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本蔵-知る司書ぞ知る(62号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2019年12月20日版

今月のトピック 【百貨店(デパート)に関する本】

12月20日は、日本ではデパート開業の日として知られています。これは、1904年に三井呉服店から営業を引き継いだ三越呉服店が、全国の顧客・取引先に三井と三越の連名で挨拶状を送付したことによります。その挨拶状には、「米国に行はるゝデパートメント、ストーアの一部を実現可致候事」とあり、日本で初めて百貨店(デパート)としての営業を実現することが表明されました。今回は、百貨店(デパート)にまつわる資料について、以下の3点をご紹介します。

百貨店とは』(飛田健彦/著 国書刊行会 2016.12)

本書は、百貨店で37年間の勤務経験を持つ著者が、業界の入門書としてまとめたもので、社史以外にも百貨店に関する様々な資料を参考文献として挙げています。世界における百貨店のはじまりや、日本の百貨店誕生から昭和戦後期までが詳しく記されており、業界の歴史を知ることができます。また、松坂屋・白木屋・三越・高島屋・阪急・伊勢丹など、日本の百貨店の創業者に関するエピソードも収録されています。

デパートを発明した夫婦』(鹿島茂/著 講談社 1991.11)

19世紀中頃にフランスのパリで開業した「ボン・マルシェ」は、デパートの起源として知られています。本書は、経営者であるアリスティッド・ブシコーとその夫人が直面する様々な経営課題と、課題解決のための戦略などが記されています。「返品可」「薄利多売方式」「バーゲン・セール」「大売出し」「目玉商品の設定」といった今では当たり前となっている販売方法が生み出された背景や、「巨大店舗の建設」「博覧会のような商品展示」「光り輝くクリスタル・ホール」といった人々の目を引く仕掛けづくりなどが書かれており、世界初のデパートがどのように成立していったのかを知ることができます。

昭和ノスタルジック百貨店』(オフィス三銃士/編著 ミリオン出版 2011.7)

日本橋三越など、現在も営業を続けている18の老舗百貨店と、大阪三越など、今はなき18の百貨店について、各店舗のルーツや閉店に至った経緯などがモノクロ写真とともに紹介されています。松阪屋・大丸・高島屋・三越といった日本の主な百貨店について、創業から2011年までの変遷表も収録されています。

今月の蔵出し

キリン解剖記』(郡司芽久/著 ナツメ社 2019.8)

キリンの解剖?珍しい!と思って手に取りました。

著者は大学に入り、将来をどうしようかなと考えていたところ、研究者たちがキラキラ瞳を輝かせながら、自分の研究について熱く語る姿に衝撃を受けます。「私もあんなふうに好きなことを仕事にしたい!」とキリンが好きだったことを思い出し、キリン博士を目指します。

あるとき解剖の実習授業で「解剖男」の異名を持つ遠藤秀紀先生に出会い、「キリンは思いのほか解剖にまわってくるよ」と教えてもらい、キリン博士の夢をあきらめず、チャンスを待ちます。

そしてついにキリンを解剖するチャンスを得ますが、実物の体のつくりが教科書で見た通りでないとパニックになり、思うように解剖できず落ち込みます。しかし、この残念だった解剖の経験を活かし、2回目には目の前のキリンの体にしっかり取り組みます。

若い研究者が落ち込んだりもしながら、周りの人たちに支えられ、一歩ずつ進んでいく様子が描かれています。読んでいるこちらも温かい気持ちになることができて、おすすめです。

【くるくる】

古生物学者、妖怪を掘る:鵺の正体、鬼の真実(NHK出版新書)』(荻野慎諧/著 NHK出版 2018.7)

シカ、カブトムシ、トリケラトプス。これらの動物に共通する特徴とはいったい何でしょうか。外見上の事で言うと、(オスに限られていたりもしますが)ツノを持っているということが挙げられます。食性の上でも、植物食という点が共通しています。その他に、ツノのある動物と言えば、身近な所では、ウシやヒツジがいます。また、動物園等で見る動物としては、キリンやサイにもツノがあります。これらも、肉食ではありません。今回ご紹介する書籍によると、昆虫食のカメレオンやカルノタウルスという肉食の恐竜などの他は、ツノを持つ肉食の動物はほとんどいないとのことです。一方、架空の物語の中では、鬼のように、ツノを持つものが人に危害を加えるというイメージがあります。

著者は、肉食の哺乳類化石を専門とする古生物学者。本書のなかで、古生物学的視点で古い文献に登場する怪異を読み解くという試みを行い、その手法を「妖怪古生物学」と提唱しています。ただ、冒頭の実在の動物と架空の存在のイメージとのギャップについてもそうですが、単に空想上の存在とされてきた鵺の正体について意外な動物の名前が出てきたり、一般にたたら製鉄との関連性を指摘されている一つ目で一本足の妖怪について新しい解釈をしていたり等、ここで語られる説はあくまで一つの解釈です。これまでの通説とは別の見方を提示したり、これまで見過ごされていた異獣の正体を復元しようと試みたりすることによって、今後、さらに異なる解釈が生み出されていくことや、古生物学的な手法を古文書の解読という別分野で活用した事例を紹介することによって、古生物学における研究意義について一つの答えを示すことを目論見としているとのことです。

ユーモアを交えながら分かりやすく書かれていて、取っつきにくいかもしれない古生物学の世界に親しむ機会を与えてくれるかもしれません。

【Dora】


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