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本蔵 -知る司書ぞ知る(28号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2017年2月20日版

ぼくが宇宙人をさがす理由』(鳴沢真也/著 旬報社 2012.8)

「ずばり、きみは宇宙人がいると思いますか?」ときかれたら、どう答えるでしょうか。

この質問に対して、同じ科学者である天文学者と生物学者では答えが違います。天文学者のほとんどは、宇宙人、すなわち地球外知的生命は存在すると考えています。その理由は、宇宙にある星の数です。太陽と同じ恒星だけでも「世界じゅうの海岸にある砂粒の総計よりまだ多い数」があります。まさにその数は天文学的数字で、これだけの星の数があれば、きっとどこかに知的生命はいるだろうと考えるわけです。
一方、生物学者の間では、地球外知的生命の存在について意見がわかれます。「海さえあれば生命は誕生する」というのは、生物学者の共通の意見ですが、否定する人たちは知的生命にまで進化するというのはまずないと考えるのです。なぜなら、地球で生命が知性を持つまでに進化できたのは、偶然に偶然が重なった結果であり、よその星ではこんな偶然はまずおきないと言うのです。

科学者どうしでも意見が異なる質問に対する答えは、現在のところ「わからない」というのが正解です。その答えを見つけるために、SETI(セチ)という観測が世界で行われています。SETIとは、「地球外知的生命探査」の英語の略で、現在までにアメリカを中心に約100のプロジェクトが行われてきました。地球外知的生命が送ってくる電波をアンテナでとらえようとする観測がSETIなのです。宇宙人の存在を確認する方法としては、科学的に正しい方法でかつ安上がりな方法なのです。

この本は、宇宙人の存在を信じる天文学者によって、宇宙の成り立ちや人類の進化、SETIの活動などについて、書かれたものです。もともと中学生向けに書かれた本なので、たいへんわかりやすく書かれています。著者は、兵庫県立大学西はりま天文台の天文科学専門員で、日本では数少ないSETI研究の第一人者です。全国同時SETI観測及び世界合同SETI観測のプロジェクト・リーダーを務めました。SETIの詳細については、少し専門的になりますが、『宇宙人の探し方:地球外知的生命探査の化学とロマン』を著しています。

本書には、このような科学的内容以外に著者の半生が書かれています。ここがこの本の大きな特徴でもあります。著者は、理想の自分と現実の自分のちがいに苦しみ、中学3年生から不登校になってしまいます。そこから暗く長い日々が始まります。そのなかでも小さいときからの「宇宙への夢」を持ち続け、大学に22歳で入学するなど時間はかかりましたが、ついにその夢をかなえました。抜け道の見えない苦しみのなか、ひたむきに「夢をあきらめないで」追い求めれば、いつか現実になるという著者のメッセージを感じます。この本は、科学的興味を満たしてくれて、人間の生き方としての感動も味わえる希少な1冊です。おとなにもおすすめです。

 【慈】

キル・ゾーン:ジャングル戦線異常あり(コバルト文庫)』(須賀しのぶ/著 集英社 1995.6)

1月に決定した第156回直木賞。受賞は逃しましたが、集英社コバルト文庫出身の作家・須賀しのぶの『また、桜の国で』が候補作に選ばれたことで、今回は個人的にも賞の行方に注目していました。近年、いわゆる「少女小説」出身の作家も一般文芸に多数進出して、一定の評価を得つつはあるものの、文壇の賞レースに登場することはなかなかありません。直木賞でいえば、唯川恵が2001年に『肩ごしの恋人』で受賞しています。しかし、その後は少年向けライトノベル出身の有川浩、冲方丁などが候補になったくらいで、「少女小説」出身者は長年この賞から遠ざかっていました。そんな中での候補選出ということで、コバルト文庫とともに10代を過ごした身としては、喜びも一入です。

須賀しのぶは2009年頃から一般文芸中心に活躍しており、2016年には『革命前夜』で第18回大藪春彦賞を受賞しています。しかし、今回紹介するのは、須賀しのぶのコバルト文庫デビュー第2作『キル・ゾーン』シリーズの第1巻です。著者へのインタビューによると、第1巻が全く売れず2巻で打ち切られるはずがなぜか2巻が少し売れて、なんとか生きながらえたという本シリーズ。最終的には、1995年から2001年の6年間に渡って刊行され、本編17冊、外伝3冊、そしてスピンオフの『ブルー・ブラッド』シリーズ4冊の計24冊刊行という長大なシリーズとなっていました。
近未来を舞台にしたミリタリーものという、コバルト文庫内でのニッチ層を狙ったこの作品。最初はライトな感じで始まりますが、物語が進むにつれて登場人物の確執や政治的な思惑が入り乱れ、一方で種族の問題まで登場し、歴史ものかSFかといった様相を呈していきます。張り巡らされた伏線、キャラクターの相関関係など、このシリーズすべてを読み切らないと理解できない、「少女小説」らしからぬ難易度の高いシリーズです。
「少女小説」レーベルでは、恋愛に比重が置かれるイメージが強いかもしれませんが、この作品では戦闘や人間関係、政治的な攻防が中心です。本シリーズのヒロインが在籍するのは軍隊なだけに、その周囲は男ばかり・・・にもかかわらず、ヒーロー不在。ヒロインは実は良家のお嬢様が身をやつすという「少女小説」王道の設定を持ちながら、何かが違う。このシリーズに限らず、「少女小説」における著者のもう一つの代表作『流血女神伝』シリーズなどでも、須賀しのぶの作品はとにかくヒロインがこれでもかという過酷な状況に置かれ、しかし誰にも(ヒーローにも)救ってはもらえず、最終的には本人が自力で状況を打破していく・・・という、とことん「少女小説」のお約束に反した展開が共通しています。「少女小説」の予定調和にあえて立ち向かった須賀しのぶの作品は、だからこそ年齢や性別に関係なく楽しむことができる「少女小説」になったと思います。
一般文芸作品の『神の棘』の主人公たちを見ていると、『ブルー・ブラッド』の二人をどこか彷彿とさせますし、『芙蓉千里』のヒロインの生き方を見ると『流血女神伝』を思い出します。現在の須賀しのぶのルーツはやはり「少女小説」にあるのでしょう。
装丁の雰囲気から、手に取るのは少し勇気が必要かと思いますが、今回の候補選出をきっかけに、ぜひ一度手に取ってみてください。(文中敬称略)

