本蔵-知る司書ぞ知る(40号)
更新日:2018年2月20日
2018年2月20日版
今月のトピック 【カレーについて】
今年の2月12日は、世界初のレトルトカレーが阪神地区限定で発売されてから、50年を迎える日でした。発売翌年の1969年には全国展開され、現在ではすっかり手軽に食べられる国民食として定着しました。今回は、そんなカレーにまつわる本をご紹介します。
『カレーライスの誕生(講談社選書メチエ)』(小菅桂子/著 講談社 2002.6)
「文字に書かれた日本最古のカレー資料」の著者は?から始まり、食文化史を専門とした筆者らしく、様々な文献を引いて書かれています。レトルトカレー誕生秘話についても、「社長以下総出で京阪神間の有名なカレー店」を「食べ歩いた」というエピソードなどが、詳しく紹介されています。
『カレーライスの謎:なぜ日本中の食卓が虜になったのか』(水野仁輔/著 角川SSコミュニケーションズ 1967.5)
カレーの歴史を概観した後、日本のカレーが国民食となった理由を様々な角度から分析しています。即席カレーを発売している3社にとってのカレーのコクとは?隠し味の効果って?出張料理人でもあり、カレー研究家でもある著者ならではの視点で書かれています。
『日本全国ご当地レトルトカレー図鑑(カタログ)』(井上岳久/監修 ダイアプレス 2013.6)
カレー好きが高じ、「カレー大学」まで作ってしまった監修者による、ご当地レトルトカレー図鑑です。主にエリアごとに分類され、「とろみ」「辛さ」「スパイス感」などの9指標を付けて紹介されています。「カレーは茶色って誰が決めた!?」と、カラフルカレーを紹介するコーナーもあります。
今月の蔵出し
『定本八木重吉詩集』(八木重吉/著 弥生書房 1958)
2018年は八木重吉の生誕120年にあたります。
私が重吉の詩にはじめて出会ったのは、中学校の国語の教科書でした。「素朴な琴」という詩で、ご存知の方も多いと思います。以下に引用します。
この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美くしさに耐えかね(て)
琴はしずかに鳴りいだすだろう
平明な言葉で綴られた短い詩ですが、なぜか強く心に残りました。
この詩人に興味を抱き、私は彼の詩集を手に入れました。
「人形」という詩にも大変心を惹かれました。腹ばいで寝転んだ重吉の上に、幼い娘の桃子が馬乗りになって遊んでいたが、やがて桃子はどこかに行ってしまう。その去り際に父の背中にそっと人形を置いていく。そういう情景をとらえた詩です。重吉は詩の後半部分でその時の幸福な気持ちをこんな風に綴っています。
そのささやかな人形のおもみがうれしくて
はらばいになったまま
胸<腹>をふくらませてみたりつぼめたりしていた
日々の生活の中で小さな我が子との時間を大切にしていた彼の姿が浮かびます。
「美しくあるく<こどもが 歩るく>」も子どもの姿を的確に表現する詩人の眼が感じられます。
こどもが
せっせっ せっせっ とあるく
すこしきたならしくあるく
そのくせ
ときどきちらっとうつくしくなる
真摯なクリスチャンであった重吉ですが、1927(昭和2)年に29歳の若さで天国に召されてしまいます。二人の子どもたちも重吉と同じ病で若くして亡くなりました。重吉が亡くなってから90年になりますが、彼の詩は、これからも色あせることなく、人々に感銘を与え続けることでしょう。
【Mike】
『無限の本棚』(とみさわ昭仁/著 アスペクト 2016.4)
あなたは、何か集めているものがありますか?
好きなものを集めたい気持ちは、誰もが持っていると思います。では、集めることで満足して、集めたものに興味が無くなっていることに気付いたことはあるでしょうか。
著者は、一升瓶のキャップに始まり、消しゴム人形、ミニカー、切手、スナック菓子の付録カード・・と、子どもの頃から様々なものを集めてきましたが、家庭の事情でコレクションを手放していくにつれ、物欲が消えたといいます。
しかし、物欲が消えたはずなのにふたたび蒐集を始めたとき、著者は、人が物を集めるときの原動力である「蒐集欲」が物欲だけではないことに思い至ります。
そして、「コレクションとは、「物欲」と「整理欲」のふたつから成り立っていたのだ。」として、「物欲派、整理欲派、どちらもコレクターであることに変わりない。だが、その根っこにあるのは、まったく異なる精神性なのである」と蒐集の本質を見極めるに至ったのでした。そして著者はついに整理派コレクターの極致、「エアコレクター」という境地に至ります。
「道」を極めた者はどうなるのか。それを示した名作として中島敦の『名人伝』(『山月記・李陵』所収)がありますが、その境地にかつて私は衝撃を受けたものでした。もし、この世に「コレクション道」というものがあるのなら、その「道」の果てに行きついた者が、「エアコレクター」ということでしょうか。これには衝撃というより、激しい共感を覚えました。
著者は、その後、マニタ書房という古書店を開店するに至りますが、そのときの状況をこう記しています。
「エアコレクターという概念を発見し、そこであらためて古本屋を商売にすることを思いついたときの衝撃は忘れられない。それはすなわち「永久機関」の発明にも等しかった。溜め込むことさえしなければ、永遠に本を買い続けることができる!」
集めずにはいられない方へ、一読をお勧めしたい本です。
【oton】