大阪府立中之島図書館だより「なにわづ」 No.159
更新日:2026年1月20日



【古代の難波では国際貿易が行われた】
栄原(さかえはら) 永遠男(とわお)
正倉院宝物のなかでも「鳥(とり)毛(げ)立女(りつじょ)屏風(びょうぶ)」の人気は高く、正倉院展に出展されると、そこに描かれた「樹(じゅ)下(か)美(び)人(じん)図(ず)」を求めて多くの人が見学に押し寄せる。しかし、6面のうち5面に下(した)貼(ばり)文(もん)書(じょ)が貼られていたことを知る人はそれほど多くはない。それは江戸時代の修理のときに発見され、現在約30点程度の存在が知られている。実はこの下貼文書は、古代の難波を考えるうえで、きわめて重要な意味を持っているのである。
この下貼文書は、購入したい「新羅物」つまり新羅の品物の品目・数量と、それに支払う予定の代価(真綿や絹糸)を記したものである。そこで「買(ばい)新(しら)羅(ぎ)物(ぶつ)解(げ)」と総称されている。「新羅物」の内容は後述するとして、貴重なものであるので皆が欲しがるが、数が限られているので競争になる。それを調整するために入札が行われたであろう。「買新羅物解」は、その申込書と推測される。
入札が済むと不要になった「買新羅物解」は、再利用するために払い下げられた。それを内(ない)匠(しょう)寮(りょう)という役所が入手して、ちょうどその時制作していた「鳥毛立女屏風」の下貼文書として利用したのである。その「鳥毛立女屏風」が現在まで残り、修理の時にはがされた「買新羅物解」も廃棄されずに保存されてきた。まさに偶然の連鎖によって、現在のわれわれは「買新羅物解」を見ることができるのである。
では「新羅物」は、どうして日本にもたらされたのだろうか。八世紀なかごろの天平勝宝4年(752)に、新羅王子をトップとする総勢700余人の大使節団が九州に到着した。その中に、珍しい品物を持参した新羅商人たちが混じっていた。現在の天満橋から難波橋にかけての大川付近は「新羅江」と呼ばれていたから、新羅商人たちはその付近に滞在していたのであろう。使節団の約半数が難波まで進むことを許され、そのさらに一部が平城京に入り孝(こう)謙(けん)天皇に謁見した。謁見が済むと「新羅物」の入札・売買がさっそく実施され「買新羅物解」が提出されたのである。
どのようなものが売買されたか、またその産地は、まことに興味深い。東野治之氏の研究によって二三あげると、薫(くん)陸(りく)香(こう)という香料はアラビア南部・東アフリカ産、丁(ちょう)子(じ)はモルッカ諸島産、薬物の畢(ひつ)抜(ばつ)はペルシア産、顔料の臙脂は東南アジアからインド産であるという。もちろん中国産・新羅産もある。要するに世界中の珍奇な品物が新羅商人によって難波に運ばれてきたのである。
新羅商人たちが遠くアフリカやアラビア半島にまで行ったとは考えにくい。それぞれの地域では、アラビア商人・インド商人・中国商人たちが活動していた。彼らはこれらの物品を中(なか)継(つぎ)貿易で次々と売り渡し、最終的に新羅商人が入手して日本にもたらしたのであろう。「買新羅物解」が示しているのは、アフリカからインド、東南アジア、中国、朝鮮半島をへて日本の難波まで連綿と連なる世界貿易の壮大なネットワークであった。古代の難波は、このネットワークの東端に位置していたのである。
大阪市立大学名誉教授
◆令和6年度新収資料紹介 <大阪資料・古典籍課>
令和6年度中に収集した大阪にゆかりのある和古書・既刊書の一部をご紹介します。
※【 】内は当館の請求記号です。
『文殊四郎染付暖簾』 7冊【781/12】
堺は、いろいろなものの始まりの地ですが、名産の包丁もその一つです。そんな堺の包丁の由来について書かれた資料で、元禄期ころに刀鍛冶だった文殊四郎によって料理包丁がつくられるようになった、とされています。


