本蔵-知る司書ぞ知る(141号)
本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。
2026年7月20日版
今月のトピック 【飛鳥・藤原】
奈良県の飛鳥(あすか)を訪ねたことはありますか。大阪府にお住まいの方は小学校の遠足などで行かれたという方も多いのではないでしょうか。
「飛鳥・藤原の宮都」(奈良県)は先月のイコモス(国際記念物遺跡会議)により世界遺産リストへの記載が適当との勧告が出され、この7月に韓国・釜山で開かれる世界遺産委員会(7月19日~29日)で世界遺産リストへの登録の可否が決定します。
今月は飛鳥・藤原宮にまつわる本を3冊ご紹介します。
『藤原京:よみがえる日本最初の都城(中公新書 1681)』(木下正史/著 中央公論新社 2003.1)
藤原京はおよそ1300年前、16年足らずの短命な都でしたが、日本古代史上、画期的で重要な様々な改革が行われた時代でした。中国や朝鮮半島諸国の先進的な文物・制度を取り入れ、この時代に確立した法秩序や国家の枠組み、生活習慣は現在の私たちの社会・生活の出発点ともなっています。その実像が20年余の発掘調査によって明らかにされます。
『飛鳥・藤原の歴史と遺産:宮都の建設と生活』(上・下)』(木下正史/著 吉川弘文館 2025.2)
飛鳥・藤原京の時代は、588年に最初の本格的寺院・飛鳥寺(後の元興寺)の造営を始めてから、710年に平城京へ遷都するまでの約120年間です。「倭国」の呼び名から対外的に「日本国」という国号を名のるようになり、国家仏教や国家的祭祀の整備、貨幣の鋳造(富本銭)、土木技術の制度や技術革新等(条坊制や初の瓦葺礎石建物等)が進められました。飛鳥文化の形成と渡来人、飛鳥・藤原京の都市生活、寺院、陵墓と古墳壁画についても解説、50年以上にわたる継続的な発掘・研究成果をもとに遺跡群の価値を発信します。
『飛鳥|藤原』(石川直樹/著 夕書房 2025.3)
写真家・石川直樹さんが、2年間にわたって現地に通い、飛鳥・藤原地域の遺跡や祭祀、人々の営みを撮り下ろした写真集です。巻末に写真の説明があります(日本語・英語併記)。遺跡や風景、石造物の写真を見ていると古代への想像が広がります。
今月の蔵出し
『海辺の恋と日本人:ひと夏の物語と近代 (青弓社ライブラリー77)』(瀬崎圭二/著 青弓社 2013.8)
ひと夏の恋に憧れた時代もありました。
今日は海の日。夏になると、海辺を舞台にした恋愛小説や映画を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。海辺にはどこか心をひきつけるものがあります。
この本は、明治時代の海水浴の広がりから、文学、映画、若者文化までをたどりながら、「海辺での出会い」や「ひと夏の恋」のイメージがどのように生まれたのかを探っています。
取り上げられているどの海の場面も興味深いのですが、特に高校生の頃読んだ、山田詠美の「Crystal Silence」(『放課後の音符』所収)に、当時の思い出が色々とよみがえり、懐かしさで胸がいっぱいになりました。
あの時憧れた大人とは程遠い人生を送っていますが、それもまたいいのでしょう。 イメージにも歴史があること、また、文化の面白さを感じました。
夏の読書におすすめの1冊です。
【ラッコ】
『安吾探偵控』(野崎六助/著 東京創元社 2003.9)
警察小説、探偵小説、安楽椅子探偵、コージーミステリー、イヤミス…切り口で無限に広がるミステリーのジャンルの中でも、歴史上実在の人物が探偵役をつとめ、様々な「謎」を解くミステリーが大好物です。長年、読むたびにコツコツと記録して、とうとう数年前に「あのひとは名探偵!?」と銘打って資料展示をすることができました。リストは今なお増殖中で、いつかまた第2弾をやりたいと野望を抱いています。
さて、本書はそんなミステリーのひとつで、探偵役は無頼派の作家・坂口安吾です。時は昭和12年。女流作家・矢田津世子との恋に破れ、恩人・牧野信一の死に傷ついた安吾が、矢田との恋愛をモチーフにした『吹雪物語』を執筆するため、京都の伏見稲荷近くに逗留していた時期が舞台です。執筆が進まず碁に明け暮れる安吾は、鉄管小僧と呼ばれる少年とともに下宿先の家出した娘を探す内に、酒どころ・伏見にある小さな酒造会社の婿養子が密室で殺害された事件に出会います。「お家さん」と呼ばれる寝たきりの老女と三人姉妹が暮らす女系一族の旧家、往路しか残されていない雪上の足跡、凶行前に目撃された片腕の男…。戦争の足音が聞こえ始める不穏な時代の空気を纏った殺人事件に挑む安吾の姿を、老人になった鉄管小僧が、伏見の酒の取材に来た探偵小説家に語る形で展開していきます。
本書を含め、昭和20年空襲に見舞われる東京で起こった連続殺人事件を描いた『イノチガケ』、坂口安吾が犯人と疑われ、少年たちが真犯人を探す『オモチャ箱』の全3冊シリーズ。3作ともタイトルは、『明治開化安吾捕物帖』、『イノチガケ』、『オモチャ箱』という安吾の作品に由来します。安吾自身の著作『復員殺人事件』や『不連続殺人事件』の登場人物、安吾の人生の逸話も盛り込まれ、どこまでがフィクションで、どこからが史実なのかなど考えるのも楽しい作品です。
このシリーズを読み終わったら、小説、評論、随筆と幅広いジャンルの作品を残した安吾作品に手を出すのもよし、安吾のひととなりを知っていくのもよし、あるいは安吾が描いた人物に手を広げて読書するのもよいかもしれません。ちなみに、安吾が逗留した伏見稲荷の下宿は、現存する模様。そこに聖地巡礼もありかも。
1冊の本をきっかけに、好奇心の赴くまま、本の世界にでかけてみませんか?
【御書物方同心】