「はらっぱ」 No.39 国際児童文学館イベント紹介
大阪府立中央図書館 国際児童文学館
令和7年、国際児童文学館では、子どもの本に関するイベントや貴重な所蔵資料を紹介する展示等を開催した。ここでは、令和7(2025)年1月から12月の活動を紹介する。これらの概要や資料リストは国際児童文学館ホームページに掲載しているので、併せてご覧いただきたい。
【大阪府立中央図書館 国際児童文学館 イベント情報】
https://www.library.pref.osaka.jp/site/jibunkan/kiroku.html
資料小展示
「明治の子どもの”みる・よむ・あそぶ”~昔むかしのヒーロー・ヒロインたち~」
期間: 4月2日(水曜日)から6月26日(木曜日)
場所:室内小展示コーナー
明治期以降の児童文学には、牛若丸や静御前、豊臣秀吉といった昔のヒーロー・ヒロインが多く登場する。本展示は華やかな挿絵で彩られた歴史読本・絵本・双六などを通して、そのありようを紹介するもの。なお、本展示は、日本学術振興会外国人特別研究員であるアーフケ・ファン=エーワイク氏(資料選定・解説執筆)及び大阪国際児童文学振興財団の協力にて実施した。
資料としては『牛若丸(お伽画帖 第2編)』(巌谷小波(いわや さざなみ)/編 秋香(しゅうこう)/画 博文館 1908.4)、『静御前(講談社の絵本 108)』(西条八十(さいじょう やそ)/文 近藤紫雲(こんどう しうん)/絵 大日本雄弁会講談社 1939.5)といった国際児童文学館の資料のほか、個人蔵である双六の資料、大阪府立中之島図書館古典籍資料を借用して実施した。会期中のアンケートでは、「明治の子どもたちが楽しんで見ていたことに思いをはせることができた」、「いろいろな絵本や双六を見られて良かった」、「明治のヒーロー像と、その背景にある事情がよく分かる展示だった」などの感想が寄せられた。アンケートの回答者には国際児童文学館移転10周年記念クリアファイルをプレゼントした。

「講演と新刊紹介 2024年に出版された子どもの本」
大阪府立中央図書館で毎年開催している「講演と新刊紹介 ○○○○年に出版された子どもの本」は、前年1年間に発行された児童書について解説と紹介を行う講座で、一般財団法人大阪国際児童文学振興財団総括専門員の土居安子さんによる講演と、当館の専門協力員である大阪総合保育大学教授の瀧川光治(たきがわ こうじ)さん(映像による登壇)、当館国際児童文学館及びこども資料室の職員による絵本・読物・知識(自然科学、社会科学)の本の紹介で構成している。令和4年度以降、会場講演会のほか録画配信も行っている。
5月9日(金曜日)・10日(土曜日)の会場講演会には2日間で125名、YouTube限定公開での録画配信(6月1日(日曜日)~6月30日(月曜日))には746名の参加があり、アンケートでも選書をするうえで大変参考になり役に立つと非常に好評であった。開催方法については、本を実際に見ることができる来館と都合に合わせて視聴できる配信どちらもあることがありがたいとの意見が多かった。
新刊紹介の自然科学の本の紹介をご担当いただいた瀧川光治さんについて、今年度は都合により2日間とも動画を会場で流す形で行った。
また、5月11日(日曜日)から7月1日(火曜日)まで国際児童文学館とこども資料室で紹介資料の展示を行った。

資料小展示
「黒崎義介(くろさき よしすけ)の童画―生誕120年―」
期間: 7月1日(火曜日)から9月3日(水曜日)
場所:室内小展示コーナー
黒崎義介(明治38(1905)年3月25日-昭和59(1984)年8月12日)は、一時代を代表する童画家として数多くの絵本や児童読物の表紙絵・挿絵をてがけ、「コドモノクニ」(東京社)、「キンダーブック」(フレーベル館)、「チャイルドブック」(国民図書刊行会・現チャイルド本社)などに作品を提供した。2025年は生誕120年にあたることから、『チャイルドブック』16巻8号「プチのおはなし」(サトウ ハチロー/文 黒崎義介/え 国民図書刊行会 1952.8)など、国際児童文学館が多数所蔵する著書・雑誌から選りすぐって展示した。黒崎義介の創作年数は60年余に及び、義介の描く子ども達の穏やかな表情や、自然なしぐさからにじみでる素朴で上品な美しさは、懐かしい日本の情景とともに今も魅力を放ち続けている。
アンケートでは「黒崎義介の子どもに対する深い愛が感じられる絵だと思った。」「とてもあたたかな絵 とてもきれいな保存状態で色合いも美しく、ながめているだけでやさしい気もちになった。」「『ひかりのくに』や『キンダーブック』など昔読んだ雑誌に再会できてなつかしかった。」などの感想があった。

