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本蔵-知る司書ぞ知る(133号)

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本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

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2025年11月20日版

今月のトピック 【農村で生まれたアート】

もうすぐ12月。芸術の秋ももう終わりです。当館の人文系資料室には美術や工芸の本がたくさんあり、季節にかかわらず芸術を楽しむことができます。今月はその書棚で見つけた「農村で生まれたアート」の本3冊を紹介します。

はじめまして農民美術:木片人形・木彫・染織・刺繡』(宮村真一/監修 小笠原正/監修  グラフィック社 2022.10)

大正期に画家の山本鼎(かなえ)が始めた農民美術運動のもと、全国の農村の若者たちが作った木片(こっぱ)人形や手工芸品を紹介しています。木片人形は草津の湯もみなどの地域のもの、登山やスキーのような当時の流行を表したもの、胴体がボンボン(キャンディー)入れになる実用的なものなどとデザインはさまざまですが、どれも木彫りならではの温かみとかわいらしさがあります。

こんなに楽しい中国の「農民画」』(上田尾一憲/[編]著 魁星出版 學燈社(発売) 2007.10)

中国の農民が描く農民画42点を収録しています。題材はお祭り、収穫、漁、物干し、ウサギなど日常の身近なこと。色使いが鮮やかなのが特徴で、農民画の盛んな金山と戸県どちらの地域でも「馬利(マリー)」というメーカーのポスターカラーが使われているそうです。巻末に1906年から1983年生まれの17人の画家紹介があり、その生活や人柄を感じることができます。

水の生きもの』(ランバロス・ジャー/著 市川恵里/訳 河出書房新社 2013.10)

インドの民俗絵画ミティラー画の絵本です。ミティラー画はインドビハール州の農村の女性たちが生み出した、祭りや儀礼の際に家の壁や床に描かれる絵です。ガンジス川のほとりで育った作者が、魚、カメ、蛇、蓮などの伝統的なモチーフと水を細かな線で描き、独自の情景を表現しています。手漉き紙にシルクスクリーンで手刷りされた本で、手触りもとてもよいです。

今月の蔵出し

過去カラ来タ未来』(アイザック・アシモフ/著  パーソナルメディア 1988.12)

今、身の周りにあるものを見て、「20 年前にこの生活スタイルを予測できたか」と考えます。SNSの返事をAIがサジェストしたり、家電がスマホで遠隔操作できたり、そんな未来は予測できませんでした。
本日紹介する本は、もっと過去の時点から未来を予測したイラストを収めた本です。

この本のイラストは、1899年に約100年後である2000年時点の未来を描いた予想図です。商業画家であるジャン・マルク・コテが、20世紀の到来を記念する祭典で公開するものとして制作し、シガレットカードなどの形で世に出るはずでしたが、カード製造会社が倒産したことで世に出ることはありませんでした。
時を経て発見され、アイザック・アシモフがイラストに科学的な見地から解説を付した資料が本書です。
イラストは、科学的に正しいことよりも楽しい未来を夢見て描かれたと思われるものが多いです。
例えば、「鯨のバス」。鯨に縄でゴンドラを括り付け、海底を進む様子が描かれています。現実の鯨は海面に出たり潜ったりするために実現はしませんが、ファンタジー要素の強いイラストとして楽しめます。
また現実的な悩みを反映したと思われるものもあります。「家事ロボット待望論」は、家政婦が石鹸やブラシを付けた機械を操り掃除している図です。いつの世も家事から解放されたい気持は同じだなと思わされます。この未来図はロボット掃除機の形で実現しているとも考えられます。
この他、空を飛ぶことに関するものにかなり紙幅を割いていて、消防士や税関職員が羽根のようなものを背負って空を飛んでいる様子を描いた図などもあります。

コンピューターの出現を予測できないほど遠い過去に描かれたものなので現実と合わないものもありますが、100年前の人が夢想した未来の中には、一歩ずつ着実に積み重ねられた技術の進歩により叶えられたものもあります。
遠い未来のことを夢のように思い描くのはけっして無駄なことではないし、未来について考えるのは楽しいと思わせてくれる1冊です。

【河原町しげを】

まぼろし万国博覧会(ちくま文庫)』(串間努/著 筑摩書房 2005.4)

早いもので、2025大阪・関西万博も終わってしまいました。万博を楽しんだ延べ2558万人の皆様、万博ロスの具合はいかがですか。
私は今も写真を見返したりして、思い出に浸る毎日です。

今回紹介するのは、そんな万博ロスの心を癒してくれる、1970年の大阪万博(以下、70年万博)についての本です。
昭和レトロ文化研究家の串間努氏が、多数の資料をもとに70年万博の姿に迫っている渾身の作品です。

著者が主宰する「日曜研究社」で読者から寄せられたアンケ―ト回答の紹介を中心に進められるのですが、それが何より面白いのです!1970年当時子どもで万博を経験した方々が、約30年後にアンケートに答えているのですが(この本は、最初、1998年に小学館から発行されました)、どんな服装で、誰と来たか、どんな交通手段で来て、どこに泊まったか、どのパビリオンに入ったか、何を食べたか、どんなお土産を買ったか、そのすべてが、エピソード形式で語られていて、70年万博という空前絶後のイベントを生きた1人1人の姿が目に浮かびます。また、それに対する著者の愛あるツッコミがとても楽しく、電車の中で読むときは吹き出さないように注意が必要です。疲れた、ズルしちゃった、なども全部ひっくるめて「でも、楽しかった!」ということが伝わってきます。他にも、万博事件簿などのコラムや、元ホステスさんへのインタビューなどもあり、盛りだくさんで読後は胸がいっぱいになります。

今、70年万博を振り返る本はたくさんありますが、企画・運営目線ではなく、参加者目線での万博の姿をこれほどまでに鮮やかに描き出したという点では、この本の右に出るものはないのではないか?と思います。

この本を読むと、70年万博のとてつもない偉大さを感じるとともに、今回の万博もそのDNAを継いでいたんだなぁと思います。いつか、今回の万博についても著者がまとめてくれないかなぁ。もしその時が来たら絶対アンケートに回答したいです(こどもじゃないから無理かな?)。

 【ハチ公】

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