『舩史王後首墓誌考証』(藤原貞幹 天明8 1796)【甲和/1336】
江戸時代に、現在の柏原市付近で発見されたとされる飛鳥時代の官吏の墓誌について、その銘文を翻刻し、人物の系図などを考察したものです。
『大大阪便覧』(大大阪便覧社 1925.7)【318.2/313NX】
1925(大正14)年の大大阪誕生からちょうど100年。100年を飾るにふさわしい万国博覧会も盛り上がったところです。
『大大阪便覧』は、そんな拡大した大阪市の町名が市電のどこにあたるのか、区役所はどこか、吸収された旧村の新町名は何なのかを知ることのできる資料です。携帯に適した大きさで提供されています。
100年前、大阪の人たちも大きくなった大阪市に右往左往しながら、ポケットにいれたこの本を取り出してみていたのでしょうか。

◆2025年 大阪・関西万博資料の収集について<大阪資料・古典籍課>
大阪の貴重な地域資料として万博関連資料の収集を積極的に行っています。2023年1月から2025年9月末までに約800点(図書、雑誌、ポスター・チラシ、パビリオンのリーフレット等)を収集しました。
開幕前から大阪商工会議所など経済団体に協力依頼をするほか、当館ホームページにて関連団体・企業に寄贈を呼びかけたり、会期中は大阪府職員が会場で地道に収集したり、大阪府域公共図書館にも協力していただきました。収集した資料は、順次整理しています。
【資料例】
・『日本館』(経済産業省/日本国際博覧会協会)
・『ガスパビリオン おばけワンダーランド』(日本ガス協会)
・『大阪・関西万博グルメガイド』(日本国際博覧会協会)
・『行こうよ!万博へ! 2025年大阪・関西万博大阪のこどもたちをご招待します』(大阪府)
◆イベントレポート <ビジネス支援課>
日本政策金融公庫との共催セミナー「ビジネス作成体験プログラムin中之島図書館」
ビジネス支援課では、起業を検討している方に向けたサービスとして、起業に関する資料の収集やパスファインダーの作成に加え、ビジネスセミナーを開催しています。令和6年度からは、日本政策金融公庫との共催セミナーを開始しました。今年度は高校生・高専生(1-3年生)を対象に、ビジネスプランの作成をテーマに開催しましたので、紹介します。
講師:藤田 竜太朗さん(日本政策金融公庫)
開催日時:令和7(2025)年8月18日(月曜日)14時から17時まで
ビジネスに関する予備知識がない方も参加できるよう、1から丁寧に説明することをコンセプトに実施しました。開催日は夏休み期間中でしたが、意欲の高い4名の高校生が参加してくれました。
セミナー当日に初めて顔を合わせる人もいるため、アイスブレイクから開始。緊張がほぐれたところで、ビジネスプランのテーマについて検討しました。今回は講師が用意した3つのテーマ案の中から、「水都大阪を活かした観光ビジネス」を考案することにしました。
まずは、「オズボーンのチェックリスト」の視点から、アイデアを出していきます。その後「お金を払ってでも欲しいものか」「セールスポイントはどこか」といったビジネスに必要な要素を盛り込み、ターゲットを具体化することでプランに磨きをかけていきました。
完成したビジネスプランは「水上アスレチック」イベントの開催。入場料で収益を上げ、年齢によりアスレチックの難易度や景品を分けて設定するプランで、プレゼン形式での発表を行いました。講師からは具体的な改善案のフィードバックもあり、実践的なセミナーとなりました。