出張資料展示
「『タイの絵本』展」
期間: 8月22日(金曜日)から9月17日(水曜日)
場所:大阪市立中央図書館1階
エントランスホールギャラリー
国際児童文学館の資料を広く知ってもらうという趣旨で企画し、大阪市立中央図書館主催(当館協力)で、展示キャプション等をセットにした「アジアの絵本貸出セット」の中から「タイの絵本セット」を提供した。
内容は、民話・伝説の絵本や、タイ文字や数字の本などを、日本語訳のあるものは合わせて展示し、多様な文化が息づくタイの雰囲気が味わえるものとなった。展示した資料は65点。当館職員が搬送・展示設営を行った。
展示期間中には、展示をご覧になった方から問合せの電話が入るなど、反響があった。
【国際児童文学館 アジアの絵本貸出セットのご案内】
https://www.library.pref.osaka.jp/site/jibunkan/asiapack.html

「むかしの紙芝居を楽しもう!」実演 および 関連資料展示
●街頭紙芝居実演
11月8日(土曜日)、一般財団法人大阪国際児童文学振興財団と共催で多目的室にて開催し、のべ48人の参加者があった。
一般社団法人塩崎おとぎ紙芝居博物館(大阪市西成区)から紙芝居師である古山千賀子さん(写真)・岡田克也さんに街頭紙芝居を実演していただいたほか、紙芝居の下絵等をお借りし、会場に展示した。紙芝居ができるまでがわかる貴重な資料に、参加者は、イベント開始前から興味深く見入っている様子だった。
紙芝居の導入には、親しみある主人公によるほのぼのとした『チョンちゃん』、その次には楽しいクイズが行われ、子どもも大人も積極的に参加した。景品もご用意いただき、会場が大いに盛り上がった。その後、博士の作ったロボットが登場する『アイアンロック』、坊やが巻き起こす騒動が面白い『脱線坊や』と続いた。お二人の臨場感あふれる語りに会場中が引き込まれ、熱気に満ちた時間となった。

●資料展示
実演イベントにあわせて、9月6日(土曜日)から11月9日(日曜日)まで、室内小展示コーナーにて街頭紙芝居の展示を行った。
当館では、故・塩崎源一郎氏の設立した三邑会(さんゆうかい)が制作し寄贈された貴重な街頭紙芝居コレクションを所蔵している。この中から、代表的な画家6人の作品を取り上げ、画家の解説とともに展示した。手塚治虫との共作『新宝島』で知られる酒井七馬(さかい しちま)=左久良五郎(さくら ごろう)の『少年ローン・レンジャー』や、塩崎氏から日本一の紙芝居画家と称された佐渡正士良(さわたり しょうじろう)『どんぐり横丁に集まれ』、相馬一平(そうま いっぺい)『ジャンバー』、小寺鳩甫(こでら きゅうほ)=熱田十茶(あった とさ)の『文福茶釜うかれ狸』、宇田野武(うだの たけし)『鉄拳』、くつなつとむ『朝丸夕姫』などである。
なお、当館所蔵の街頭紙芝居約四千巻の絵はデジタル画像をホームページに公開している。
【大阪府立中央図書館国際児童文学館所蔵 街頭紙芝居】
https://www.library.pref.osaka.jp/central/kamishibai/index.html

企画展示
「日本児童文学 戦後80年のあゆみ」
期間: 11月14日(金曜日)から12月28日(日曜日)
場所:中央図書館1階展示コーナー
戦後80年を迎えた2025年、日本の児童文学80年のあゆみを国際児童文学館所蔵の雑誌や図書でたどる展示を開催した。展示作品選択と解説執筆は、一般財団法人大阪国際児童文学振興財団(IICLO)理事の宮川健郎さんにお願いした。
戦後児童文学のあゆみは雑誌から始まった。1944年に刊行された早稲田大学童話会の機関誌『童苑』学徒出陣号は、1950年代の「童話伝統批判」の遠い源かもしれない。心象風景を描く詩的な「童話」が批判され、社会のなかの子どもを描く散文的な「現代児童文学」へと転換していく。敗戦後には多くの児童雑誌も刊行された。
「現代児童文学」の特色ある領域の一つに「戦争児童文学」と言われる作品群がある。敗戦後すぐは戦争の記憶や体験をもとにした作品が多かったが、その後、虚構のなかで戦争が書かれたり、ファンタジー・SFの手法で描く作品も書かれた。展示では、『ヤン』(前川康男(まえかわ やすお))や『ぴぃちゃぁしゃん』(乙骨淑子(おっこつ よしこ))、『屋根裏の遠い旅』(那須正幹(なす まさもと))などの作品を紹介した。
また、戦前からの童話の系譜を考えると、展示した『ベロ出しチョンマ:斎藤隆介・創作童話集』(斎藤隆介(さいとう りゅうすけ))、『車のいろは空のいろ』(あまんきみこ)など、現代においても童話は決してなくなったわけではない。
戦後の特徴のもう一つとして、ファンタジーの概念が持ち込まれたことが挙げられる。『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる)をはじめ、数多のファンタジー作品を展示した。
1970年代後半、「性」や「死」や「離婚」といった問題が人間の本質に関わるテーマとして積極的に描かれるようになってくる。また、『かいけつゾロリ』シリーズ(原ゆたか)などのエンターテインメント作品も刊行された。展示の最後には、日本の児童文学に影響を与えた、海外の翻訳作品も紹介した。
日本児童文学の歴史を、戦後から80年にわたってたどっていく、歴史と懐かしさが含有される意義深い展示となった。

