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本蔵-知る司書ぞ知る(52号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2019年2月20日版

今月のトピック 【“逃げる”本】

「一月往ぬる二月逃げる三月去る」の言葉通り、早いもので今年の二月も終盤に差し掛かっています。今回は「二月逃げる」に因んで、「逃げる」をキーワードとする本を三冊ご紹介します。慌ただしい日々の隙間にぜひ読んでみてください。

3つ数えて走りだせ』(エリック・ペッサン/著 あすなろ書房 2017.3)

ある月曜日の朝、二人の少年が行先も決めず、突然走り始めます。物語が進むにつれて、アントワーヌは家庭に問題があり、移民であるトニーは国外退去の恐怖を抱いているという事情が明かされ、二人が走り続ける衝動の理由が浮き彫りになっていきます。誰にでもやり場のない気持ちから走り出したくなる時期があったことを思い出させます。

パイド・パイパー:自由への越境(創元推理文庫)(ネビル・シュート/著 東京創元社 2002.2)

1940年の夏、老英国紳士が知り合いの子供を連れて、ドイツ占領下のフランスからイギリスへ逃げ帰ろうとします。体調が悪くなった子供の回復を待つうちに交通が寸断したり、道中で子供の数が増えたり、待ち受ける困難の数々を、老紳士は自らの機知と周囲の手助けで乗り越えていきます。「気骨あるおじいちゃんと、健気で可愛い子供たちの大冒険」という宮部みゆきの推薦文に惹かれて読みましたが、期待以上でした。

自由からの逃走 新版(現代社会科学叢書)(エーリッヒ・フロム/著 東京創元社 1980)

中世・宗教改革の時代からファシズムの時代まで、人間にとっての自由について書かれた社会心理学の研究書です。本書では、個人の自由を得た近代の人々がかえって不安を増し、外部の強い力に逃避するという構造を解き明かします。1941年に初版が刊行されてから80年近く経ちますが、現在にも通じる所が大いにあります。

今月の蔵出し

鉄道ひとり旅入門 (ちくまプリマー新書)』(今尾恵介/著 筑摩書房 2011.6)

私は列車でのんびりと旅をすることが好きなので、このコーナーで紹介するなら鉄道と旅をキーワードにしたいと考えていたところ、この本と出会いました。

この本は、地図など鉄道旅に持って行くとよいもの、持って行かない方がいいものなどを紹介している準備篇、全国各地の鉄道車窓からの見どころを紹介している旅情篇、「乗りつぶし」など鉄道旅のいろいろな楽しみ方を紹介している実践篇から構成されています。鉄道旅の初心者から達人まで参考になる内容で、鉄道旅に行った気分に浸ることができる内容にもなっています。私はもうすでに廃止されているブルートレインが好きでしたので、「寝台列車を楽しむ」の部分では、昔のことを懐かしく思い出しながら、読みふけってしまいました。

近ごろでは豪華列車の旅などが流行っていますが、ローカル列車でのんびりとひとり旅をするのもよいのではないでしょうか。

かくいう私も久しぶりに日常を忘れてローカル列車に揺られてみたくなりました。のんびりと車窓を眺めながら駅弁でも食べて、少し疲れた身体を癒しに温泉旅行にでも行きたいなぁ、と思う今日このごろです。

【トワイライト】

赤い人』(吉村昭/著 筑摩書房 1977.11)​

明治時代、北海道にあった重罪人の収監施設・集治監を舞台とした小説です。タイトルの「赤い人」は獄衣の色に由来します。

当時、政府は囚人を北海道の開拓事業に利用する方針を採っていました。作中では、集治監の候補地の選定に至る過程、最初の囚人40名の移送、彼らによる集治監建設の様子などが丹念に描かれています。防寒が乏しい環境での過酷な労役により死者が続出。看守に憎悪を募らせた囚人たちの中には脱獄を試みる者も出ましたが、ほとんどは逃げきれず無残な最期を迎えてしまいます。

北海道の開拓が進むにつれ集治監と囚人の数は増え、道路開削や炭鉱労働が労役に加わります。特に道路開削については、政府高官の金子堅太郎が、「囚人が労働で死亡すれば、国費の軽減になる」と復命したことが紹介され、当時の政府の囚人に対する意識が明らかにされます。司馬遼太郎の『坂の上の雲』で外交に活躍する金子の姿しか知らなかったので、この作品で別の一面を見て衝撃を受けました。全編にわたり、近代の日本政府のブラックぶりが克明に描かれています。

また、この作品では当時の実在の囚人が多く登場します。北海道の囚人を描いた作品に、山田風太郎『地の果ての獄』があり、五寸釘寅吉など『赤い人』と共通の人物が登場しています。他にも、人気漫画『ゴールデンカムイ』(当館未所蔵)では熊岸長庵や稲妻強盗 坂本慶一郎といった囚人が活躍します。これらの作品と『赤い人』を比較して読むのもお勧めです。

【亥吉】


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