日本政策金融公庫との共催セミナー「ビジネス作成体験プログラムin中之島図書館」
ビジネスに役立つ幅広い情報をご提供するため、大阪中小企業診断士会との共催で開催している「学んですぐ実践!仕事力・経営力アップ講座」では、毎回、異なる専門分野をお持ちの中小企業診断士を講師としてお招きし、仕事や働き方に活かせるテーマをわかりやすくお話しいただいています。令和7年度は、6月から令和8年3月までの10ヶ月間、毎月第3水曜日に開催しています。今年度実施済みの講座から、特に盛況となった第3回の様子を紹介します。
テーマ:「初めてでも安心。元銀行員が教える、やさしい決算書の読み方」(第3回)
講師:前川 史彦さん(KSサポート 代表)
開催日時:令和7(2025)年8月20日(水曜日)18時30分から20時まで
「黒字」「売上が多い」「現金が多い」「利益が出ている」状態の会社は一見問題ないように見えますが、必ずしも良好な状態とは限らないことを念頭に決算書を読む必要があるという導入から講義がスタートしました。
損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)の三表のつながりを意識して読むことで、会社の状態を正しく確認できるといった詳しい解説のほか、流動比率やROA、ROE等の、決算書を読み込むために必要な考え方についても確認しました。
最後は、決算書から会社を推測するクイズ形式のワークで、内容をおさらい。講義後は質問も多く出ており、今回のテーマの興味・関心の高さを感じるセミナーでした。

~カウンターより~
書庫見学ツアーを再開しました
書庫の建替工事により中止していた見学ツアーを令和7年3月から再開しました。
ツアーでは、中之島図書館の開館から現在に至るまでの経緯を紹介しながら、中央ホールや本館書庫といった重要文化財指定エリア、令和7年1月に完成した新書庫など、利用者の方が普段入ることのできない場所も含めて案内します。参加者の方にとってはもちろん、案内を担当する職員にとっても、より図書館のことを知るためのチャンスになりました。
私がツアーの案内を担当した当時は、中央図書館から初めて中之島図書館に異動となり4ヶ月程の頃でした。また、私が司書として採用されたときにはすでに建替工事が始まっており、新書庫の前身となる2号書庫、3号書庫は解体済だったため、建替の前後の様子を間近に見ることができませんでした。
そんな中、ツアーに向けた準備のために資料にあたり、先輩職員に話を聞くことで、知らなかった図書館の歴史を知る機会となりました。参加いただいた方々にも、その歴史や、開架では見えない所蔵資料に興味を持って楽しんでいただけたように思います。
また反面、書庫の資料は開架のように自由に眺めることができないため、普段の利用にはやはり一定のハードルがあると感じます。ツアーを通じて図書館や資料のことをさらにお知らせすることで、図書館ご利用の皆様に様々な資料を届けられるよう、努めていきます。
(ビジネス支援課:TS)


大阪資料・古典籍室で働いてみて
私が司書として初めて大阪資料・古典籍室(以下「大阪室」)に勤務してから、2年が経過しました。ここでは、大阪室で過ごしてきた2年間を振り返ってみたいと思います。
大阪室では、大阪に関する資料のほか、古典籍資料を取り扱います。配属当初、上司より当館所蔵の古典籍や、特別コレクションについて説明を受けました。ですが、私はそれらの古典籍資料や特別コレクションに対して「利用自体は少ないだろう」と思っていました。
実際、大阪室で働き始めてみますと、私の予想に反して古典籍資料の利用は多く、日本全国、果ては海外から様々な方が来館されます。閲覧の目的は様々ですが、100年以上も前に残された資料を、現代でも求める人がいることに、まず驚きました。
また、大阪室では郷土関係の調べ物のほかに、ご自身のルーツを調べられる方も多くいらっしゃいます。なかなか見つからないことのほうが多のですが、こういった「自身のルーツを探る」調べ物は、大阪室ならではのものかと思います。また、大阪室での調べものは、当然大阪に関することが多いのですが、自分が今まで意識してこなかったことに気づかされる調査もあります。大阪に長い間住んでいる私でも、改めて考えてみると、疑問に思うこともしばしばです。日々の気づきを大切にし、大阪をより深く知れる大阪室を形作っていきたいと思います。
(ビジネス支援課:S)

開館時間 月~金 午前9時~午後8時
土 午前9時~午後5時
休館日 日曜日・国民の祝日及び
休日・年末年始・6月、10月、3月の第2木曜日
発行者 大阪府立中之島図書館
〒530-0005
大阪市北区中之島1-2-10
℡ 06-6203-0474