大阪府立図書館

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本蔵-知る司書ぞ知る(47号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2018年9月20日版

今月のトピック 【月についての資料】

陰暦8月15日の月は中秋の名月と呼ばれていますが、今年は9月24日にあたるそうです。たまには、月をゆっくり眺めてみませんか。現在、当館の4階では、月にまつわる展示を開催しています。それに因んで、月についての資料をご紹介します。

The Real Moon月の素顔』(沼澤茂美/共著 小学館クリエイティブ 2016.10)

写真などの豊富な画像を使いながら月にまつわるあれこれを、紹介しています。地球上から肉眼で観察可能な月に関わる自然現象を扱った第1章から、章が進むにつれて月の実態に迫っていく形式になっており、月について様々な角度から知ることができます。

月:人との豊かなかかわりの歴史』(ベアント・ブルンナー/著 白水社 2012.12)

地球にとって最も身近な天体である月は、人間の想像力や欲望を刺激し、多様なものを生み出す原動力となってきました。本書は、歴史上、月が人間に与えた影響について、科学と文化の両面から述べています。例えば、月の魅力にとりつかれたフランスの作家ジュール・ヴェルヌが著した小説『月世界旅行』は、その革新的な内容によって現実の科学の発展にも影響を与えたとされています。

月の名前』(高橋順子/文 デコ 2012.10)

「玉兎(ぎょくと/たまうさぎ)」、「蟾蜍(せんじょ)」、「細好男(ささらえおとこ)」、「鵲の鏡(かささぎのかがみ)」。これらは全て月の異称です。このように、日本語の中には月にまつわる言葉がたくさんあります。本書は、それらが使われた俳句や和歌などを交えながら、日本人の生活にいかに月が関わっていたかということを教えてくれます。

今月の蔵出し

ぼくらの近代建築デラックス!』(万城目学/著 門井慶喜/著 文藝春秋 2012.11)

明治期から昭和初期にかけて建てられた近代建築の価値が、最近見直されつつあります。これまでは、老朽化した建物として取り壊されることも多かったのですが、現存数が減少したことで希少価値が高まり、優れた意匠の建物も多いこと等から、何らかの形で保存・再利用されるものが増えてきています。

今回紹介する『ぼくらの近代建築デラックス!』は、作家の万城目学さんと門井慶喜さんが、近代建築の魅力について語り合った一冊です。近代建築好きのお二人が大阪、京都、神戸、横浜、東京の名建築を訪ね歩きながら、博覧強記の門井さんが建物や建築家にまつわる薀蓄を滔々と披露し、万城目さんが率直な感想や個人的な経験に基づいた思いを語っています。その軽妙なやり取りから、お二人の人柄も窺える面白いルポ対談集となっています。

なお、本書は2012年刊行のため、現在は様変わりしている建物も幾つかあります。例えば、大阪城そばの旧第四師団司令部庁舎はお二人の訪問時には閉鎖されており、「陰々とした雰囲気」と表現されていますが、2017年に飲食店等が入った「ミライザ大阪城」に生まれ変わり大変賑わっています。また、外壁だけが保存され「窓越しに向こうの建物が見える」不思議な状態だった旧第一銀行神戸支店は、万城目さんが壁の内側(当時は駐車場)にマンションが建つ可能性を指摘されていますが、現在は実際にマンションが建っています。本書をガイドとして現地に赴き、このような変化を楽しんでいただいてもよいかも知れません。(2015年には台湾編等を追加した文庫版が刊行されています。)

万城目さんは大阪出身、門井さんは大阪在住ということもあり、本書では大阪の建築が比較的多く紹介されています。ちなみに、大阪府立中之島図書館も1904年落成の近代建築なのですが、残念ながら本書ではさらりと流されてしまい、隣の大阪市中央公会堂にスポットが当てられています。中之島図書館は、現役の図書館としては日本最古の格調高い建物ですので、是非同館も訪ねてみてください。

【隊長】

小沢健二の帰還』(宇野維正/著 岩波書店 2017.11)

小沢健二というミュージシャンを知っていましたか?

2017年、19年ぶりとなるCDシングルを発売し、それにともなってテレビの音楽番組やライブ活動を本格的に再開させた人。そう、29歳のポップ・スターが、ある時期を境に芸能界から姿を消し、48歳になった姿で復活を遂げました。昔を知る人は驚きをもって、そうでない人は不思議な(これ、だれ?といった)気持ちで、この人の姿を見、語る言葉や歌を聴き、奏でる音楽に触れたのではないでしょうか。

本書は、その姿が見えなかった小沢健二の空白期について書かれたものです。この間、小沢健二は、ニューヨークに移住していたのですが、そこでの活動の軌跡を、音楽作品や文章などから丁寧に辿っています。現地のミュージシャンとの音楽作り、非商業誌へのメルヘン(物語)の連載、南アメリカなどを旅しながら作った映画の上映会開催など、実際には「空白」ではない豊かな期間だったことがわかります。特に印象深いのがメルヘン「うさぎ!」の執筆活動からの考察で、著者で映画・音楽ジャーナリストの宇野維正は、「そこには、ずっと触れることができなかった彼の言葉が洪水のように溢れていた。そこから、音楽作品への理解も深めていくことができるようになりました(『週刊読書人』3218号より)」と述べています。著者の筆は、まるで探偵小説を書くように小沢健二という人と作品世界の謎を解き明かしていきます。

ちなみに、「うさぎ!」は、小沢健二の父親であるドイツ文学者の小澤俊夫が所長を務める「小澤昔ばなし研究所」の季刊誌『子どもと昔話』で25号(2005年10月)から連載されています(現在は休載中)。当館では欠号なく所蔵していますので、私もじっくり読んでみたいと思いました。そしてこれからも新しい曲が出て、過去の曲とのつながりを発見したり、作品世界に共感したりできることに、小沢健二の帰還を心から嬉しく思うのであります。

【霧】


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