜日の夜に一気に読み終えました。

強烈なインパクトとともに忘れがたい作品になったのは、数日後。

セナの事故死を伝える悲壮な声がテレビから流れた時でした。

言葉は媒体に固定されて、時間と場所を飛び越えるとはいうものの、このタイミングとは。
さてさて、人と本との出合いもまた不思議なものです。

【入り鉄砲にディオンヌワーウィック 改め Yolk is natural food】

幻の怪獣・ムベンベを追え』(早稲田大学探検部/著  PHP研究所 1989.1)

大学の探検部がコンゴ奥地の湖に住むという伝説の怪獣「モケーレ・ムベンベ」を探す・・・。決して面白半分ではなく、湖まで60km続くジャングル、食糧難、マラリアに苦しみながらもムベンベの発見に挑んだ11人の若者の記録です。

コンゴへの遠征はインターネットが普及する以前の1988年。ムベンベの情報を求めて資料を探し、電車で隣り合ったフランス人に頼みこんでコンゴ公用語のフランス語を学び、現地リンガラ語を学ぶために「コンゴ人がバイトをしている」という噂を頼りに定食屋を尋ねまわります。

現地に到着してからも当然のように苦難の連続。村人や研究者との交渉は難航。食事は猿やチンパンジーにゴリラの肉(ゴリラの肉はとにかく固いらしいです)。マラリアによって意識不明になるメンバーも出てきます。果たしてムベンベの発見はなるのでしょうか?

本書は「早稲田大学探検部」著となっていますが、辺境ノンフィクション作家・高野秀行氏の処女作です。ムベンベ発見のための入念な準備、現地での丹念な調整と調査は、その後の『西南シルクロードは密林に消える』、『ビルマ・アヘン王国潜入記』、『謎の独立国家ソマリランド』などへと続く、「誰もいかない所へ行き、誰もやらないことを追い続け、それを面白おかしく書く」高野氏の原点であるように思います。

生産性に注目が集まる昨今にあって、見つかるかどうか分からないものだからこそ探しに行く価値があること、非効率だからこそ得られるものがあることを教えてくれます。

【走る図書館員】


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