本蔵-知る司書ぞ知る(137号)
更新日:2026年3月20日
本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。
2026年3月20日版
今月のトピック 【新着参考図書紹介(人文系)】
図書館では毎週のように、新しい資料がやってきます。当館では「大阪府立中央図書館資料収集方針」に沿って資料を収集していますが、この方針の中には(3)参考図書という項目があります。参考図書とは調べものに役立つ本のことです。主に事典・辞典などの「事実調査ができる資料」と、目録や索引などの「情報がどこにあるかを案内指示する資料」の2種類があります。 今回の本蔵では、この1~2年で新たに中央図書館人文系資料室にやってきた、個人的に「これええやん」と思った3冊の参考図書をご紹介します。
『歴史地理学事典』(歴史地理学会/編 丸善出版 2025.12)
「昔、○○という場所はどんなところだったか知りたい」という土地の歴史を調査される方は図書館にもよく来られています。「歴史地理学」はそうした調査の土台を支える学問ですので、今回この本を紹介することにしました。(土地の調査をするのはまた別の事典を使います)
この事典は歴史地理学の基礎知識や学史、今後の展望や課題などを述べています。構成は「中項目主義」です。この構成のいいところは、その分野の知識を固まりで読めること。例えば、12章「絵図・地図」の章には、歴史地理学が対象とする絵図・地図について28項目が立てられています。地図に関心のある方はこの章を読めば概観がつかめます。この「体系的・かつ一覧性のある形で知識を得られる」というのは、インターネット検索では得られない、事典ならではの利点です。
『日本奇術文献大事典』(河合勝/編著 東京堂出版 2024.8)
テレビやSNSで目にすることがよくある「手品」や「マジック」。そうしたものの「種明かし」をしている本など、「奇術」に関わる書籍や文献を一覧にし、解説しているのがこの『日本奇術文献大事典』です。
収録資料数は約3400種。江戸時代~令和にかけて日本国内で発行された資料を収録しています(2024年5月1日現在データ)。
内容は大きく「日本奇術文献図録」と「日本奇術文献目録」の2部に分かれています。前者は江戸~昭和20年代までの奇術文献が図版付きで解説されています(江戸時代にも様々な手品があったことを知ることができて面白い!) 後者は全収録資料の資料情報が一覧になっており、奇術文献を探せるツールになっています。
学術研究だけでなく、手品やマジックに興味を持つ方が読んでも面白いのではないでしょうか。
著者は他にも『日本奇術文化史』(日本奇術協会)や『日本奇術資料大事典』(東京堂出版)なども刊行されています。
『東京漫才師大系 新板 上・下』 (神保喜利彦/著 夜霧書林 2025.4)
大阪と言えば「上方漫才」の地ですが、漫才文化は「江戸漫才」「東京漫才」という形で、東京にももちろんありました。この資料は、大正末期~昭和40年代までにコンビ結成、活躍していた「江戸漫才」「東京漫才」の人々をまとめた人物事典です。著者は『東京漫才全史』(筑摩書房)も著している漫才研究家の方です。
排列は人名(芸名)五十音順。書籍や雑誌、新聞などの様々な典拠資料をもとに丁寧に調査された、その人物の経歴(生没年、出身地含む)、活躍が書かれています。下巻の巻末には付録として、戦前~昭和後期の当時に発行された、漫才師の名簿資料7種も収録。
漫才・お笑い関係の人物(特に戦前戦後あたり)は、なかなか資料がないことが多く、個人的にも調査の頼りにしている資料です。
今月の蔵出し
『かがくいひろしの世界』(ブロンズ新社 2023.6)
大阪府立中央図書館は、支援学校に出前おはなし会に行くことがあります。その担当者から、かがくいひろしさんの「だるまさん」シリーズをリクエストされたと聞きました。また、放課後等デイサービスで働いている人からも、「だるまさん」シリーズは人気だと聞きました。どうして、こんなに子どもたちをひきつけるのでしょうか?そのヒントになりそうな1冊をご紹介します。
作者のかがくいひろしさんは、特別支援学校の教員として28年、子どもたちと向き合ってこられたそうで、50歳で絵本作家としてデビューしてから54歳で早期退職(がんのため逝去された年でもあります)するまで、子ども一人一人にあわせた教材づくりをされてこられた姿が紹介されています。そんな「相手の反応を引き出す」ものへの探求が、「だるまさん」シリーズに盛り込まれているそうです。この本の「だるまさんが誕生するまで」では、絵本になるまでのキャラクタースケッチを見ることができます。「もっともっとだるまさん」では、未完の「だるまさん」が4つ紹介されています。また、絵本とは趣の異なるデッサン、立体作品、コラージュ、81冊にも及んだアイディアノートから紹介されている言葉など、かがくいひろしさんのいろんな面を見せてくれる1冊です。
絵本ができるまでの背景を知ってから、「だるまさん」シリーズを読むのはいかがでしょうか?
【コップポーン】
『どんぐり喰い』(エルス・ペルフロム著 野坂悦子訳 福音館書店 2021.11)
スペインの南、アンダルシア地方の町ヘレス・デ・ラ・フロンテーラの近くでは夏の夕暮れ時、干潮時の砂浜で競馬が開催されるそうです。観戦した友人の写真を見せてもらうと、夕焼けを背景に砂浜を走る馬の姿がとても美しくいつか訪れてみたいなと思いました。
今回紹介する本もアンダルシア地方のお話です。オランダを代表する児童文学作家エルス・ペルフロムがスペイン内戦終結から間もないアンダルシア地方を舞台に、スペイン人の夫の少年時代の話をもとに描いた作品です。オランダの優れた児童書に贈られる「金の石筆賞」を受賞しています。
8歳のクロ(本名はサンチャゴ)と家族は洞窟の家に住み、毎日の食べ物にも事欠く生活を送っています。長男のクロは学校をやめヤギ飼いや大工の手伝い、陶器の行商、オリーブ摘みなど様々な仕事をしながら家計を助けます。貧富の差は大きく地主や修道院は広大な土地を所有し、森には見張り番を置いて、薪を拾っている者を見つけるとオリーブ油につけた紙や布切れを、背負っている薪に投げこんで火をつけます。
クロは11歳で遠くの農家にヤギ飼いとして働きに出されますが、一睡も眠ることができず1週間で帰ってきたり、建築現場の下働きの給金のほとんどを欲しかった小鳥を何羽も買うことに使って父親にお仕置きをされるなど子供らしい行いもしながらたくましく成長していきます。生活の糧のための闇タバコ作りや砂金採りなど、当時の生活の様子がクロの目を通して生き生きと語られます。
少年クロの家族への愛情のこもった眼差し、近所の人々との交流、厳しい生活の中でも前向きに生きる人々の力強さを強く感じます。装丁と挿絵の版画も内容にとても合っています。
【雪丸】