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本蔵-知る司書ぞ知る(123号)

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本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

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2025年1月20日版

今月のトピック 【蛇】

あけましておめでとうございます。2025年はへび年ですね。皆さんは、蛇というとどんなイメージがありますか?日本では古代から蛇の信仰が伝わり、昔話や伝説にも多く登場します。今回はそんな蛇にまつわる本を3冊紹介します。

日本ヘビ類大全:日本で見られる種を完全網羅 分類から生態、文化まで、美しい写真で紹介』(田原義太慶[ほか]/著 誠文堂新光社 2024.4)

日本に生息するヘビ類全43種と亜種4種が、鮮やかな写真とともに詳しく解説されています。捕食や孵化などの貴重な瞬間を捉えたフィールド写真も豊富で、ビジュアル面でも楽しめます。日本のヘビ類に特化した図鑑は、新しいものはほとんど出版されていないそうです。戦前戦中の図鑑として『日本蛇類大観』『日本蛇類図譜』などが紹介されています(p.147)。古い図鑑と新しい図鑑を見比べてみるのも面白いかもしれません。

蛇のファッション考』(堀江珠喜/著 アートダイジェスト 2012.7)

アダムとイブを唆した蛇、蛇を踏む聖母マリア、クレオパトラを毒殺した蛇、メドゥーサなど、「蛇」のモチーフは、絵画や彫刻などの美術品として創作され続けてきました。近年では、蛇をかたどったアクセサリーや、パイソン柄(ニシキヘビ柄)のバッグやドレスなど、ファッションとしても取り入れられています。蛇に対して人は、神秘的、エロティック、グロテスクなど様々なイメージを抱いてきました。古今東西の美術品や装飾品、小説や伝説など多くの事例を引きながら蛇のイメージに迫ります。

蛇を踏む』(川上弘美/著 文芸春秋 1996.9)

表題作「蛇を踏む」は第115回芥川賞受賞作品です。公園の藪で踏んでしまった蛇が、「踏まれたので仕方ありません」と言って、五十歳くらいの女性に姿を変え、家に居ついてしまいます。蛇は主人公の母親を名乗り、料理を作り、夜になると蛇の姿になって眠ります。勤め先の数珠屋さんの奥さんや、お寺の住職など、蛇と暮らしている人は他にもいるようです。そのうちに蛇は、主人公にまとわりつき、「蛇の世界」に来るように何度も誘うようになります。本書では「蛇を踏む」の他に、「消える」「惜夜記」を収録しています。

今月の蔵出し

老舗饅頭:創業百年以上』 (『サライ』編集部/編 本多由紀子/編 小学館 1995.8)

全国9千万の饅頭LOVER(以下、饅ラバと略)の皆様、はじめまして。饅ラバの皆様におかれましては、孔子に悟道、釈迦に説法だが、饅頭ほど多くの人に愛されている和菓子はないだろう。ある時には「伽羅先代萩」のように毒殺の道具となり、ある時は落語で怖がられ、またある時には本の種類を表す名称(饅頭本ってご存じかしら?)となり、粘菌や魚やカニの名前、シクラメンの和名にもなって、さらには茶漬けにする文豪まで登場すれば、いわずもなか、いや、いわずもがなである。

そんな和菓子界隈の首領「饅頭」であるが、図書館界は冷遇極まりない。本の「分類」を示している『日本十進分類表(新訂10版)』の相関索引には饅頭の項目はなく、饅頭は和菓子を見よとの参照もない。一方、中身の「餡」は分類名になっており、凛々しく独立を果たしている。おそらく、第11版改訂までには全国各地で、饅頭分類名独立戦争が勃発し、新図書館戦争として繰り広げられること間違いない。続編いかがでしょうか、有川先生。敵軍の名称は暗黒う軍団、図書館のまん自由宣言を死守し、対決の武器は拳銃(茶菓)でお願いしま…。

