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本蔵-知る司書ぞ知る(49号)

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更新日:2018年11月20日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

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2018年11月20日版

今月のトピック 【大阪市中央公会堂】

大阪府立中之島図書館の隣にある大阪市中央公会堂は、2018年11月17日に開館100年を迎えました。今回は、その昔ヘレン・ケラーやガガーリンが講演し、今もなお、現役で活躍している同公会堂にまつわる資料を3点ご紹介します。100年の歴史に想いを馳せてください。

近代大阪の建築:明治・大正・昭和初期』(大阪府建築士会/編集 ぎょうせい 1984)

先代の公会堂がカラーで表紙を飾っており、近代大阪を代表する建築物だということが窺われます。ほとんどが白黒写真のページで、それが却ってノスタルジックです。70ページに亘る年表には幕末からの建築物の所在地や構造、設計者、施工者が年代順に並べられていて、わかりやすい資料になっています。

大阪の恩人岩本栄之助考説』(寺村安雄/著 寺村安雄 [2000])

公会堂建設のために私財100万円(当時)を投げ打ち、その完成を見ないまま自決した岩本栄之助。元証券マンの著者が資料を収集し、多数の関係者の協力を得て、彼や関わりのあった人たちの人生を浮き彫りにした力作です。

赤レンガの公会堂』(中之島公会堂・赤レンガ基金/編 全日本写真連盟関西本部 1990)

全日本写真連盟の皆さんの写真と21世紀に残したい「公会堂のある風景」のフォトコンテスト入賞作品で構成された写真集です。四季の移ろいや様々な時間・角度から、改装前の公会堂の姿を存分に見ることができる本格的なアルバムです。

当館では、この他にも『中央公会堂三十五年の歩み』*や『大阪市中央公会堂50年誌』*も所蔵しています。100年の記念誌が出版されるのを楽しみに待ちたいと思います。

*の資料は館内利用のみです。

今月の蔵出し

口ひげが世界をすくう?!』(ザラ・ミヒャエラ・オルロフスキー/作 ミヒャエル・ローハー/絵 若松宣子/訳 大黒芙実子/描き文字 岩波書店 2017.11)

オーストリアに住むヨーヨーのおじいちゃんは、つまらないことに怒るひまがないくらい忙しく、一日中色々と素敵なことをしていました。でも、大好きだったおばあちゃんが亡くなってから、すっかり元気をなくし、新聞ばかり読んで、ヨーヨーとも遊んでくれなくなりました。ある日、新聞で見た世界ひげ大会に出てチャンピオンになると決めたおじいちゃんは、ヨーヨーと一緒に作戦を立て、チャンピオンになります。(どんなひげで優勝したかは、本をご覧になってのお楽しみに。)すっかり有名人になり、多忙を極めるようになったおじいちゃん。そんなおじいちゃんの身に起こったできごととは?

おじいちゃんと孫、家族の関係がユーモラスに温かく描かれている作品です。

当館所蔵資料はブックコートフィルムがかかっているのでできませんが、本の帯には5種類のひげの絵が用意されていて、ひげの着せ替えができます。また、見返しには紀元前から今までの個性的なひげが、文中にはヒゲのお手入れ用品やひげ大会に参加した人たちの様子が描かれていて、隅から隅まで楽しめる作品となっています。

【ミヒャエル・ヒゲスキー】

帰ってきたヒトラー 上』(ティムール・ヴェルメシュ/著 河出書房新社 2014.1)

映画化された<帰ってきたヒトラー>の日本公開時のコピーに倣って言えば、「この小説、笑うと危険」です。

1945年、ベルリン陥落に際して自殺を図ったはずのヒトラーが当時の軍服を着たままで2011年8月30日に「復活」します。しかし、66年という歳月、ドイツ第三帝国と共和制ドイツという社会制度の違いから、ヒトラーの言動はひどく可笑しなものになってしまいます。例えば、彼が「ヒトラーユーゲント」と思い込んだサッカー少年が「総統」への礼を欠いた振る舞いをしたために「教育文化相のルストを罷免および追放!」と叫び、ぶつかりかけた男のかぶる穴のあいた自転車のヘルメットを見て敵の攻撃を受けた損傷と判断して「今はまだ戦時中なのだ」と決めつけてしまうのです。

やがて自分の置かれている状況を理解し、ヒトラーはドイツを再び栄光の座につけるべく突き進み始めるのですが、周りの人たちはそっくりさんと勘違いして、そのままお笑い芸人として人気者になります。

いたって真面目なヒトラーと、彼の振る舞いをブラックジョークと捉える現代ドイツ人とのすれ違いが笑いを誘います。

一方、「危険」なのは、この小説がヒトラーの一人称で語られていることです。

ヒトラーは、すばらしいプロパガンダ手段であるにもかかわらず料理番組で野菜を刻んでいるコックの顔を映すためにテレビが活用されているのを観て驚いたり、36年もボリシェヴィキの亡霊とともにあった人物がドイツの首相(つまりメルケル首相)になっていることに衝撃を受けたりします。それを私たちはヒトラーの眼を通して見、彼の「愚痴」にも似た感想を聞いて笑っているのです。

作者のヴェルメシュは「ヒトラーとともに笑う―これは許されることなのか?いや、そんなことできるのか?」と我々に挑んでいます。この結末はどうつけられるのかとはらはらしてくる小説です。果たしてヒトラーは歴史に戻るのか、それとも「第四帝国」が築かれるのか。

帯によれば、ドイツで130万部を売り上げた、賛否両論を巻き起こした問題作とのこと。みなさんは、どう読まれるでしょうか。

【茶風鈴】

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