本蔵-知る司書ぞ知る(121号)
更新日:2024年11月20日
本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。
2024年11月20日版
今月のトピック 【お茶の時間】
温かいお茶がおいしい季節になりました。ゆっくりとお茶を味わい楽しむ時間は心とからだの疲れを癒し、日常に彩りを添えてくれます。今月はそんなお茶の時間がもっと楽しくなるような本を3冊ご紹介します。
『世界のティータイムの歴史:ヴィジュアル版』(ヘレン・サベリ/著 村山美雪/訳 原書房 2021.11)
絵画や文献に描かれたお茶会をもとにその歴史をたどり、アフタヌーンティーから飲茶や茶の湯まで、世界の茶文化を綴ります。ピクニックティー、ティーガーデン、ティーダンス…さまざまな場面でお茶が楽しまれています。巻末にインドで人気のマサラ・チャイや、ハイティー(夕食を兼ねたティータイム)のごちそうウェルシュ・ラビットなどのレシピがあり、実際に作ってみたくなりました。
『菓子珊珊:茶人が選ぶお菓子と器』(山下惠光/著 平凡社 2019.3)
お茶の時間に欠かせないお菓子。本書では表千家の家元教授が、山形のからからせんべいや福岡の鶴乃子などの日本各地の銘菓と、それらに合わせた器を紹介しています。大正15年に誕生したゴルフボール形の最中・ホールインワンは、ウニの殻で作った菓子器が合わせられています。お菓子、器ともにインパクトがあり、一つのアート作品のようです。
『美しい建築の写真集 喫茶編』(沖本明/写真 西郡友典/写真 古瀬桂/写真 鈴木竜典/写真 平山賢/写真 竹内厚/文 パイインターナショナル 2016.1)
明治から昭和に建てられた名建築の喫茶店、ホテルラウンジなど31軒を紹介した本です。熱海の旧旅館・起雲閣は和洋の館が共存する見ごたえのある建物。その喫茶室「やすらぎ」はアールデコ調の美しい内装、ガラス戸の外に1000坪の日本庭園と贅沢な空間です。残念ながら閉店したお店もありますが、本書にあるような空間でのお茶の時間はより特別に感じられそうです。
今月の蔵出し
『みんなの都市:初心者のための都市計画マニュアル』(オサム・オカムラ/著 ダヴィッド・ベーム/イラスト イジー・フランタ/イラスト 坂牛卓/訳 邉見浩久/訳 鹿島出版会 2024.6)
最近の趣味はサイクリング。数年前に縁あって大阪市内の下町から大阪府北部に転居した後は、千里ニュータウン周辺が主なサイクリングコースです。のんびり自転車を漕ぎながら、オッこんな近道があったのか、などと日々発見があり、たいしてお金もかからないし運動にもなっている気がするし、案外続いております。
それにしてもこの千里ニュータウン、それまで住んでいた大阪市内の下町の街並みとの違いには驚きました。戸建・集合住宅が整然と居並び、幹線道路は公園や緑地により歩行者と分離。着工から60年以上が経過した今でも、まさに計画都市といった景観です。
1950年代に日本初の大規模ニュータウン構想として計画された千里ニュータウンは、それまでの日本の都市が抱えていた諸問題を解決すべく、当時の都市計画の英知が集められ、欧米のニュータウンの先進事例がふんだんに取り入れられたといいます。
そんな「理想の街」を巡りつつ、大阪市内の下町の雰囲気がふと恋しくなります。路上駐車やせり出した商店、それを避けながら狭い歩道をはみ出す多くの歩行者、そのぎりぎりを駆け抜ける車…そんな雑然とした街並みは、解決すべき都市問題なのか?活気溢れる賑わいではないのか?
そんな私の小さな葛藤はとっくに専門家らが大いに議論を重ねておりました。ちょっと前置きが長くなり恐縮ですが、そんな経緯を知るにはもってこいの本が、当館にはたくさんあります。
例えば掲題の本は、プラハで活躍する建築家による、都市の諸問題をわかりやすく紹介する本。世界中の諸都市の事例なども随所に盛り込み、ポップな図版やフォントがカッコいい。他にも、衛生的でモダンな都市計画を提起し、世界中の都市計画に大きな影響を与えた大家ル・コルビュジエによる『輝ける都市』、そのル・コルビュジエを名指しで批判し、多様性や複雑性こそが都市の魅力だと説くジェイン・ジェイコブズ『アメリカ大都市の死と生』、千里ニュータウン開発にも大いに取り入れられているクラレンス・ペリー『近隣住区論』、などなど。
ほほう、この路地が例のラドバーン・システムか!などとツウぶりながらのサイクリング、オススメです。
【T】
『漢文ノート:文学のありかを探る』(齋藤希史/著 東京大学出版会 2021.10)
「漢文ノート」というタイトルから、難しい本かな?勉強のための本かな?と思ったとしたら、大間違い!
読みやすくおもしろい、24篇の漢文にまつわるエピソードがつまったエッセイ集です。
春夏秋冬の順に並んでいるので、今の季節の所から読むのもおすすめです。
たとえば秋だと、「満目黄雲」「菊花の精」「隠者の琴」など、興味を引かれるタイトルが並びますが、ここでは図書館と秋にふさわしい「読書の秋」というエッセイを見てみましょう。
このエッセイでは、「読書の秋」と言われるようになった由来をもとめて、韓愈の詩「符 書を城南に読む」を鑑賞します。詩のなかの一節にある、「時 秋にして積雨霽れ、新涼 郊墟に入る。燈火 稍親しむ可く、簡編 巻舒す可し。」(時節は秋となり長雨も晴れ、新しい涼気が郊外の村にやってきた。夜のともしびとともに過ごす時間も増え、書物を繙くのにもふさわしい。)というくだりは有名です。
他にも「読書の秋」の由来として、レファレンス協同データベースに挙げられている「読書週間が秋に実施されるため「読書の秋」が定着したのではないか」という調査を取り上げ、さらに明治大正期の雑誌から、「読書の秋来る」という文章を見つけます。
最後には、「符 書を城南に読む」の詩が日本や朝鮮半島で親しまれるようになったきっかけである、漢文の入門的アンソロジー『古文真宝』を紹介しています。
著者の知的好奇心のおもむくままに紡がれる文章を追ううちに、知らぬ間に中国文学の幅の広さと、古代中国から日本へと時代を超えて連綿と繋がっている漢文脈の奥深い世界に引き込まれていきます。秋の夜のともしびの下で読むのにぴったりの一冊です。
【隠者】