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本蔵-知る司書ぞ知る(33号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2017年7月20日版

今月のトピック 【正岡子規が主人公の小説】

先ごろ司馬遼太郎の『竜馬がゆく』と『坂の上の雲』の自筆原稿が見つかりました。『坂の上の雲』の主要人物の一人正岡子規は、親交のあった夏目漱石とともに、今年生誕150年を迎えました。 『坂の上の雲』以外にも、子規が主要人物となって登場する小説があります。それぞれ異なった視点から描かれた作品を3点紹介します。なお、今回見つかった原稿は、司馬遼太郎記念館にて8月末まで特別展示されています。

兄いもうと』(鳥越碧/著 講談社 2007.7)

若くして病に倒れた俳人・正岡子規を最期まで支えたのは、妹の律でした。脊椎カリエスに冒されながらも創作を続けた子規と、介護し続けた律との闘病の日々をとおして、兄と妹の壮絶な愛が描かれています。

ノボさん:小説正岡子規と夏目漱石』(伊集院静/著 講談社 2013.11)

野球と文芸に魅入られた若き日の正岡子規は、東大予備門で夏目漱石と出会う。二人の文学への挑戦と友情は、子規が35歳で逝くまで続きます。なお、この作品は第18回司馬遼太郎賞を受賞しています。

子規と漱石のプレイボール』(長尾誠夫/著 ぴあ 2014.2)

正岡子規は、些細な口論から米軍野球チームと日米親善試合を行うハメとなります。子規が結成したチームには、親友の夏目漱石をはじめ同郷の秋山好古・真之兄弟や弟子の高浜虚子、そしてマドンナ、うらなり、赤シャツ、狸校長など『坊っちゃん』の登場人物までもが名を連ね、いよいよ米軍野球チームとの戦いが始まります。

今月の蔵出し

園芸家の一年』(カレル・チャペック/著 飯島周/編訳 恒文社 1997.10)

本書は、カレル・チャペックが1925年から27年にかけて自分が勤めていた新聞の「リドベー・ノビニ」紙に書いたエッセイを集め、それに3つの新しいエッセイをつけ加えて1929年にできあがったものです。園芸家の一年を十二ヶ月にわたって紹介しています。

チャペックの書いた本の中で最初に先輩の司書に教えてもらったのが本書でした。(チェコの有名な作家で「ロボット」という言葉を作り出し、それを世界に広めたSF劇を書いた人、という知識は後からついてきました。) 茶目っ気を感じるイラスト(兄であるヨゼフ・チャペックが描いたもの)も印象に残ったのですが、その後、手に取ることはありませんでした。

昨年、チェコの絵本の展示会に行き、その存在を思い出し、改めて読んでみました。

園芸マニアであった作者がユーモアと皮肉をまじえて園芸を暖かい心で描いています。たとえば、「二月は、危険な月と言われ、なぜ閏年に限って、この月に一日分おまけしてやるのか、さっぱりわからない。素晴らしい五月を一日ふやして、三十二日にすべきだろうに。」などと、無茶を言ったりしています。

植物の名前がたくさん出てくる中、「トケイソウ」に興味を持ち、どんな植物か調べました。当時、読んだ文庫本にはなかったですが、このエッセイ選集の巻末には、「チャペックの植物名一覧」が掲載されており、時間を持て余すようになったら、それを調べてみたいという野望を新たに持ちました。

チャペックは、他に『ロボット(岩波文庫)』や『長い長いお医者さんの話(岩波少年文庫)』などでも知られています。ほとんどの作品は、兄のヨゼフが挿絵を描いていますが、『ダアシェンカ:ある子犬のくらしから』は、挿絵も写真も本人が手掛けています。

                                                                    【雨水】

子どもに聞かせる世界の民話』(矢崎源九郎/著 実業之日本社 1979)

ロングセラーの有名な児童書ですが、今回はおとなの方に向けてご紹介したいと思います。

この本には、81の国と民族から1話ずつ、類話を避けて選ばれた、81のおはなしが収められています。

なぜこの本をおとなの方におすすめしたいかと言いますと、まずは、どこでも好きなところから読み始めることができるので、忙しくても気軽に読める点です。また、一つ一つのおはなしが、おとなにとっても面白いのです。

実はこちらの本、私が子どもの時にはあまり魅力を感じず、読んでもらってもつまらないと思っていました。ですが、おとなになってから、色んな場面でなぜか、この本の中のいくつかのおはなしをふと思い出すことがありました。

たとえば、アフリカ東海岸に伝わる民話「ウサギのつの」。主人公のウサギは、利益を得たいがために、付け焼刃で装ったものの・・・「はりつけたものは、はげてしまうぞ。」と言われてしまいます。ポーランドの民話「サヤエンドウじいさん」では、見栄っ張りで、くだらない嘘ばかりをつくおじいさんが出てきますが、最後には、読む人がほっこりさせられる展開が待っています。

81のおはなしの中に登場する人物は、それぞれ個性豊かで人間臭く、自分も含め、色々な人の中に似たような面を見つけることができます。日々の暮らしの中で、自分や人の様々な面に出会ったときに、「まぁいいか」とある種の愛おしさをもってまるごと受け止めることができる、そんな助けになる本ではないかと思います。

【いろは】


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