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本蔵-知る司書ぞ知る(124号)

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更新日:2025年2月20日

本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

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2025年2月20日版

今月のトピック 【みかん】

冬のマストアイテムと言えば、みかん。気軽に持ち運べていつでもどこでも食べられるみかんは、味も香りも良し、ビタミンC。みかん大好き。ということで、今月は身近なオールラウンダーみかんにまつわる本をご紹介します。

そのなかには…?(ちいさなかがくのとも 274号)』(荒井真紀/さく 福音館書店 2025.1)

そのものずばり、みかんの絵本です!みかん箱から始まり、そのなかには……とだんだんクロースアップしながらページが進みます。実家ではみかんを箱買いしてたこと、「皮をむく時はヘタから?オシリから?」議論してたこと、うす皮をむいて食べるのにハマっていたこと……、みかんとの日々を思い出さずにはいられません。

みかん』(なかがわりえこ/ぶん やまわきゆりこ/え  ブッキング  2008.4)

みかんの大好きなおばあさん(「きょうは これで 九つめです」え!!めちゃ食べてる!)が、みかんに入っていた種を庭に埋めて育てる話です。おばあさんは、みかんの木に「チチン プイ」と繰り返し唱えます。さて、みかんはどんなふうに実ると思いますか?ふふふ、ぜひ絵本を読んでみてください。

ミカンの味』(チョナムジュ/著 矢島暁子/訳 朝日新聞出版 2021.4)

4人の女子中学生が主人公の韓国の小説です。物語の後半あたりで、4人みんなで済州島へ旅行し、みかん狩りをします。自分で取ったみかんがとてもおいしくて「でもどうしてこんなにおいしいの?」と驚くソランに対する他の3人のリアクションが、遠慮がなくて心地よいです。私も友だちとみかん狩りに行きたくなりました。

今月の蔵出し

「大漢和辞典」の百年』(池澤正晃/編 大修館書店 2023.12)

見出しとなる漢字5万字以上、熟語53万語を収録する漢和辞典の金字塔、諸橋轍次著『大漢和辞典』。全13巻、語彙索引と補遺を加えて全15巻。当館でも漢字についての問合せを受けた際には必ずお世話になる、世界最大級の漢和辞典です。

この本は、著者・諸橋轍次と、学習参考書を出版していた小さな無名の版元にすぎなかった大修館書店の店主・鈴木一平、そしてかれらを取り巻く人びとが、この大辞典をいかにつくりあげたか、大修館書店で長く大漢和辞典に携わった編集者が綴った歴史です。

大正12年9月の関東大震災によって、東京の出版社、印刷・製本関連の出版産業が壊滅的な被害を受ける中、神田にあった大修館書店ではそのとき店にいた一平の妻・ときの機転によって、店にあった紙型を運び出せるだけ運び出して守ったことで、震災後いち早く活動を再開し、事業の基礎を築きました。

「出版は天下の公器」であると考えていた当時37歳の鈴木は、このあと念願の辞典出版を計画し、紹介を受けて、東京高等師範学校や大東文化学院で漢学の教鞭をとっていた当時42歳の諸橋に漢和辞典の編纂を依頼します。なかなか首を縦にふらなかった諸橋ですが、かねてから充実した漢和辞典の必要性を痛感しており、鈴木の一年半に及ぶ懇請をうけて、ついに昭和3年9月、大修館書店との間に漢和辞典編纂の出版契約を取り交わしました。鈴木は当初、中規模の1冊ものの辞典を考えていたようですが、諸橋は、漢字を網羅してその文字の解釈をするだけでなく、広範な用例を採録し、事典の要素を取り入れた辞典を構想します。完成までに何年かかるか、どれだけの編集費がかかるか見当がつかないなか、鈴木はこれを一生の事業に定め、「完全な大辞典」をつくることを諸橋に頼んだそうです。

