本蔵-知る司書ぞ知る(134号)
本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。
2025年12月20日版
今月のトピック 【スープ】
12月22日は「スープの日」です(日本スープ協会が制定)。寒い冬には温かいスープが飲みたくなりますね。今回はそんなスープに関する本を紹介します。
『世界のスープ図鑑317:独自の組み合わせが楽しいご当地レシピ317』(佐藤政人/著 誠文堂新光社 2019.11)
世界各地のスープ317種類のレシピをスープの写真とともに紹介した本です。紹介されているスープは、食卓の主役になるものからデザートのようなものまでさまざま。写真から味を想像してみたり、実際に作ってみたりして世界のスープを楽しみましょう。
『スープの歴史(「食」の図書館)』(ジャネット・クラークソン/著 富永佐知子/訳 原書房 2014.7)
紀元前から現在に至るまでのスープの歴史や、人々を温め癒すスープの役割について書かれた本です。スープの逸話を集めた本書6章の「スープこぼれ話」では、ウミガメのスープが紹介されていたのですが、ウミガメを食べていた時代もあるのかと驚きました。また、巻末にはスープのレシピも収録されています。
『スプーンはスープの夢をみる:極上美味の61編』(早川茉莉/編 筑摩書房 2022.12)
スープにまつわるエッセイや物語を61編収録したアンソロジーです。なんと、ウミガメのスープの調理法が書かれた話もありました。忙しい一日のおわりに、あたたかいスープを飲みながらこの本を読めば、体も心もぽかぽかになること間違いなしです。
今月の蔵出し
『旅するタネたち:時空を超える植物の知恵(ヤマケイ文庫)』(多田多恵子著 山と渓谷社 2024.10)
お正月によく登場するナンテンや、子供たちに大人気のドングリの実寸大コレクションなど、カラー写真やイラスト満載で、あれもこれも楽しい本書。
巳年(へび年)も間もなく終わりの師走、干支にちなんで、冬でも緑の「蛇の髭(ジャノヒゲ)」のページを覗いてみると、根っこは漢方の「麦門冬」になると書いてあります。昨冬、咳止めが不足する中、人生で初めて「麦門冬湯」を処方された人が、「あっ、どうも。これまで存じ上げませんで、その節はお世話になりました。」なんて、つい心の中でご挨拶してしまったとか。
お礼なんぞ言われても、翌年芽生えて咲いて結実するための養分を、人間に奪われてしまったジャノヒゲのほうは、「貴様か!」なのか「ちゃんと栽培して断種しないならまあよし」なのか、こたえてくれるわけではないのですが。
巻末238ページには、「2008年5月に発刊されたNHK出版「身近な植物に発見!:種子たちの知恵」を再構成し、加筆修正のうえ、文庫化したものです」とあります。 今や、スマートフォンで写真を撮って画像検索すれば、AIが「この植物ですか?」と判定してくれる時代ですが、カラー写真にイラスト、ウィットに富んだ説明文で、動力不要の文庫本の魅力は、また別のもの。暖かい屋内で読むもよし、万全の防寒対策を整えて屋外で読むもよし、ちょっと覗いてみませんか。
【笑門来福】
『お父さんのクリスマスツリー』(鴨沢祐仁/著 架空社 2006.12)
鴨沢祐仁と言うと、「ビックリハウス」などのイラストレーターとしてのイメージの人が多いでしょうか。70-90年代にかけてポップでキュートな作品を描き、「かわいい文化」を作ってきた1人ですが、デビューは個性が強烈なマンガ雑誌「ガロ」。
「あの絵柄で?」と思いましたが、確かに初期の作品は粗削りながら尖っている『ガロ』のマンガでした。しかし、その世界はさながら稲垣足穂の『一千一秒物語』。鴨沢の作品は次第に洗練され、その懐かしさと目新しさと不思議が入り混じった世界を自由自在に表現していきます。「タルホよりタルホ」と称されるその漫画は、本人の遅筆と早すぎる死もあって5冊前後しか単行本もありません。もっと、もっと読みたかった…。
非常に寡作な鴨沢ですが、児童書の挿絵や子ども向けの物語も手掛けました。文章も彼自身で手掛けた子ども向けの物語が『お父さんのクリスマスツリー』です。
主人公の「ぼく」のお父さんは妙な服ばかり作る仕立て屋で、ちょっとした発明家。クリスマス前に作っているツリーはこうもり傘の骨組みに見えて、本当にツリーになるのかな?と、「ぼく」は思っています。そしてクリスマスの日、お父さんが緑色のモールを巻き付けるとー。
可愛らしい絵物語なのですが、見て欲しいのはやっぱり挿絵!1900年代前半から半ばくらいまでのイメージでしょうか?アルファベットの看板立ち並ぶ街や、大量生産には見えない人形やブリキのおもちゃ、足踏みミシンなどのレトロな小道具。その中に溶け込むロボット。ほとんど絵本のようなページ数の物語に、しっかり鴨沢ワールドが描かれています。
鴨沢が季節を作品にのぞかせる時、よくその空気感も表れています。このクリスマスの物語でも、描かれた冬の星空から冷たい空気が伝い出てきます。出来れば暖炉のそばで読んでほしい物語です。
【もちづき】