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本蔵-知る司書ぞ知る(57号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2019年7月20日版

今月のトピック 【花火のレシピ】

大阪府立中央図書館 人文系資料室では、7月23日(火曜日)~8月10日(土曜日)の期間「夜空に咲く華-花火-」の展示を開催します。展示に関連し、花火はどの様に出来上がっていくのか、その製作について書かれた資料を中心に、以下3点をご紹介します。

花火の事典』 (新井充/監修 東京堂出版 2016.6

花火にはなぜ色がつき、音が出るのか。花火の構造や打ち上げの原理について、科学的な観点と歴史・文化的な観点の両面から解析し、その結果を系統的に記述。江戸時代や明治時代の花火の配合帳等についても記述があり、花火への興味が深まる資料です。巻末には花火用語小事典掲載。

花火学入門』 (吉田忠雄/編著 丁大玉/編著 プレアデス出版 2006.10

花火職人の経験によって発達してきた伝統技術に、現代の科学技術を加えた現代の花火技術者のための花火学の入門書。花火の色彩学や、種類と形、製造、弾道技術や法令等に加え、日本や世界の花火の歴史や、演出が多彩で華やかな現代の花火事情まで記述があります。

花火の話』 (清水武夫/著 サークル花火万華鏡 1998.7)

90歳を過ぎてなお会社の実験室で研究を重ねられていたという大正元年生まれの花火博士・清水武夫氏が1976年に出版された著作の復刻版。花火の種類や歴史、組み立て技術や「おもちゃ花火」と言われるものについて、花火を記録に留めるため「花火譜」を作られた話等、様々な角度から解説されている他に類のない花火関係者・愛好家のバイブル。

今月の蔵出し

大人のための水族館ガイド』(錦織一臣/監修・編著 養賢堂 2018.11)

これは、葛西臨海水族園副園長の錦織一臣氏が中心になってまとめられた本です。

水族館の飼育課長「ふく」さんが、「あゆ」さん、「さより」さん、「ひらまさ」さんという3人のお客さんを7つのテーマで案内するツアーの形で進みます。各ツアーは、水族館がちょっと気になる3人の疑問と期待と妄想トークで始まり、新しい発見に興奮して迷走しそうな3人に課長がアドバイスをしたり、浮かんできた課題に考え込んだりして終了します。

水族館には動物園よりもずっと多くの種類の生き物がいます。娯楽・研究・教育を目的とした公開型の水族館が登場したのは飼育技術が確立しガラス産業が発展した19世紀で、世界初はロンドン動物園にできた「フィッシュ・ハウス」(1853年)、日本初は上野動物園の「観魚室(うをのぞき)」(1882年)でした。展示生物は購入、他の水族館との交換や分譲、野外からの採取で集められました。

さて、ではいったいこの本のどこが「大人のため」なのかというと、つぎのような説明があるからです。たとえば水族館も19-20世紀の帝国主義と密接に結びつき、ロンドン動物園そのものが植民地に生息する動物を展示して大英帝国の大きさを誇示し、それが水中にまで広がってきたということ。現在では多くの水族館で飼育生物の繁殖を行い、採取コストの削減だけではなく希少生物の保全にも貢献していて、なかには地元の小学校の課外授業に発展したものもあること。日本には金魚などを鑑賞する「娯楽」はあったが、経済の発展に伴い教育施設として、またレジャー施設として多様な水族館が活動を行い、イルカ問題から動物福祉・権利・保護や、魚食の変化にも触れられている点、などです。

ご興味のある方はこちらもどうぞ!『大人のための動物園ガイド』(成島悦雄/編著)

【みぃ】

博物誌 改版(新潮文庫)』(ルナール/著 新潮社 1970)

「歩き」が好きです。単に身体を目的地に移動させる「歩き」は、歩くのが速いといわれる大阪人の中でも速い方ですが、身体移動が目的ではない「歩き」は少しゆっくりと回りをきょろきょろしながら歩きます。小さな生き物や知らない景色に出会えるのが楽しみです。

そんな生活の中で出会った生き物たちを観察し、簡潔に詩的な文章でユーモラスに綴った本書は、1896年フランスの作家ジュール・ルナールによって書かれたもので、収められた短文はあとがきによると70項目。どこから読んでも楽しめるので、机の傍らに置いておき、パラパラめくって開いたところを読んでみるのもいいかもしれません。私が好きなところは「蟻」の項。「一匹一匹が、3という数字に似ている。それもいること、いること!どれくらいかというと、333333333333……ああ、きりがない」。ボナールによる挿絵も趣があって、ページいっぱいに描かれた「蚯蚓(ミミズ)」は見事です。そして、「蛇」の項、知っているのに読むたびにクスっと笑ってしまう「長すぎる」。好きなところを挙げればきりがありません。新潮社版は岸田国士訳ですが、岩波書店版は辻昶訳、また臨川書店から出版されている『ジュール・ルナール全集5巻』は佃裕文の訳で、比べ読みも興味深いです。

図書館の周りにもいろいろな生き物がいます。元気な子猫、大雨が降るとにょろにょろ出てくるカタツムリ、夜になるとヤモリも顔を出します。春には野イチゴ、初夏には木の根元に無数の穴が開き、見上げると木の枝に鈴なり状態のセミの抜け殻が。また、これからの季節はルナールが「上出来の卵饂飩」と例えた「〇〇〇」も出てくるかもしれません。本を借りた後に散策してみるのはいかがですか。

 (〇〇〇の答えはミミズ)

【ウメ子】


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