本蔵-知る司書ぞ知る(122号)
更新日:2024年12月20日
本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。
2024年12月20日版
今月のトピック 【掃除】
あと少しで2024年もおしまい。2025年がやってきます。突然ですが大掃除は終わりましたか?掃除は常に行っているはずなのに年末になると本腰を入れねばという気持ちになりますね。今回はそんな掃除にまつわる本を3冊紹介します。
『掃除道具(ものと人間の文化史)』(小泉和子/著 渡辺由美子/著 法政大学出版局 2020.5)
次々と便利な道具が発明される現代。様々な道具が便利になってきたように掃除用具も変化してきました。古代から現代までの掃除がどのような意味と役割を持っていたか、箒の名称や分類などについて紹介されています。箒にはこんなに種類があったのか!と驚くこと間違いなしの1冊です。
『重曹+酢でおばあちゃんの節約ワザエコ掃除:逆引きだからすぐに使える!』(泉書房編集部/編 泉書房 2008.12)
掃除するなら綺麗にしたい!けれど各汚れに特化した洗剤を買うのは面倒……。そんな時は重曹で掃除してみるのはいかがでしょうか?
逆引きで調べることができるので、「コーヒーのシミをとる」際の掃除のポイントなど様々な場合の掃除の仕方を調べることができます。
『ごみの百科事典』(小島紀徳/編集委員 島田荘平/編集委員 田村昌三/編集委員 似田貝香門/編集委員 寄本勝美/編集委員 丸善 2003.9)
掃除すると出てくるものといえば、「ごみ」です。「ごみ」といってもどこまでを指すのでしょうか?この本では、ごみの定義から歴史、世界のごみ事情までを紹介した総論編と用語辞典としての各論編に分かれて、ごみに関する事柄が紹介されています。生きていく上でどうしても発生するごみに関して知ることができます。
今月の蔵出し
『古典がおいしい!平安時代のスイーツ』(前川佳代/著 宍戸香美/著 かもがわ出版 2021.9)
2024年、平安時代に思いを馳せた方も多かったのではないでしょうか。平安貴族の暮らしを想像するなかで、どんなものを食べていたのか気になった方もいたかもしれません。この本は、甘いものに目がない方にぜひおすすめしたい本です。
いくつかあるおすすめポイントの一つめは、写真やイラストが満載なところ。ぱらぱらとページをめくるだけでも興味を惹かれる箇所があって、つい読んでしまいます。
二つめは、現代でも手に入る材料で当時のお菓子を再現しているので、平安時代を身近に感じることができるところです。たとえば、『枕草子』の「あてなるもの」、高貴で上品なものを列記する項では、かき氷が次のように紹介されています。
「削り氷(ひ)に甘葛(あまづら)入れて、あたらしき鋺(かなまり)に入れたる」。
平安時代のかき氷にかけられたシロップは、ツタから作る「甘葛煎(あまづらせん)」というものでしたが、著者は実際に作ってみて、どれほど大変な作業か実感したそうです。この工程については、『甘葛煎再現プロジェクト:よみがえる古代の甘味料』(山辺規子/編著 かもがわ出版 2018.3)に詳しく書かれています。直径2cm長さ1mのツタから平均12ccしか採れないこと、真冬の採取、採液の作業の厳しさから、どれほど大変か伝わってきます。一口でも食べてみたいという気持ちがわいてきたら、作ってみましょう。あまづら風シロップとして、水、グラニュー糖、三温糖で作ることができるレシピが紹介されています。
季節外れなかき氷を例に挙げましたが、『源氏物語』の「つばきもち」や、『今昔物語集』の「いもがゆ」など冬にぴったりのスイーツもありますので、安心してください。
何から作ろうかなと考えるのも楽しいものですし、気になるお菓子の載っている古典文学を読んでみるのもいいかもしれません。読み終わる頃には、心もおなかも満たされる一冊です。
【薄荷】
『ちいさいおうち(岩波の子どもの本 6)』(バージニア・バートン/おはなしとえ 岩波書店 1977)
「むかしむかし、ずっと いなかの しずかなところに ちいさいおうちが ありました。」と始まる、「ちいさいおうち」の物語です。四季や自然の豊かさに包まれ、その移り変わりを楽しみながら、子どもたちの成長を同じ場所でじっと見守っている「ちいさいおうち」。時には、遠くの町の灯を見て、町で暮らすとどんな気持ちがするのだろうと思いをはせてみます。絵本のページを彩る、季節の鳥や花の絵、そして、流れるように配置された文字が、「おうち」の周りの時間の流れや、あたたかく優しい空気を、読む側に伝えてくれます。
そんな「ちいさいおうち」の建っている「ずっと いなかの しずかなところ」にも、近代化の波が押し寄せてきます。「おうち」のいるところは、「もう いつはるがきて、なつがきたのか、いつが あきで、いつが ふゆなのか」わからない都会へと変わってしまいました。住む人もいなくなり、誰にもかえりみられなくなった寂しさに耐える「ちいさいおうち」。都市化によって人々の生活は便利に、豊かになりましたが、「おうち」にとって、都会は幸せな場所ではありませんでした。でも、「おうち」は、ひたすらその場所で「ちいさいおうち」であり続けます。
1942年に出版され、アメリカで最も権威のある児童書の賞コールデコット賞も受賞しているロングセラーの名作絵本です。実は、私は大人になってから、友人にプレゼントされてこの本を知りました。子どものときに読んでいたら、この本から何を感じただろう、そして大人になった今はどんなふうに感じ方が変わっただろう―と、この本から受け取る気持ちの変化を感じられないことに、ほんの少し残念な気がしています。
【No place like home】