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本蔵-知る司書ぞ知る(63号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2020年1月20日版

今月のトピック 【光秀は生きていた?】

近年新資料の発見や研究により歴史教科書の書き換えが行われ、人物の評価に関しても見直されています。今年の大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公明智光秀もその一人と言えるでしょう。謀反人のイメージが定着していた光秀ですが、領内の治政に優れ、部下にも細やかな心遣いができた武将であったようです。本能寺の変の一年前に光秀が定めた家中軍法の結びに、信長公への感謝を忘れてはならないと記していた光秀がなぜ変を起こすにいたったかは大きな謎とされています。そんな光秀には源義経や豊臣秀頼などと同じく生存説があります。この生存説をもとにして書かれた小説のなかから3作品を紹介します。それぞれの作者が本能寺の変や生存説をどのようにとらえているか興味深いと思います。

明智光秀 新装版』(早乙女貢/著 文藝春秋 2018.11)

光秀は軍学、故実式目、歌道などを極めており織田信長のもとで出世頭となっていきます。しかし後に本能寺の変を起こし、山崎の合戦では敗将となるものの生きながらえて天海僧正として徳川三代に仕えていくという生涯が描かれています。なお、解説には「光秀が天海僧正に変身するにいたる顛末に説得性がある」と記されています。

明智光秀転生:逆賊から江戸幕府黒幕へ』(伊牟田比呂多/著 海鳥社 2001.12)

こちらも光秀が天海僧正になったという設定のもとに書かれた作品です。作品は本能寺の変から始まり大半が天海僧正になってからの記述となっています。なお、著者はまえがきで本能寺の変の真相に関する諸説を紹介し、光秀・天海同一人説に関する裏付けについても記しています。また、あとがきには、家康は秀頼を大名として残す方針だったのを天海が変えさせたことなど本編の内容に係る事項が収められています。

生きていた光秀』(山岡荘八/著 講談社 1963.6)

こちらは短編小説で天海は登場しますが、光秀イコール天海説はとっていません。物語は、生き延びた光秀と曾呂利新左衛門の対話が中心に描かれています。この対面の後、光秀は新左衛門の助力により建てられた助松庵へ移り、秀吉の死の一年後、本徳寺に光秀の二字が隠されている位牌を残して立ち去ったと記されています。この時連れ去ったのが天海であったと伝えられており、このことが天海が光秀だったという伝説となったのであろうと記されています。

今月の蔵出し

GO WILD野生の体を取り戻せ!』(ジョン・J.レイティ/著 リチャード・マニング/著 野中香方子/訳 NHK出版 2014.12)

新しい年を迎え、気持ちも新たに仕事や勉強に取り組んでいる人も多いと思います。みなさんは2020年の抱負はもう決まりましたか?今回は新年にぴったり?!のタイトルも中身もインパクトがある本をご紹介します。

本書によると現生人類と呼ばれるホモ・サピエンスが出現したとされるのは20万年ほど前。その後、変化はほとんど見られず、文明が進んだ今も私たちの体は20万年前のままだそうです。本来私たちは「野性的」に暮らすように設計されていて、現代人のライフスタイルは人間としての健康や幸せにつながらないそうです。食事、運動、睡眠、自然の中での暮らしを通して、ライフスタイルを再び「野生化」するメリットと方法が詳しく解説されています。

著者が「あなたを苦しめているのが何であれ、考えたり読んだりするだけではそれから逃れることはできない。幸せに暮らすというのは行うべきこと」と言うように、本書を読んで食事、運動、睡眠など、改善したいと思うことを見つけたら、どれか一つやってみるのはいかがでしょう。人間が本来もつ力を発揮して生きる!そんなきっかけになるかもしれません。

新年の抱負を胸に意気込んでいる人、最近なんだか気分が優れない人、健康のために何かを始めたいと思っている人、人生を変えたいと思っている人など、全ての人に贈りたいと思う一冊です。人間本来の力を高めるための秘訣がぎゅっと詰まっています。

著書の一人ジョン・J.レイティ博士の前著『脳を鍛えるには運動しかない!』は日米でベストセラーとなっています。最新の科学的知見から、運動、特に有酸素運動は体にとって有益なだけでなく、脳を活性化させ、神経細胞を増やして育てることが明快に書かれています。こちらも興味深く、楽しく読んだのであわせてオススメしたいです。ぜひご一読を。

【れいわ】

植田正治作品集』(植田正治/著 飯沢耕太郎/監修 金子隆一/監修 河出書房新社 2016.12)

不可能だと分かっているけれど、やってみたいことがあります。寝室に植田正治の砂丘で撮られたオリジナルプリントを飾ることです。静かな様でいて、思慮深く、見つめていると様々なことを語りかける一枚をそばに置けるのならどんなに幸せだろうと思います。

植田正治は戦前から活躍していた鳥取の写真家です。写真といえば、決定的な瞬間を待ち、シャッターを切るものと思われるかもしれません。しかし、植田の写真は画面内に事物をどう収めるか計算をした上で、撮影されています。空間というより写真内の「間」を大きく取る画面構成は、伝統的な日本絵画の構図を思わせます。それでいて、湿気の多い日本でありながらジメジメした所のない、カラッとしたユーモアがあります。何より、白っぽい砂丘を背景にした写真たちの軽やかさ。画面の中の人物や物は重力から解き放たれてでもいる様です。こんな写真を一枚でも持てるなら、これからの人生で強い心の支えになるだろうと、植田正治写真美術館を初めて訪れた時に思いました。

とは言え、そんなことはできそうにもないので、写真集でも買うか、あ、丁度立派な作品集が出てるなと本屋で手に取ったのです。

【定価:16000円(税別)】

うーん、これはすぐには手が出ないぞ。やはり私には本物どころかコピーすら手に入れられないのかしら…この時の絶望たるや中々のものでした。

しかし私の頭に名案が。そうだ、図書館で借りよう。たとえ2,3週間でも植田の作品を手元に置こう。かくして、私は夢の一端を叶えたのでした。

私自身結局まだ作品集を買えていないので、私が書店員だったら気軽に「この本良いから買って下さい!」とは言えない本です。図書館員だから「借りて下さい!」と気軽に言える、そんな本です。

【もちづき】

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