こうしてはじまった編纂作業は、膨大なカードをもとに原稿作成が進められ、鈴木も大量の活字の作成、校正などふくれあがる費用に耐え抜いて、昭和18年、ようやく第1巻の刊行にこぎつけました。ところが、第2巻の校了を目前にした昭和20年2月、東京を襲った空襲により工場が被災、原版の一切を焼失するという事態を迎えるのでした。

筆者は、戦後のこの辞典のあゆみを、3部残った校正原稿をもとに、自身の失明、長年自身を支えた妻の死去といった出来事を乗り越えながら再起をかけた諸橋、そして一生の仕事としてやりぬいた鈴木の姿を、淡々と事実を記述する中に描き出します。

この2人に加え、編集や校正の協力者や、戦後、写真植字の原字として5万字弱の細明朝体の文字を7年以上をかけて独力で書き上げた石井茂吉など、印刷、製本等、辞典の刊行を支えた多くの関係者の姿も描かれ、製作過程の多くの写真とともに、辞書製作の実際を知ることができる貴重な記録となっています。「いっすんのはば」(一寸ノ巾)から始まる、漢字の扁(へん)や旁(つくり)の配列のごろ合わせなどの逸話も興味深いです。

戦後、昭和30年に写真植字による第1巻が刊行され、昭和35年「索引」の刊行をもって、初版全13巻が完結します。37歳のときに諸橋と辞典編纂の交渉をはじめた鈴木は、このとき72歳となっていました。第15巻目となる「補遺」が刊行され、編纂が完結したのは平成12年のことです。

当館では、戦前、昭和18年に刊行された第1巻をはじめ、大漢和辞典の各版を見ることができます。

諸橋の伝記には『諸橋轍次博士の生涯』が、また、鈴木と諸橋の辞書づくりにかけた生涯を描いた児童書『ことばの海へ雲にのって 大漢和辞典をつくった諸橋轍次と鈴木一平』もありますので、ご興味がおありの方はあわせてご覧ください。

【M】

JAZZ健康法入門』(寺島靖国/著 音楽之友社 2024.4)

今から20年以上も前の話です。ジャズ音楽の勉強をもっとしたいと思い始めた当時、この著者の『聴かずに死ねるか!JAZZこの一曲』に偶然出会いました。CDを購入するときや梅田のライブハウスに行くときに、ずいぶん参考にさせてもらったものです。あれから長い年月が経ち、今度は年齢的にも健康に高い関心を持ち始めた頃に出会ったのが、今回ご紹介する『JAZZ健康法入門』です。

はじめタイトルを目にしたときは「音楽に合わせてこんな体操を」といった健康メソッドの本なのかなと思いました。けれども、読んでみると「健康の話題と関連付けたジャズの読み物」という印象に変わりました。例えば、年を重ねるうちに高音部が聴き取りにくくなった著者が足のトレーニングをしたら改善されたというエピソードや、「女性ヴォーカルとスクワット」には、スクワットという運動に加え、そのゆっくりとした動作をする際に合わせる音楽について書かれています。また、「元気の出るこの20枚、20曲」と題した曲の紹介などもあって、話題もヴァラエティに富んでいます。そして各章の終わりにはジャズのアルバムが紹介されており、アルバムの特徴が凝縮された一文が添えられていて、ジャズにあまり関心がなかった人にも分かりやすい構成になっています。

読書も音楽鑑賞も好みは人それぞれ。誰もが共感する選書・選曲というのはなかなかないものです。ただ、この本ではメジャーな作品も多く取り上げられており、ジャズ初心者にも親しみやすいように感じました。また、音楽雑誌『レコード芸術』(音楽之友社 ※2023年7月号にて休刊)の連載記事を一冊にまとめられているということもあり、一話完結型で読みやすくなっています。まだまだ寒いこの季節、『カインド・オブ・ブルー』(マイルス・デイヴィス)や『アンダーカレント』(ビル・エヴァンス&ジム・ホール)などジャズの名盤を聴きながら、読書とお茶を愉しむ至福の時間なんていかがでしょうか。

                                                                        【巳年のはるごん】

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