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本蔵-知る司書ぞ知る(61号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2019年11月20日版

今月のトピック 【いい夫婦の日】

11月22日は「いい夫婦の日」です。1985年、政府が11月を「ゆとりの創造月間」として提唱したのを受けて1988年、夫婦で余暇を楽しむゆとりあるライフスタイルの提案の一環として1999年から毎年「パートナー・オブ・ザ・イヤー」を選出しています。

今回は、夫婦にまつわる資料について、以下の3点をご紹介します。

夫婦善哉 正続 (岩波文庫)』(織田作之助/作 岩波書店 2013.7)

何度も映像化されている織田作之助の代表的な作品です。大正から昭和にかけての大阪を舞台に、人気芸者で陽気なしっかり者の女と、優柔不断な妻子持ちの若旦那が駆け落ちし、喧嘩しながらも別れずに一緒に生きてゆく物語です。久しぶりに読んでみると、さっさと別れたらいいのにという単純な思いでは簡単には済ませられない夫婦の情愛のようなものを読み取れるようになっていました。再読をお勧めできる1冊です。

賢者の贈り物(オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション)』(オー・ヘンリー/作 理論社 2007.8)

クリスマスが近づき、若くて貧しい夫婦が大切なものを売ってお互いにプレゼントを贈りますが、どちらも役に立たないという皮肉な結果に。。。しかし相手のために大切なものを手放せる、そんな若い二人なら、再び大切なものを手に入れプレゼントが役立つ日もそう遠くはないと信じたくなりました。

「おしどり夫婦」ではない鳥たち(岩波科学ライブラリー)』(濱尾章二/著 岩波書店 2018.8)

おしどりの雌雄がいつも一緒にいるイメージから 仲睦まじい夫婦を表す言葉とされている「おしどり夫婦」。でも、これは人間の思い込みかもしれません。実際に鳥のオスとメスの関係性はどうなのでしょうか?この本では、自然界で厳しい生存競争を生き抜く鳥たちの繁殖に関する生態をユーモラスなイラストと共にわかりやすく解明しています。

今月の蔵出し

ハマータウンの野郎ども:学校への反抗・労働への順応』(ポール・ウィリス/著 筑摩書房 1985.3)

学校への反抗を繰り返すハマータウン中学校(仮名)の労働者階級のやんちゃ達(野郎ども)と行動を共にし、労働者が世代を超えて同じ階級の職務に就くメカニズムを、野郎どもたちへのインタビューを基に考察した本です。第一部の生活誌はジョウイ、スパンクシーら野郎どもの学校等での様子が彼らの言葉で活き活きと語られ、大変面白く読むことができます。第二部の分析に入るや一転して難解なものとなり、一読しただけでは理解することができませんでしたが、教育社会学などに大きな影響を与えた本ということです。

野郎どもは全ての人が平等に教育を受けることができる学校を、一方で競争を煽る階級対立の場であると「洞察」し、独自の反学校文化を築きます。しかし野郎どもの反学校文化は現代社会を批判し、新しい学校を築くことに結びつきません。学校という環境の中で精神的な学習能力を「権威的なもの」として否定する故に、「男らしい肉体労働」と「精神労働は女のやること」に分断し、自ら肉体労働への進路を進みます。また人種差別的な思考も醸成されるといいます(理由はご一読ください!)。

この調査が行われたのが1975年頃、邦訳は1985年の刊行です。調査から約45年が経ちました。サッチャー政権による構造改革もあり、イギリス社会は大きく変化しました。野郎どもが就職した工場労働は衰退し、蔑視の対象だった移民も大量にやって来ました。

ジョウイ、スパンクシーらとは別人ですが、『ちくま』*の「ワイルドサイドをほっつき歩け:ハマータウンのおっさんたち」(ブレイディみかこ)でおっさんになった21世紀の野郎どもに会うことができます(No.561(2017年12月)~No.584(2019年11月))。また、野郎どものこどもの視点を交えて書かれたのが『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ 新潮社 2019.6)です。こちらは『』*で継続連載中です。

*の資料は館内利用のみです。

【茶風鈴】

街の人生』(岸政彦/著 勁草書房 2014.5)

終電を逃した人にタクシー代を支払い、その人の家にお邪魔する、というテレビ番組があります。映し出されるのは、いわゆる一般のひとがほとんどで、酔っぱらってご機嫌なことも少なくありません。しかし、家について行ってみると、イジメをくぐり抜けて自分の居場所を見つけた女性、重い障がいのお子さんがいる父親など、それぞれの生活や人生、夢が明らかになります。

どこにでもいるような人のどこにもないような人生

それを知ろうとするのは、ある程度の年齢になって、これでよかったのか、他の人はどうなのだろう、などと考えているからではないかと思います。

日記や自伝、エッセイなどを読むことがあるものの、それらを書いているのは何らかの業績や知名度がある人に限られますので、読んでいて劣等感に苛まれたり、現実味に欠ける気がすることもあります。そんな折、手にしたのがこの本です。著者の岸政彦氏は大阪の社会学者。私の気持ちをこう代弁してくれます。

「ひとの生活史というものは、なぜこんなに面白いのだろう、と思います。それが偉いひとやすぐれた業績をあげたひと、あるいはかわった経験の持ち主やすばらしい才能にめぐまれたひとでなくても、ひとの人生の語りというものは、ほんとうに興味深く、読み手を飽きさせません。」

本書のほか専門書のようなタイトルの『断片的なものの社会学』も出されていますが、やはり名も無きの人の声が聞けるものとなっています。

著者は近年、作家としても活躍していて、『ビニール傘』や『図書室』などの小説も書き、芥川賞にノミネートされるほどです。私はふだん小説を読まないのですが、これらの本も興味深く読んだので、あわせてオススメします。もっとも、ご本人のツイッターによると、本業がおろそかになっていないか、と懸念されているようですが。

【oton】


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