●関連講演会
(主催:大阪国際児童文学振興財団)
12月14日(日曜日)に多目的室で、講演と対談「日本児童文学 戦後80年」が行われた。
最初に宮川健郎さんが、「日本児童文学 戦後80年のあゆみ」を含む三つの児童文学史展に関わられた経験から、受け継いだ「鳥越史観」を「進歩史観」として見直し、どのようにしてそれを越えていくかについて述べられた。続いて作家・評論家の藤田のぼるさんが、児童文学史について、ご自身の児童文学との出会いや思い出と共に語られた。司会の土居安子さんを交えた対談では、海外児童文学について、古田足日さんの評論に関して、戦争体験のない子どもたちへ語る戦争児童文学について、児童文学のターニングポイントや未来についてなど、会場からのたくさんの質問に答えつつ、お話が盛り上がった。
講演「時代で変わるマンガのカタチ
~マンガの歴史を実物資料で体験してみよう!~」
12月6日(土曜日)、多目的室にて、マンガ研究者で京都国際マンガミュージアムの学芸室員である新美琢真(にいみ たくま)さんによる、近代マンガの歴史を解説する講演会を行い、22名の参加があった。新美さんは国際児童文学館の、令和7年度特別研究者でもある。
日本の近代マンガの歴史は幕末における西洋文化との邂逅から始まる。英国の雑誌社の特派員ワーグマンが横浜で漫画雑誌『The Japan Punch』を発行。その影響を受けて、明治7(1874)年には仮名垣魯文(かながき ろぶん)と河鍋暁斎(かわなべ きょうさい)が日本初の漫画雑誌『絵新聞日本地』を発刊した。3年後に登場した『團團珍聞』は金属活字、亜鉛凸版による精密な絵などを取り入れ人気となり、類似の雑誌が地方でも多数出された。何かが流行ると模倣作品が多数作られ、その中から新しい表現が生まれるというサイクルを、漫画の歴史は以降も繰り返していく。
新聞でも今泉一瓢(いまいずみ いっぴょう)が『時事新報』に米国留学の経験を活かした漫画を描き、コマ割りや騙し絵など、海外の多彩な漫画表現を紹介した。一瓢の後を引き継いだ北澤楽天(きたざわ らくてん)は常設の漫画欄を設け漫画の人気を高めた。他の新聞社も漫画を描ける人材を雇い入れることで「漫画家」という職業が出現する。
コマ割り漫画が人気となると、それらをまとめた子ども向けの本「明治ポンチ本」が生まれ、やがて赤本漫画へと繋がっていった。
明治34(1901)年に宮武外骨(みやたけ がいこつ)が創刊した『滑稽新聞』は人気を呼び、その4年後には北澤楽天が主筆となって『東京パック』が創刊された。誌面では若き日の川端竜子(かわばた りゅうし)や石井鶴三(いしい つるぞう)ら、日本の近代美術史に名を残す画家たちが活躍していた。これらのヒットには鉄道網の発達や、雑誌・書籍を安く送れる第三種郵便制度が整備されたことも見逃せない。
画家岡本太郎の父、岡本一平(おかもと いっぺい)は漫画漫文を新聞に発表して人気を得たが、次第に物語漫画の表現も開拓していった。また東京漫画会を結成し、漫画家たちの知名度を高めることで、その職業的な地位を文化人へと押し上げた。大正期に大流行した立川文庫は豪傑や英雄の小説を文庫サイズにしたものであるが、この内容を漫画に落とし込み人気を博したのが一平の弟子の宮尾しげをである。
大正12(1923)年の関東大震災は新聞の購読者を増やし、100万部を突破する新聞も現れた。そこに掲載されていた『正チャンの冒険』や『ノンキナトウサン』は大ヒットし、新聞に4コマ漫画が定着する。読者獲得のため漫画を付録につける新聞も登場した。被災した出版社が始めた円本でも岡本一平の『一平全集』などが刊行され人気となった。
漫画投稿欄を設ける雑誌も増え、北澤楽天が主催した『時事漫画』には大量の投稿が来た。そうした若い漫画家志望者が集まり「新漫画家集団」を結成。集団で仕事を請けることで業界を席巻する。
大ヒットした田河水泡(たがわ すいほう)の『のらくろ』は、先進的なコマ割りを用いて漫画の読み方の基本を作った。のらくろの人気を受けて、赤本業者は漫画の出版に注力し、大量の子ども向けの漫画本が登場した。
日中戦争が始まると、紙が統制され、新聞や雑誌のページ数は減らされる。漫画家たちは生きる道を求めて軍や国の仕事を請け負い戦争に協力するが、戦後に責任を問われることはなかった。物がない中でも人々は娯楽を求め、カストリ雑誌や赤本漫画がよく売れ、その中から手塚治虫(てづか おさむ)が登場する。
※講義の後、講師が持参した資料現物約50点を実際に手に取って見る時間が設けられ、参加者は講師に質問をしながら興味深く見入っていた。