さて、大阪府立中央図書館のホームページでも饅頭は数多く掲載しており、レファレンスリーフレット「饅頭の神様について知りたい」や、おおさかeコレクションの人魚洞文庫に「饅頭喰人形」がある。「饅頭喰人形」とは、幼児に「お父さんとお母さんどっちが好き?」と問いかけたところ、手にした饅頭を二つに割って「この饅頭、どちらがおいしい?」と問い返したという逸話をもとにして作られた人形だ。いや、それなら「喰」じゃなく、饅頭「割」人形だろうという無粋なことは置いておこう。さらに、中之島図書館所蔵『保古帖』には60以上の和菓子店の引札、切手等が貼り交ぜられ、その中には饅頭に関するものも多い。とある広告には「孔明は饅頭の本家にして」という言葉も見える(182コマ目)(次に紹介する本でも簡単に触れているが、長くなるので割愛する)。

本題、『老舗饅頭:創業百年以上』 は、そのサブタイトルの通り、創業百年続く老舗を集めた本。数多ある饅頭を扱う和菓子店舗、北海道から九州までの70か所超を選び、地元大阪からは釣鐘饅頭を掲載している。それぞれの饅頭の名前の由来、夏目漱石や北大路魯山人、吉田茂など有名人との関わりなど、多彩なサイドストーリーと共に認められています。掲載のお店を訪れることを旅の計画に入れるだけで、その日の期待度がグンと上がること間違いなし。出版からやや時間を経ているが、カラー写真をふんだんに使った魅力的な本である。ただし、老舗というフレームでまとめられているので、備中高松城近くの「水攻饅頭」など、個性豊かな面々は収録されていない部分はやむなしというところ。同シリーズのshotor libraryには、『老舗煎餅:創業百年以上』、『日本一の団子』がある。「煎ラバ」や「団ラバ」でなくとも楽しめますので、是非ご覧あれ。

 【本好きの下ノ上:認定司書になるためには手段を…改め、ちがうよ、リーマン面はサラリーマン気取りではないよ】

災害とたたかう大名たち』(藤田達生/著 KADOKAWA 2021.4)

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から今年で30年。関東大震災(1923年)以来の人口密集地で起こった大災害の中、一時に大量の避難民が押し寄せた避難所の運営、物資の受け入れや分配などのノウハウがないままに、できることに必死で対処する自治体職員の姿が今期のNHK朝ドラ「おむすび」でも描かれていました。

今では災害時に国や自治体が災害対策や被災者の支援をすることは当たり前と考えられていますが、現代的な自治体がなかった江戸時代、地方における災害への対応はどのように行われていたのでしょうか。本書は伊勢・伊賀など三十二万石を領有した外様の大藩・藤堂藩に残された江戸時代前期の火事関係史料や幕末の安政伊賀地震関係史料などの記録を読み解き、その事例を中心に、他藩の事例にも言及しつつ、江戸期の諸藩による災害対策を解説しています。 

阪神・淡路大震災以降、日本では繰り返し大地震が起こり、台風や水害などの災害も増加していますが、江戸時代もまた絶え間なく災害に襲われた時代でした。武士による支配の正当性を主張し、領民を安定的に支配するために、災害から領地や領民を守ることで領民との信頼関係を築くことが必要不可欠だと武士たちは考えていました。藤堂藩では江戸時代前期から被災者の仮住居や食料の面倒を見たり、焼失した家屋の再建に取り組んだりしています。幕末の地震の際には、藩庫を傾けながらもお金や食料を領民に与え、施餓鬼という死者を弔う儀式まで行っています。

災害の増加に藩の財政が傾く中、幕府もまた度重なる災害に疲弊し、諸藩は幕府からの援助を期待できなくなっていきます。それぞれが生き延びるために幕府からの自立を模索した結果、幕末の雄藩が生まれ、幕藩体制の終焉という歴史の転換点を迎えたという説は説得力があります。

タイトルから受ける印象よりも学術書寄りで難しいところもありますが、現在へと続く、「行政による災害対策や危機管理」という考えは、江戸時代にその萌芽があったことがわかる1冊です。

【御書物方同心】

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