大阪府立図書館

English 中文 한국어 やさしいにほんご
メニューボタン
背景色:
文字サイズ:

本蔵-知る司書ぞ知る(45号)

大阪府立図書館 > TOPICS > 中央 > 本蔵-知る司書ぞ知る(45号)

更新日:2018年7月20日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。
》「本蔵」の一覧はこちら

2018年7月20日版

今月のトピック 【太宰治を題材にした小説】

今年は太宰治の没後70年。当館では展示「太宰治の文学世界~桜桃忌に寄せて~」を開催中です。太宰といえば、この7月からは未完の遺作『グッド・バイ』を原案とした羽生生純の同名コミックが連続ドラマ化。また、最近ブームの文豪が登場するマンガやアニメ、ゲーム等では、その人生や作品イメージが投影され、キャラクター化した「太宰治」が人気を博すなど、作家・太宰治のイメージは拡散し続け、現代に生きる作家の作品にも様々な形で影響を及ぼしています。今回は、太宰やその作品を題材にした小説をご紹介します。

探偵太宰治(文芸社文庫NEO)』(上野歩/著 文芸社 2017.7)

若き日の太宰治が、探偵小説の取材のため、ある特殊な体質を武器に事件を解決していく・・・というと一見荒唐無稽に思えますが、太宰が「黒木舜平」の名で探偵小説を書いたという史実に着想を得た作品です。丹念に調査した史実を巧みに作中に活かしており、特に長年太宰を様々な形で助けながら、その遺書に「井伏さんは悪人です」と書かれた師・井伏鱒二との関係性は、太宰の視点で見るとこのようなものであったのかもと思わされます。

バイバイ、ブラックバード (双葉文庫)』(伊坂幸太郎/著 双葉社 2013.3)

星野一彦の最後の願い―それは〈あのバス〉で連れていかれる前に、5人の恋人たちに別れを告げること。彼を監視する巨体で粗暴な女・繭美を結婚相手と偽り別れを告げていく星野の女たちへの言い訳や、繭美との掛け合いが楽しい。多情な男と大女の珍道中は『グッド・バイ』へのオマージュ。著者インタビューや『グッド・バイ』収録の『『バイバイ、ブラックバード』をより楽しむために』も合わせてどうぞ。

嫌われ松子の一生』(山田宗樹/著 幻冬舎 2003.2)

教職を追われ失踪した松子とは生前一面識もない彼女の甥が、松子と関わった人々に話を聞きながら彼女の人生を辿って行く物語です。松子が付き合った男の一人が、太宰が入水した翌日に生まれた自分を太宰の生まれ変わりだと信じている作家志望の人物であったり、ぼろぼろになった松子が自分を太宰と心中した山崎富栄ではと思い、玉川上水で自殺を図るなど、現代の私たちがどこか「太宰的」だとイメージする設定が、松子の転落の人生に組み込まれています。

今月の蔵出し

奇跡の村:隠れキリシタンの里・今村』(佐藤早苗/著 河出書房新社 2002.2)

今年(2018年)6月30日、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がユネスコの世界遺産に登録されました。今回登録されたのは長崎県と熊本県(天草)の教会と集落ですが、本書は筑後平野のほぼ中央にあるキリシタン集落、福岡県大刀洗町大字今(「今村」)のあゆみを描いています。

明治維新前年である1867年、今村のキリシタンは長崎の信徒により「発見」されました。明治の初め頃はまだキリスト教は禁止されていたので、今村の人々はひそかに長崎の信徒と交流をしていましたが、その後禁教令の廃止に伴い、多くのキリシタンがカトリックへ復帰していきました。あまりに信者が多かったため、ミサが行われていた木造の小さな教会に入りきれずに、多くの人々は教会の外で祈りをささげていたそうです。

時代が大正に移った1913年、長崎で多くの教会を手がけた鉄川与助の設計と国内外からの多額の寄附、そして多くの信徒の奉仕により新たな天主堂が建築されました。レンガ造りで高さ約20mの双塔を持つ聖堂は今村の人々の信仰の象徴となり現在にいたるまで大切に使われています(2015年国の重要文化財に指定されました)。

天主堂建築と同じ頃、ブラジルへの移民がはじまります。貧困にあえいでいた今村からも多くの人々が移住していきました。本書の後半ではブラジルでの今村の人々の苦難の歴史と今村とのつながり、そして近年の今村における信仰の歴史をふり返る動きを、ブラジル移民2世で連邦議員になった平田進と、ブラジル生まれで日本に帰国し、今村にキリシタン資料館をつくった平田松雄を軸に描いていきます。

今回世界遺産に登録された地域のほかにも潜伏キリシタン集落を由来に持つ地域があり、そこには苦難の中で信仰を伝えてきた人々の営みがあることが伝わる本です。

なお、昨年、福岡県在住の作家帚木蓬生による明治以前の今村をモデルにした小説『守教 上』が出版されました。こちらもあわせてどうぞ。(文中敬称略)

【晩比瑠】

ベナンダンティ:16-17世紀における悪魔崇拝と農耕儀礼』(カルロ・ギンズブルグ/著 竹山博英/訳 せりか書房 1986.2)

グリム童話には幸運のアイテムを持って生まれ、王に成りあがった男が登場します。では、この男が文字通り「持って生まれた」物とは何でしょうか。答えは「三本の金髪をもった悪魔」という作品のなかにあります。男は「幸運の皮」を被って生まれ、将来姫と結婚し王になると予言されました。それを聞いた王様は予言を退けようと、どうにか男が赤ん坊のうちに殺そうとしますが、偶然に偶然が重なり、結局予言は成就してしまいます。この生まれながらに幸せを約束する「幸運の皮」とは、実はお腹の中で赤ちゃんを包んでいる羊膜なのです。近代以前のヨーロッパにはこの「幸運の皮」にまつわる不思議な伝承が多くあります。

グリム兄弟のドイツから離れますが、イタリア北東部には「シャツを着て生まれてきたものたち」、すなわち「幸運の皮」である羊膜を着て生まれた<ベナンダンティ>といわれた人たちがいました。彼らは一年のある季節になると、次の季節の農作物の豊穣を願って、夜に集会を行い、夢の中で邪悪な魔女や魔術師と戦います。もともとは正義の味方だったのですが、近世の魔女狩りの中、邪悪な魔女たちと同一視され迫害されて、忘れ去られてしまいます。

当時の民衆は識字率も低かったこともあり書き残されることもなく、昔話のように語り継がれもしません。ならばどうやって、著者であるギンズブルグは歴史から消された<ベナンダンティ>たちを見つけたのか。実は、彼らを排除した教会側の裁判記録からその存在を見出したのです。排除しようとした側が、結局後世まで彼らの思想や存在を残してしまうというのは何とも皮肉ですね。

【もちづき】

「本蔵」の一覧はこちら

PAGE TOP