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本蔵-知る司書ぞ知る(37号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2017年11月20日版

今月のトピック 【オーギュスト・ロダン】

19世紀を代表する彫刻家、オーギュスト・ロダン。今月、没後100年を迎えました。日本では、彼自身よりも、作品「考える人」のほうが有名かもしれません。今回ご紹介するのは、そんなロダンと同時代を生きた人々の物語です。彼に魅了された人々の目を通して、その素顔に迫ってみませんか?現在、没後100年を記念した映画「ロダン カミーユと永遠のアトリエ」も全国で公開中です。

ロダンと花子:ヨーロッパを翔けた日本人女優の知られざる生涯』(資延勲/著 文芸社 2005.10)

かつて、ロダンの彫刻のモデルを努めた日本人女性がいたことをご存知でしょうか。太田ヒサ、芸名を花子という彼女をモデルに、ロダンは58体もの作品を作ります。日本では無名と言える花子が、「近代彫刻の父」とも称されるロダンのモデルとなるまでの、その数奇な生涯が語られています。

白樺派と近代美術』(東珠樹/著 東出版 1980.7)

武者小路実篤をはじめとする白樺派の文人たちは、ロダンに心酔するあまり、雑誌『白樺』で「ロダン特集号」を制作しました。本書の「武者小路実篤とロダン」(p.30-73)では、関連資料を引用し、彼らが憧れのロダンとの交流に一喜一憂していた様子を紹介しています。なお当館では、『白樺』の「ロダン特集号」(第1巻第8号第9巻第1号)の復刻版*も所蔵しています。
*の資料は館内利用のみです。

カミーユ・クローデル:極限の愛を生きて』(湯原かの子/著 朝日新聞社 1988.10)

カミーユ・クローデルは、ロダンの弟子・モデルであると同時に、愛人でもあった女性です。2人が初めて出会ったのは、カミーユ19歳、ロダン42歳のときのことでした。類まれな才能を持ちながら、世間では全く評価されず、ロダンへの愛憎と芸術家としての自立心の狭間で苦しみ続けたカミーユ。やがて悲劇的な運命を辿ることとなる人生のなかで、彼女は何を思い生きていたのか。もう一人の天才の物語を、ぜひご覧ください。

今月の蔵出し

山アラシのジレンマ』(レオポルド・ベラック/著 ダイヤモンド社 1980)

山アラシのお話は、ご存知でしょうか。

ある冬の日、寒さにこごえた山アラシのカップルがいました。本当は近づいて暖まりたいのだけれど、近づきすぎたら、棘(トゲ)でお互いを傷つけてしまう。離れてしまったら寒いしさびしい。試行錯誤を重ねて、2匹は、お互いにちょうど良い位置を見つけました、というお話です。

このお話は、もともとショーペンハウアーが書いた寓話でしたが、フロイトにより精神分析の領域に取り上げられ、その後、同じく精神分析医である著者により、人間関係の問題の一つの型として「山アラシ・ジレンマ」と名付けられました。

今回ご紹介する本でも、人間関係の心理的距離の置き方を軸に、社会の様々な状況を論究しています。特にII部では、豊かな臨床経験から、読者一人一人の主体的課題として具体的に語られており、原著出版から50年ちかく経ちますが、内容は色褪せていません。

ところで今年、当館では閲覧室の2人用の机に間仕切りが出来ました。一人用の机はすぐに埋まってしまうのに、2人用机は空いたままのことが多いので「試しにやってみよう」となったのですが、実際に向かい合わせの席の間に仕切りを置いてみたら、よく利用されるようになりました。顔を上げてすぐに他人と目が合うのは気まずいけれど、すりガラスの向こうで気配を感じるくらいの距離感は、1人のときよりも居心地良く過ごせるのかもしれません。と、そんなことを、色々な場所で考えたくなる本です。

訳者の小此木啓吾は著名な精神科医ですが、文章は平易でわかりやすいものです。また、ショーペンハウアーが書いた寓話は、『ショーペンハウアー全集 14』や『随感録』などで読めますが、これらに掲載されている他の寓話も、読んだら引き込まれるものばかりです。よろしかったら、あわせてどうぞ。

  【春】

風の草原(トガリ山のぼうけん)』(いわむらかずお/文・絵 理論社 1991.8)

いわむらかずおさんといえば、「14ひきのひっこし」をはじめとする「14ひきのシリーズ」でよく知られていますが、今回ご紹介するのは「トガリ山のぼうけんシリーズ」です。

トガリネズミのトガリィじいさんが、若いころトガリ山を目指して冒険した話を3人の孫に聞かせてやる、という形で物語は進みます。お話のメインは冒険ですが、合間合間に挟まれる祖父と孫たちのほのぼのとしたやりとりも、この作品の魅力の一つです。

私がこの本と出会ったのは、小学校の図書室でした。ストーリーはもちろん、挿絵や本文の字体、表紙の手ざわり(残念ながら、図書館の本にはたいていカバーがかかっているので体感していただけませんが)など、とにかく何から何まで気に入ってしまいました。シリーズを読破したあと、全巻買ってほしいと母親にせがみましたが叶わず、その後も繰り返し図書室で借りては読んでいたのを覚えています。

冒険の途中で出会う生き物の多くは言葉を話すのですが、トガリィは、その相手によっては容赦なく食べてしまいます。もちろん、トガリィが食べられそうになる場面も何度もあり、トガリ山をめざす冒険は一筋縄ではいきません。単なるファンタジーではなく、自然界のリアルな面も描かれていることで臨場感が生まれ、たちまち物語に引き込まれていきます。また、登場する生き物は実在しているものばかりで、「トガリネズミ」や「トノサマバッタ」などのように具体的な名前で書かれています。お子さんとご一緒のときには、それらを図鑑で調べながら読んでみるのもおすすめです。

子ども向けの本にしては、全8巻と少し長めですが、随所にちりばめられた美しくかわいらしい挿絵を見ていくうちに、あっという間に読めてしまうと思います。もちろん大人が読んでも十分に楽しめる作品です。夜の長いこれからの季節、寝る前のひとときにいかがですか。

 【がーな】


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