 【御書物方同心】

正史三国志』(陳寿/著 筑摩書房 1992.12)

今回は「三国志ってよく聞くけど、何から読んだらいいんやろか」という方に向けて、なんちゃって三国志ファンの私から恐縮ですが、三国志の本の紹介をしたいと思います。

私自身、小学生の頃に横山光輝の漫画『三国志』を読み、個性豊かな英雄達の活躍に胸を躍らせたのを覚えています。ですので、まず手始めにこの漫画『三国志』から入られるのをお勧めします。全60巻の大著で、大雑把に言ってしまえば、1~20巻あたりは群雄割拠を、20~40巻あたりは諸葛孔明らが登場し三国時代の成立を、40巻あたり以降は曹操・劉備亡き後の世界を描いています。小学生から大人までどなたでも、スラスラと読めてしまうかと思います。
そうしますと、三国志熱が沸々と湧いてくることでしょう。その次は定番小説に進まれるのが定石です。となれば、横山光輝版の基ともなっている定番中の定番吉川英治『三国志』は外せないでしょう。『三国志演義』をベースに若干のオリジナルを加えた本書は、それまでの定番であった『通俗三国志』*に打って変わり、現在でも日本でのいわゆる三国志のスタンダードと呼べるものです。
さてここまでくると、人によって関心の方向性が様々分かれてくると思われます。もっと様々な作品で一大スペクタクルに浸っていたい、という方なら、例えば柴田錬三郎『三国志英雄ここにあり』。そして一押しなのが、大阪にもゆかりの深い陳舜臣が著した『秘本三国志』。宗教的な側面にも光を当て、吉川三国志とはまた違った味わいがあり、読ませます。それ以外にも関連の映画作品やドラマ、人形劇、はたまたビデオゲーム、ソーシャルゲームなど、様々なメディアで存分に楽しまれるのがよいかと思います。
一方で、史実が気になりだした方には、標題にも挙げた『正史三国志』。
先程『三国志演義』と書きましたが、これは明代に書かれたといわれる小説で、これが三国志の物語の根幹をなすものです。当時、三国時代を扱った講談・芝居・小説等が数々あり、これらを編纂したともいわれています。故にドラマチックなエピソードが多く盛り込まれ物語を彩る反面、フィクションも少なからずあるようです。他方、晋に仕えた蜀出身の陳寿によって紀伝体で著された『正史三国志』は、王朝公認の歴史書(正史)です(とはいえこれもすべて史実かと言えば、議論のある箇所も少なくない模様。陳寿の意図等を想像しつつ読むのも面白いでしょう)。1992-1993年に筑摩書房より出版された本書は、現代の我々にも大変読みやすく編集されています。1800年も昔のこととは思えない、人物達の息づかいを感じるようです。また4巻魏書4の東夷伝にはいわゆる魏志倭人伝が収録されています。ちなみに北方謙三『三国志』は『三国志演義』でなく、この正史に基づいて描かれています。

三国志関連本は大変多く出版されており、またその扱うテーマも様々で、三国志の世界が拡がり続けている点も魅力のひとつです。『三国志 正史と小説の狭間』『中国の歴史4 三国志の世界』といった研究書で史実を探求するもよし、『「三国志」歴史紀行』『三国志の風景』といった紀行ものを片手に現地へ赴くもよし、『三国志全人物事典』『図解三国志大事典』といった事典類で豆知識を増やすもよし。演義はどうして劉備が主人公なの?お米を食べていたのは呉だけってほんと?三国志が日本に伝わったのはいつ?これらがたちどころにわかります。個人的には、現代のビジネス界でも注目され、三国志の英雄達が駆使する用兵術の妙「孫子兵法」に関するもの、例えば『孫子』『曹操注解孫子の兵法』なども推しておきます。

学生時代、なんちゃって三国志ファンであったおかげで、ともすれば漢字の記憶ばかりで苦手だと言われがちな中国史の授業(他の時代のものも含めて)も前向きに取り組めた記憶があります。また日本のそれとは異なる儒教思想や道教思想、血族の概念等に自然と触れ、中国理解という意味でも大いに助けになっているように思われます。大人の皆様も学生の皆様も、趣味と実益を兼ねて親しまれてはいかがでしょうか。
入門書から専門書まで、豊富な当館の蔵書を存分にご活用いただき、三国志博士となっていただければ望外の喜びです。(文中敬称略)

*は館内利用のみです。
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